第113話氷の女王と初詣とここに来て濃いキャラ


今日は1月1日。元旦。

時間はまだまだ真夜中1時半。


雫と2人、街灯と、いつもならもう暗くなっている家の明かりを頼りに、近くの神社まで歩く。


露はと言うと、その神社の娘さんと仲良くなったらしく、今はバイト中。

巫女をしているそうだ。


初詣のついでに、そんな露を一目見るつもりだ。


2人はお互いの白い息を見る。


「寒いわね」

「初めにあった時の態度の方が寒いかった」

「今は違う?きっとアツアツよね?」

「どーかな?まあ、付き合ってないんだし」

「まあ、それもそうね」


雫と笑い合う。

付き合ってない。ケジメとして2人が選んだ方法。けれど、その熱が冷めたとは誰も言ってない。


すぅっと、雫の白い指が黒兎の方へ伸びた。


雫は言わなくても分かるでしょ?と言わんばかりに、指ぱぁっと開いたり、握ったりしてくる。



それでも黒兎が無視をすると、雫は少し、怒ったように言う。


「寒いわね」


怒って、冷たいはずの声色が、どうしてか暖かくも感じる。


「そうだな」


黒兎はそう答えると、雫の指に指を絡めた。


「手袋、つけてんのにな」


黒兎がそう言うと雫は少し頬を赤らめた。


「ええ、手袋してるのに、冷たいのよ。言ったでしょ?末端冷え性だって」

「俺は、こうして握ってても手、冷たいけどな」

「いいのよ、私が暖かければ」

「俺のことは?」

「しらないわ」


そう、冷たく答えるくせに、一向に手を離さない雫。


そうな、彼女が愛おしくて、黒兎もつい、意地悪してしまう。


もう少しで、この時間が無くなると思えば、愛おしさも寂しさに、それを愛おしさで隠して、それが、寂しさに変わって、そうやって、無限ループに入ってしまう。


もう、いっそ無限ループでもいいから、ずっと彼女がいてくれたら、そう思いながら、手袋越しに彼女を感じて歩く。


「手じゃなくて、体が熱い……わね」

「……甘酒飲まなくても、なんか、熱いな」


なんやかんやイチャイチャしているうちに神社に着いた。


「5円……意外に持ってないものね」


雫が財布の中身を確認しながら言った。

黒兎は財布の中身が見えるようにスマホで中身を照らしている。


「そうだな、10円の偉大さに気付かされる」


財布の圧倒的10円の支配率。

こういう時に限って5円の少なさを恨む。


「うっげ、俺も5円少ねぇ」


4枚しか入っていない5円玉を見て思わず声が漏れた。


「まあ、いいんじゃないかしら、お賽銭一つだけだし、それにお御籤は200円だから、205円あれば大丈夫よ」

「あるよ、205円くらい」

「は?過去の私を侮辱しているのかしら?こっちは一文無しよ?」

「それが今やバイトして、貯めて、金持ちだろ?」

「なんだか、あなたに言われると腹立つわね。バイトしてないくせに私より金持ちなんて」

「こんなところで止まってる場合かよ」

「そうね、さっさと行きましょうか」


鳥居をくぐって境内に入る。て、まだ入っていないんかい、という感じだが、そういうふたりなのだ。


もう、2時近いというのに、普通、ありえないほどの人が賽銭箱の前に並んでいる。


ところで、イツメンとは行かないのか?という疑問に対しては、今日は行かない。明日市内の方で行く。ということになっている。


何せ、みんな恋人がいるのだ。今日はそれぞれ別々にやろうと、そういう話になった。


まあ、1名、恋を忘れ仕事に耽ける者もいるが。


そんな悲しい立場かもしれない露の元に行く前に、この長い列を待ってお賽銭をしてから。


「人、多いわね」

「だな、甘酒あったか」


黒兎と雫は、並ぶ前に甘酒を貰っていた。


手袋を外し2人は両手で甘酒を持つ。


「私の時より暖かいかしら?」

「当たり前だろ?甘酒の温度舐めんな」

