3話『冷酷な男』は妹を溺愛する

始業式ということで昼に授業は終わり帰る支度をしていた。


「バイバイ財前くん!」


「うん、バイバイ笹森さん」


 なんだろう、すごい嬉しい。彰文以外にバイバイとか言ったのいつ以来だろう。


「へぇー、あの友明がねー」


 ニヤニヤしながら、彰文は俺のそばまで近寄ってきた。


「なんだよ」


「いーやー、べっつにー。ただちょっと嬉しそうだったからさー」


「もしかして顔に出てた?」


「顔には出てないぞ。雰囲気が嬉しそうだったからわかっただけ。大丈夫、目つきはいつも通り悪いから」


 彰文はそう言いながら、俺に向かって親指を立てた。

 それのどこが大丈夫なんだよ。こいつ、なんでこんなうざいんだろう。


「てか、笹森があんなに興味津々とはな」


「彰文の知り合い?」


「1年の時は同じクラスだったからな。あいつ、美少女で結構有名だから、知らない奴はいないんじゃないか。もしかして知らないのか?」


「うん、知らなかった」


「そりゃそうか、あんまり人と関わってなかったもんな。それに、お前は俺以外に友達いないからな」


 腹を抱えて笑ってやがる。こいつ、一発殴っても文句言われないよな? さすがにそんな物騒なことはしないけどさ。


「今日は一緒に帰るか?」


「ごめん、今日は妹を迎えに行かないといけないからさ」


「それなら仕方ないか、友明はシスコンだからな」


「おい、シスコンは取り消せ。違うぞ、シスコンじゃないから。妹のことをちょっと溺愛してるだけだ」


「わかったから。じゃあまた明日な」


「わかればいいんだよ。また明日」


 彰文に手を振り、正門の方へと向かった。


 高校の通学途中に、妹の通っている中学校がある。俺は出来るだけ足早に妹の下へ向かう。

 中学校が見え、正門の前には1人の女の子が立っていた。あれは、どう見ても妹の秋穂だ。


「あっ、お兄ちゃーん!」


 あっちも気付いてたらしい。満面の笑みでこっちに手を振ってる。うん、かわいい。

 手の振りと一緒に、ショートの黒髪が揺れている。かわいい。


「秋穂、学校お疲れ様」


「お兄ちゃんもお疲れ様!」


 この笑顔が見れるから頑張れるな。秋穂がいなかったら、間違いなく不登校だよ。


「あのね、お兄ちゃん」


「んー、どうした?」


「あのね、コンビニでアイス買ってから帰ろ? だめかな…?」


 あのね、うちの妹これ狙ってやってるんですかね。身長が俺の肩くらいしかないから、どうしても上目遣いになるんですよ。それでおねだりって、断れるわけないじゃないですか。


「いいよ。なに食べよっか?」


「うーん、バニラもいいし、チョコもいいし…」


 顎に手を当てながら考える妹。うんうん、悩みなさい、悩んで人は大人になるんだよ。それにしても考えてる姿も絵になるなー、うちの妹は。

「そうだ!」といい、手を叩いた。何か閃いたのだろう。


「私がバニラ買うからお兄ちゃんはチョコにして! それを半分にすれば両方食べれるね!」


 秋穂は子供のような無邪気な笑顔でそう告げる。


「そうだな、そうしよっか」


 いつもの癖で秋穂の頭を撫でてしまう。撫でるたび、秋穂は気持ちよさそうに目を細めた。


「えへへへ、お兄ちゃんに頭撫でてもらうの好きなんだー!」


 ぐはっ!!

 な、なんなんだ、このかわいい生物は! 中学3年生って反抗期とか来るもんじゃないのか!

 …いや、まてよ。もしかしたら、高校生になってから反抗期が来るんじゃ…。


「秋穂!!」


「き、急にどうしたのお兄ちゃん…」


 俺が急に肩をガッと掴んだせいだろう。秋穂は何が何だか分からないような表情でこちらを見つめる。


「秋穂は反抗期なんて絶対来ないよな? 俺のこと嫌いとか言わないよな?」


「そんなことは絶対ないと思うよ! だってお兄ちゃんのこと大好きだもん!」


 あ、秋穂…。なんていい妹なんだ…。お兄ちゃん泣きそうだよ…。


「でも、お兄ちゃんに彼女ができたら反抗期になるかも…」


「なんか言った?」


「ううん!なにも言ってないよ!」


 気のせいかな、秋穂から真っ暗なオーラが見えたような…。うん、気のせいだよな。うちの妹に限ってそんなことはないか!

 

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