第114話女王のお姉様と清楚ギャル

唐突の自己紹介、そしてそのキャラの濃さに唖然とする2人を置いて、まだまだこの暴走列車は止まらない。


「露っちバイト中に短期バイト探してたんで、これから忙しくなる神社の手伝いを含めてやってもらおうってことになったっす。いやー、それにしても可愛いっすね。巫女服最高っす。もう露っちうちで一生いて欲しいっす。あと、妹さんもちょー可愛いっす。クールビューティで最高っす。なんならやりますか?

巫女服来てみないっすか?てか、着せてぇー。コスプレでもいいから着せてぇー。まぁ、彼氏さんは普通っすね。なんというか、中の上。でも、顔もよく見たらかっこいい感じが出てるっす。とにかく露っちが可愛いから神社の手伝いを頼んでるっす」


とまぁ、よく喋ること。

けれども、何となく、露が神社でバイトをするなんて言い出した理由がわかった。


「はいはい、よく喋ることね」


露は宥めるように愛姫の頭を撫でる。

愛姫も満更な様子で、もっと撫でてと言わんばかりに、頭を露の方に向け、しゃがみ込んだ。


ちなみに、愛姫は背が高い。

露よりも高く、どちらかと言うと、愛姫が露を撫でる方がしっくりくるほど。

そんな愛姫もしゃがみ込んでしまえば、まるで犬のようにわしゃわしゃと撫でられ、しっぽを振って喜んでいるようにも見える。


そんな、少し、いや、かなり癖のある後輩が露にも出来た。


もう一度言うが、外見はちょー清楚黒髪美人だ。


「ってことで、愛姫をよろしくね」


露がえへんと、胸を張るように後輩を紹介するのに、少し微笑ましくもあり、その後輩のキャラに驚きつつも、あと少しだけの、この生活を彩る新たな出会いがあった。そんな濃い初詣だった。


「あれ?もう帰っちゃうすか?」

「まあ、一通り回ったしな」

「夜遊びしてる訳じゃないもの」


愛姫は少し寂しそうにこちらを見る。


「愛姫も、ほら、また遊べるでしょ?それにそろそろこっちも仕事」

「露っちは厳しいっす。さすが先輩っす」


お母さんみたいな口ぶりに2人は


「露がお母さんみたいだ」

「露ってただのバイトてしょ?」


とコソッと言い合いつつも、露に、賑やかな後輩が出来たことを2人で喜びあった。


「それじゃ」

「おやすみなさい。まあ、姉さんは仕事頑張ってね」

「うん。頑張るよ」

「おやすみなさいっす。夜道には気をつけてくださいっす!」


愛姫が深くお辞儀をする。

このへんは、さすが神社の娘というか、深々としたお辞儀は黒兎達が見えなくなるほど続いていた。


「なんか、すごかったな」

「ええ、キャラが滅茶苦茶よ」

「まあ、いい子だし」

「そうね。それにあの子、とても真面目なのね。最後のお辞儀にしても、あそこまでキッチリとしていると、こちらもなんだか、背筋が伸びるわ」

「新年早々、背筋が伸びて良かったじゃねぇか」

「本当よ。で、初日の出は見るのかしら?」

「無理だな。家帰ってそっこー寝そう。」


そう言いながら、黒兎は大きな欠伸をひとつした。


「そうね。私もとても……ふぁーわ。欠伸が移ったみたい」

「夜も遅いしな。寝ようか」

「まさか、新年早々誘っているの?」

「新年早々はしたないヤツめ」


黒兎と雫はその後寝た。


もちろん別々で。



一方。あと少し忙しさの残る神社では……。


「お御籤ですか?200円です」


「こちらの御守りは500円です」


「笹の回収はあちらになっております」


露も愛姫もまだ少しだけ、落ち着けそうにない。


随分と静かになった境内も、お御籤やら、御守りやらと、賽銭箱の次はこちらに列が出来ている。


もちろんだが、愛姫は『〜っす』なんて、言葉は一切使わない。

完璧に仕事をこなす。

ON/OFFのはっきりした女の子なのである。


「だいぶ減ってきたね」

「そうっすね。そろそろ今日はおしまいっす」


随分と人が減り、露と愛姫も会話できるほどになった頃をもって、元旦のお仕事は終了。


朝とお昼は他の人がやってくれるとのことなので、2人はゆっくり休むことにした。


「いやー、大変っすね」

「ほんと。愛姫は毎年だもんね」

「えへへ。そうっすよ。褒めてください」

「はいはい、えらいえらい」


露は愛姫の頭を撫でる。


「これが毎年って、辛くないの?」

「辛くないっす。やり甲斐があって、それに三賀日だけっすから。」

「そんなもんかぁ。てか、すごい気になってて、今までは言えなかったけど、その〜っすってやつなんなの?癖?」

「あー、この口調っすか?」

「そう、それ」

「癖と言うか、なんというか。この家にいると、なんだか人と遠く感じる時があるんですよね。神社って、こう、近くて遠い存在というか、神様、仏様ってそんな感じしませんか?」

「まあ、確かに」


『〜っす』と言わなくなった愛姫は真っ暗な夜に浮かぶ月を見ながら言った。


「私はこの家が大好きです。お父さんもお母さんも、お仕事で来てくれる巫女さんも、みーんな大好きです。けど、なんて言うか、ちょっとみんなと遠いっていうか、小学校の頃、神社の娘です、なんて言うと家にゲームがあるの?とか、毎日念仏唱えるの?とか、なんというか、神社だったり、お寺さんだったり、そんなの関係なく一人の人間の住む家だから、ゲームくらいあるし、漫画もある、念仏は唱えてないし。けど、そのイメージでどこか、私とみんなは違うんだと、決めつけに近いものが、ほんの少しだけあって、でも悪気なんてなくて、そんなちっさな距離が寂しかったんですかね?そんな気がします。それに、この喋り方って、とってもフレンドリーじゃないですか?明るくて、元気いっぱいって感じがします。イメージの力を知っている私だからこそ、それを味方につけてやるって言うか……まあ、そんな感じっす。」


そんな愛姫に露は優しく頭を撫でた。


「なんすか?そんなに撫でても甘酒しか出ないっす」

「なにかして欲しくて撫でてるんじゃ無いよ。何となく撫でたい。して欲しいじゃなくて、したいから撫でてる。嫌?」

「そんなにこと、ないっす。それに露っちに撫でられると、とっても暖かくなります……。ふぁー。」

「今日はお疲れ様。ちょっと休んだら?」


露は自分の膝に愛姫の頭を置くように、手を叩いて見せた。


「それじゃ、遠慮なく。美女の膝、最高っす」

「はいはい、おやすみ、おやすみ」


元旦の夜は膝にほんのりと温かみを感じさせながら更けていった。

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