第115話氷の女王と電車
一月三日。
三が日も最終日。
約束していたイツメンとの初詣。
いや、実際は全員2回目なので二度詣?
そんな事はさておき、今回、露は参加しない事になった。
単純に愛姫の下でバイトをするからだそう。
というより、バイトが目的から愛姫が目的に変わっているような気がしてならないが……
可愛い後輩が出来て良しという事で、もちろん誰も参加しない事に対して何も言わない。
もとより、そんなに強制力が強いグループでも何でもないので、そこのところはみんな自由だった。
「ひっさしぶりー、てほどでもないけどね」
先に集合場所に着いていた優心が言う。
「ええ、先ずはあけましておめでとうとでも言っておきましょうか」
新年の挨拶を交わす雫と優心。
これもメッセージアプリで済ましてしまっていた事だが、なんとなく、顔を合わせると言っておかないといけない気がする。
「そう言えば陽は?」
優心の周りに陽がいない事に黒兎が気づき、優心に陽の居場所を尋ねる。
「陽はね、多分今コンビニにいると思うよ」
優心は道を挟んで先にあるコンビニを指さして言った。
「トイレか?」
「昼ごはん買うって。まだ食べてなかったみたい」
時刻は昼の2時。
少しお昼にしては遅い時間だ。
どうせ陽の事だから『昼ごはん、めんどくさい』なんて理由でコンビニ飯を食べている事はなんとなく分かる。
陽はめんどくさがりなところがあるのだ。
そんなコンビニの方ばかり向いていると、後ろからよく知った声がする。
「あけおめ、ことよろ。んで、なんでみんなそっち向いてるの?」
「今年もよろしくねって、みんなコンビニに用事?」
振り返れば聡と咲良がいた。
どうして向かいのコンビニなんて見ているのか不思議そうに見ている。
「あれ?陽は?」
陽のいない事に気づいた聡が、辺りを見回しながら聞いてくる。
「ああ、それはさ……
ご飯を買いに行っていると言おうとしたその時、なにやら口に含んだ状態、つまり、食べながら誰かが話しかけてきた。
「ふぁから、おふぇがなんだっえ」
やたらと、コンビニのホットスナックの匂いをさせながら、チキンを口いっぱいに、ほうばっていたのは陽だ。
「いつのまに」
ついさっきコンビニを見ていた時には影も見なかったのに、いつの間にこちらの道まで渡ってきたのか。
「いふっ……、いつって、さっきとしか言いようがない」
チキンを飲み込み、当たり前のように陽はそういう。
「嘘だろ?この距離を?」
道幅は数十メートル、回ってくるには、大回りして信号を渡って来ないといけない。
「たまたまお前たちが見てない時に、たまたま信号が青で、たまたま見つからずにここまで来ただけ」
「そんなに偶然が重なるか?おみくじする前に、運使い切ったんじゃねぇの」
そういう黒兎に陽は怒ったようにいった。
「優心と初詣行った時、おみくじ、凶だったんだが」
基本、なんでも出来る陽がおみくじで凶を出しているところを想像すると、なんだか笑えてくる。
「はいはい、とりあえず、向かいませんか」
「ええ、そうね。一体なんだったのかしら、この時間」
咲良と雫はすぐに改札に向かっている。
というのも、大きい神社に向かうため、珍しく、隣町よりも遠出をする事になっている。
そのため、もちろん電車に乗るのだが……
「ほら、電車来ちゃうよ」
「やべっ」
みんなで走って改札に向かう、陽と優心はICカードで、そのほかは切符で、なぜか劣等感を覚える光景だが、そんなことより先ずは電車に乗ることだ。
「間に合ったー」
「案外間に合うもんだな」
意外と余裕をもって乗ることができた。
しかし、車内のスペースには余裕がないようで……
「狭いわね」
「仕方ないよ、お正月だしね」
周りには親子や、学生が多いように感じる。
「お昼過ぎの時間だからそんなに人が多いと思はなかったんだけどなぁ」
意外と人の多い車内に驚きながらも、ドアが閉まるのを確認した。
「揺れるわ、ちょっとつかまっていてもいいかしら」
雫がちょこんと、黒兎の服の袖を掴む。
「なんだよ、公共の場でイチャイチャはマナー違反ですよ」
聡はそう言いながら咲良の方を見る。
まるで、俺にもしてほしいと言わんばかりに咲良を見つめる。
「私はつり革届くから」
そういうと、両手をつり革にそえる。
そして小さく『みんないるし』と呟く。
しかし聡には聞こえていないのか、残念そうに下を向いた。
「で、掴んでいいのかしら」
雫は服を掴むようなそぶりを見せながらこちらを見ている。
あまりに可愛くて仕方く、抱きついてしまいたいが、そこは自重する。
「いいよ」
そう言うと、本当にちょこんと、雫は黒兎の袖を掴んだ。
気恥ずかしさから、黒兎は視線を外した。
その時に、身長の低い優心のためにそっと支えている陽が見えた。
なんだか、紳士をしている陽を見るのは、新しい感覚だった。
しばらく電車に揺られていると……
「おおっと、」
大きく電車が揺れた。
それと同時に、もう一人分の重さと言うか、暖かさ感じる。
「くっついてしまったわね」
少し目線を下げれば、そこにはさっきの揺れで、黒兎の胸に寄り添うような形になった雫がいた。
「離れる?」
黒兎はそんな雫に暑苦しくはないかと聞くと、雫は『離れてほしい?』と聞いてくる。
してやられた黒兎は静かに首を振ると、雫は満足げに笑いかけた。
電車の揺れと、自分の心臓の音と、それに妙に早い自分ではない鼓動を感じながら、電車は目的地に向かう。
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