「舐めてないわ、言うなら飲んではいるけどね」

「うるせぇ」

「まあ、体の熱さはさっきの方が熱いわね」

「それも、そうだな」


こう、体の外は甘酒の方が暖かく感じるくせに、中は雫と手を繋いでいた方がずっと熱い。


これは世紀の大発見かもしれないと、2人で笑いあっていると、こうも、しょーもないことなのに、いつの間にか、随分と前の方に来ているようだ。


「なに、願うのかしら?」

「言っちゃダメなんじゃないか?」

「それ、意味わかんないわよね。というか、神様なんて、いるはずないのに」

「それ、ここで言うか?」

「それもそうね。でも、いるのなら……」


雫は賽銭箱に5円、投げ入れた。


手を叩く。


それにつられて、黒兎も同じのように投げ入れ、手を叩く。


「じゃ、行きましょうか」

「ん。それで、何願ったんだよ」

「聞いたら叶わなくなるから言わないわ」

「なんだよ、神様なんて居ないって言っておいて」

「もしいる……のならね?」

「なんだそれ」


「……あなたとずっと居たい」


「なんか言ったか?」

「何も?」

「なんだよ、気になるじゃねぇかよ」

「さぁ?それこそ叶わなくなってしまうと困るから」


雫は黒兎の前を歩く。


黒兎は聞いていないことにした。


叶わないと困るから。




「はい、お御籤はこちらです」


聞きなれた声が聞こえる。


何せ、お御籤を売っているのは露だからだ。


「200円です」

「はい。頑張れよな」

「うっさいわね、新年そうそうイチャイチャしに来て」

「それが、巫女の言う言葉かよ」

「ささ、早く行った、後ろの方待ってるでしょ?」

「わーったよ」

「後10分で休憩だから、まっててよ」

「それも、分かったよ」


それだけ話して、黒兎はお御籤を結ぶために列からはけた。


「で、雫さんや、今年の運勢は?」

「聞いて驚くがいいわ!小吉よ」

「微妙」

「やはり、神なんて居ないわね。で、あなたは?」

「大吉」

「大凶の間違えじゃないかしら?」

「大吉です。神様はいました」

「やはり、神なんていないのね」


その他に書かれていたことは、とにかく雫は普通だった。

健康に気をつけろ、勉学に励め、待ち人来るには来る、恋愛……今はやめておけ


そんな感じだった。


黒兎は特に悪いことはなく、強いて言うなら、恋愛気をつけろだった。


当たっていると言えば当たっている。


「おおっ、露っちの妹と恋人さんっすか?」


聞きなれない声で見知った名前らしきものを呼んでいる。


「そだよ。愛姫」


聞きなれた声で見知らぬ人らしき名前を呼ぶ声がする。


そうして黒兎たちの前に現れたのは清楚で、大人しそうで、黒髪ロングで、もう、顔はもちろん、この世の穢れを知らないような、自然に浄化されるような美少女だった。


「紹介するね。こちら、1つ学年が下の神凪(かんなぎ) 愛姫(あいひ) さん。バイトで知り合った、私の後輩ちゃんです」

「どうもっす!愛姫です。神凪です。まあ、どっちでもいいっす。いつも露っちにはお世話になってます。これでも尊敬してるっす。なんというか、露っちに声をかけたのは私で一目惚れっす。可愛くないですか?露っち」


2人は思った。


「「めっちゃ喋るやん」」と


そして思った。


「「外見とキャラバグってるやん」」と


極めつけに思った。


「「聡とキャラ被ってるやん」」と


「「聡いらんやん」」と




「ふえっくし!うぇーい」

「聡?風邪ひいた?」

「大丈夫。咲良。なんか、リストラされそうな雰囲気感じただけ。」

「何それ。バイト?」

「かも」


知らないところで被害を受ける聡だった。

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