第116話今日、凶、叫
「あ、もしもし。うん。私だよ?どうしたの」
「……そう。もう無理なの?これ以上は絶対?……嘘つき。また、そうやって大人の事情で子供を……!……そうだけど……。そんなの、あんまりだよ」
「着いたー」
「んで、人多っ」
「まあ、三が日ですからね」
駅に着いたイツメンは人の多さに驚きつつも、あと2、3分くらい歩いたところにある神社を目指す。
駅にいる人は何も神社に向かう人だけでなく、帰る人もいるので余計に多く感じてしまう。
高校生くらいのカップルやら、仲睦まじそうな老夫婦、大きな綿あめを持った女の子と、その両横を歩く両親。
本当に色んな人がいて、そして何故か、招来は雫とこういう風になるのかなぁなんて考えをしながら黒兎は歩いている。
そんなふうに周りをしっかり見ていないものだから
「いてっ!」
駅内にある丸い柱というか、広告なんかを入れておける太い柱状のものにぶつかってしまう。
「何やってんの?」
「しっかりしてくれ」
「ほんと、人じゃなくて良かったですよ」
「危ない、そしてダサい」
「彼女として恥ずかしいわ。別れましょう」
とまぁ、全て黒兎が悪いのだが、散々言われ反省と、テンションを下げて駅を出る。
「うわっ、目の前じゃん」
そういったのは優心だった。
神社前の駅ということもあり、駅を出て少し歩くと神社が見える。
もちろんまだ入っていないが、見た感じでも、人はたくさんいるようだ。
「あっ、綿あめ」
優心がさらに、神社の入口に入ってすぐの出店で綿あめが売っているのを見つけたようだ。
「はいはい、買うから買うから、とりあえず先に進もうな」
陽が優心にそう言うと優心は『買ってくれるの?奢り?』と聞くので、仕方なさそうに陽は頷いた。
「仲睦まじそうで何よりだな」
聡がそう言うと、咲良の方を向いて『俺達もラブラブしてもいいだろ?』みたいな目線を送る。
さっきの電車で、イチャイチャを断られたことを根に持っているようだ。
「はいはい、家帰ったらね」
咲良はそう答えると聡は『え?家?今日泊まり?』と聞くので咲良は頬を赤らめて『今日は泊まるからそれまで……ね?』と言う。
どちらもバカップルだなと、バカップルの黒兎が思いながらいつの間にか目の前にある鳥居をくぐった。
「黒兎、私には何も買ってくれないの?」
目の前にある出店は参拝後で寄ることになったので、今は奥へと進んでいるのだが、出店が気になるのか雫が聞いてくる。
都会と言うだけあって、地元とは比べ物にならないくらい、一種のお祭りのようだった。
「なんか買って欲しいの?」
そう言うと、雫は悩んだように辺りを見回す。
「そうね。……まずりんご飴」
「ん?まず?」
「次に唐揚げ」
「次に?」
「たこ焼き、イカ焼き、あぁ、あとおたふくあめ」
「多くないですか?破産させる気ですか?」
「そんなんで破産しないわよ。金持ちが何言ってるんだか。つづけて……」
「あぁぁあ!多いわ!破産うんぬん以前に多いわ!」
「忘れてた!綿あめよ!」
「忘れろ。思い出すな!記憶消してやろうか?第一、今あなたの方が金持ちですよね?バイト出貯めたやつほとんど使ってないですよね?」
そう言うと、雫は『あぁ、あれね』と続ける。
「何時でもあなたの元へ帰れるようにするお金」
そんなことを言われては仕方ない。
「奢ります。奢らせてもらいます」
「いいのよ?別に。私の我がままだし。あーー、何時でも黒兎に会えると思ってたのになー。お金ないと行けないなー」
「今日はなんでも買ってください」
「あら、そこまで言うなら。ありがとう。感謝しているわ」
なんだよあのイチャイチャはと、残りのバカップルが横目で見ながら黒兎と雫の横を通っていく。
「じゃ、先行ってますんで」
「一段落着いたら来てね」
置いていかれそうになるので、必死に追いかけるが、人が多く、なかなか走ってとは行かない。
「はぐれてしまうわ」
雫が少し後ろで人並みにもまれている。
「仕方ないなぁ」
「嬉しそうな顔して、どこが仕方ないのかしら?」
黒兎は雫の手を握った。
「最高にかっこいいわ。惚れてしまいそう」
雫がわざとらしいく何時しかの棒読みボイスで言う。
「照れ隠しか?」
「そんなんじゃないわ」
「じゃあ、なんで俺よりも手汗凄いんですかね?」
「……それは……。というよりデリカシーってのがないのかしら?女子に手汗がすごいだなんて。もういいわ。離して」
「はぐれるだろ?」
「はぐれない。後ろついていくから」
「別にいいよ。手汗なんて気にしてないし」
「私が気にするのよ!」
そんなことを言い合いながらも何とか聡達に合流できた。
「意外に早い到着で」
「それに手なんて握っちゃって」
「雫、顔赤っ」
「ナニしてたんですかねぇ?」
「「何もしてない!」」
「仲がよろしいことで」
からかって満足したのか、みんなでお賽銭をすることになった。
「意外と並んでないな」
陽の言う通り賽銭箱の前には人は多くなかった。
どちらかと言うと御籤やお守りといった方に人が多い。
さっと、6人はお賽銭を済ませ、御籤に並んだ。
何を願った?なんて聞くやつはいなかった。
「まだ開けんなよ」
黒兎が御籤を持って、みんなにまだ開けないように言う。
咲良と雫がまだ列に並んでいて、みんなで、いっせいので見せ合うつもりだ。
なので、他の4人はソワソワしながら雫と咲良が戻ってくるのを待っている。
「はい、戻ってきたわよ」
雫が言う。その後ろには咲良も来ている。
「それじゃせーのだぞ」
「おう。」
「行くぞー!せーの!」
プルルルルル。
「ごめんなさ。電話」
「開けちゃったよ」
雫の神タイミングの電話に反応出来ず、黒兎は御籤を開いてしまった。
「タイミング良すぎだよね」
「これは大吉か?もってるなぁ」
そう言う聡と優心もまだ御籤は開けていない。
陽も咲良も開けてはいなかった。
黒兎だけ見事に開いてしまったのだ。
「……うそっ!」
電話越しの雫に、声にならないような叫びが聞こえる。
「どうしたんだろ?」
みんなが雫のことを心配そうに見ていた。
何事かと思ったその時、ふと、手元の御籤を見た。
「凶って……」
凶。その1文字が頭に飛び込んできた。
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