2話『冷酷な男』は心躍る
一本道を通り、貼り出されたクラス表を確認してから、靴箱へ歩みを進めた。靴からスリッパに履き替ると階段をのぼり、長い廊下真っ直ぐ進むと教室の前に着いた。
教室からは楽しそうに喋っている声がドア越しでも聞こえる。ガラガラとドアを開け教室に足を踏み入れると、シーンという効果音が聞こえそうなほど、静かになっていた。
――さっきまでドア越しでも喋り声が聞こえてたよな……幻聴? もしかして俺が教室入ってきたから静かになったとか? 流石に違うよな。違うと言ってくれ。
心の中でそう呟きながら黒板に貼ってある席を確認し、窓側の1番奥にある席に座る。
するとクラスがまた違う意味でざわめきだした。
「ま、まじかよ……。財前くんと同じクラスなんて……」
「終わったよ……。俺の人生は終わったよ……」
「落ち着け! まだ死んだと決まったわけじゃねぇ!」
うん、やっぱり原因は俺だった。そして、そんな物騒なことはしないぞ。みんな俺のことをなんだと思ってんだよ…。
肩を落としていると、俺の肩をトントンと叩いてきた。誰だなんて思わない。だって、この学校で喋りかけてくるやつなんて、幼馴染のあいつくらいしかいないから。
「よう、友明」
「おはよう、彰文」
「まーた変なこと言われてんな。さすがは『冷酷な男』と呼ばれるだけある」
「ちゃかすなよ。結構傷ついてるんだからな」
「そうかそうか」
はにかみながらそんなことを話すこいつは、幼馴染の
でも彼女がいたことはないらしい。なんで作らないのか聞いてみたら「俺の顔が好きなだけだろ。そんな人と付き合っても結局別れるだけだから」だそうだ。俺も一回言ってみたい。
学校の成績も優秀で欠点らしい欠点は…1つだけあるな。あれだけは本当に欠点だな。
「どうした、考え事か?」
「いや、なんでもないよ」
「それならいいんだけどさ。てかさ、考えてる時の目つき、本当悪いよな。なんとかならないのか?」
「うるさい、なんとかなるわけないだろ。気にしてんだよ、ほっとけ」
そう答えると、彰文は顔を真っ赤にさせ笑う。
そんなに笑うことじゃないだろ! こっちは本当に気にしてるんだからな!
ガラガラと教室の前扉が開き、先生であろう白髪まじりの男性が教室に入ってきた。
「先生きたから席戻るな」
「もうこっちくんな」
「そんなこと言って、本当は来て欲しいくせに」
ウインクしてきた。うん、めちゃくちゃ気持ち悪い。周りの女子はめっちゃキャーキャー言ってるけど。
「今日は始業式だから…」
白髪まじりのおっちゃん先生がそう話を切り出した。
そういえば、隣の席はずっと空いてるけど休みなのかな。
もしかして俺が隣の席だと分かって帰ったとか!?
隣の空席の理由を予想していると、教室の後ろ扉がガラガラと勢いよく開かれた。
「遅れましたー!」
「まったく初日から遅刻とは何事かね」
「あはは、寝坊しちゃってー、ごめんなさい」
悪びれた様子もなく天真爛漫な笑顔で謝っていた。
それにしても美少女とはこういう人のことを言うんだろうな。髪の毛は茶髪で、肩のちょっと上くらいまである。タレ目気味の大きな目は小動物のようだ。うん、俺もあんな目に生まれたかった。
そんなことを考えていると、彼女はこちらへ向かってきた。それはそうだろうな、席は俺の隣しか空いてないし。
彼女は席の前につき、俺に向かって一礼しながら挨拶をしてきた。
「お隣さんこれからよろしくお願いします…あっ!」
この「あっ」は多分あれだ。隣の席が俺だということに気が付いたんだろう。実際、今まで隣の席になった人には謝られるか、命乞いしてくる人ばっかりだったからな。
「『冷酷な男』って呼ばれてる人だ!」
指をさし、悪びれた様子もなく俺に向かってそう告げた。
その言葉にクラスが凍りついた。そりゃそうだろう。だって命乞いとかされるやつだよ。そんなやつの前で指さして、『冷酷な男』なんて言えばクラスも凍りつくよ。
「喋ってみたかったんだよー! ねぇ、名前はなんて言うの?」
――この反応は予想外だ。喋って見たかったなんて言われたのも、こんなに興味津々に名前を聞かれたのも初めてだ。
俺は恐る恐る彼女に質問を投げかけた。
「俺のこと怖くないの?」
腕を組みながら、彼女は答えた。
「怖いっていうか目つきが悪いだけじゃない? それに、人を噂や外見だけで判断しちゃダメだと思うんだ!」
本当に予想外だ。こんなことを言う人は今までいなかった。だいたい俺だと認識したら、逃げていく人しかいなかったから。
「ねぇ、名前教えてもらってもいいかな?」
俺は嬉しくて頬が緩みそうになったが、それを我慢して自分の名前を告げた。
「俺の名前は財前友明です」
「財前くんね!」
聞こえてるぞ、お前ら。あの極悪非道人が人に名前をとか。…まって、俺ってそんなあだ名まであるの?
いや、今はそんなことより彼女の名前を聞かないと。
「えっと、君の名前は?」
彼女は弾けるような笑顔で名前を教えてくれた。
「私の名前は
「笹森さんね、これからよろしく!」
「うん! これからよろしくね!」
朝とは違い、俺は新学期というものに心が躍っていた。
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