第112話選ばれた私

どうするのか、どうするべきなのか、陽は考えた。


けども、考える必要なんてなかった。


この問は陽にとって、あまりに簡単すぎていた。

だからこそ、難しく感じてしまう。


「簡単だよ。誰も選ばない。これが答えだよ」


陽は堂々と父に向かって言った。


父と優心その答えに一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに、父は納得したように陽に言った。


「そうか。なら、なぜ、その答えに行き着いたのかだけ、それだけを教えてくれないか。私が出せなかった答えにたどり着いた理由を」


陽は答えた。

それはあまりに当たり前のことで、でも、それを簡単にできる人間の方が少ないかもしれない。


「ひとり、たったひとりを救って何になるんだろう、そう思っただけだよ。その女性1人救ってなんになる?他の選ばない女性たちは?その会社は?たったひとつの会社を救って何になる?」

「それは……そうだが」

「そうなんだろ?なら、決まりだよ。誰も選ばない。まず救う、救わない以前に潰れそうになる方が悪い。会社の社長だろ?上に立ってるんだろ?それは上に立つ責任?ってのがあるんだろ?それを娘使って、他人に漬け込むような真似しやがって、俺はそんな子供の面倒見るほど優しくない。それだけだよ。」

「それが、お前にはできるんだな。泣きつく腕を払うことができるんだな」

「払う?何を甘いことを、へし折ってやるよ」

「これから、お前は苦労するだろう。そうやって、へし折ってきたツケはいつか、自分に帰ってくるかもしれん」

「それは俺の責任だよ。そうやって、いつか、俺が泣きつく側になったなら、それは俺の責任だ」

「その責任は誰がとる?まさか、俺の責任は俺がとるなんて言わないだろう?その責任がお前に付くもの全てに影響することをわかっているお前が」

「俺が取らなくて誰がとるんだよ。だから、俺はそんな上の者にはならない。そんな泣きつくような側にはならない。なぜなら、俺は上の者だから、泣きつく相手なんていない。上の者だ」

「きっと、それは泣きつく方が楽かもしれんな」

「そうなんだろう。これが俺の責任。俺の大人になる方法」

「そうか、いいだろう。そうしていつか、お前はこの選択を後悔することがあっても、私はお前の泣きごとなど聞かない。泣きついてくるなら、その腕、へし折ってやる」

「ああ、それでいいよ」

「なら、言うことはない。」


父はソファを静かに立った。

扉の前に立ったところで、振り返ると優心の方をみて、陽に言う。


「そうか、誰も、誰も選ばないんだな」


そうい言うと、陽はクスクスと笑った、そうしてハッキリと言う。


「1つ訂正だ、誰も選ばない、はなしにしてくれよ」

「男に二言はないんじゃないか?」

「そんな、古臭いこと知らないね、俺は優心を選ぶよ」

「そうか、なら、優心くん」


優心はドキリとして、慌てて答える。


「は、はははい!」

「君は選ばれたようだ。こんなことを言うつもりはないが、あえて言おう。君は何人もの生活を、人生を犠牲に選ばれた。もしかしたら選ばれてしまったのかもしれん。君はどう思う?陽のことを」

「わ、私……ですか?」


そんなことを言われると、どこか色んな人を、ことを考えてしまいたくなる。けれども、問われていることはこちらも簡単。

結局何が言いたいか、それは、


「陽のことをどう思う……ですか、そんなの、決まってますよ。大好きです。」

「そうか。なぜか、聞いてもいいかい?」

「その、会社とか、全然分かりません。上の責任とか、さっぱりです。知りません。どうでもいいです。私は上のものでもないですし、泣きつく側かもしれません。けれど、陽のことをどう思うか、そう聞かれては大好きですと、答える以外ないじゃないですか」

「君も頼もしい限りだよ、本当に。なら、本気で結婚でもしてみるか?」


父はそう、ふざけたように言った。


「いいですね。旦那さんが陽……悪くないです、今のところ、最高です。子供は何人いるんでしょう?老後はどう過ごしましょうか、もっと近く、結婚式はどうしようか、考えると最高に幸せですね?お義父さん」

「君は……陽よりも、曲者かもしれん。で、どうなんだ、陽」

「そうだな……」


陽は考え込むような表情をする。

そうして、わざとらしく答えた。


「父さん、結婚式どんなのがいいか考えといてくれよ。なんせ、親に感謝を伝える式でもあるしな、孫の顔も見せてやるよ。それまでまあ、待っててくれよ」

「そうか、なら、何も言うまい。だが、あまりはしゃぎすぎて学生のうちに子供なんてもうけるんじゃないぞ、それこそ親の責任が取れるようになってから」

「「わかってるよ! (ますよ!)」」

「それではな、楽しみにしておくよ。孫の顔」


そう言って父は扉を出た。


そうして玄関のドアが音を立てる。


正真正銘これで2人きり。


「さぁて、挨拶しに行きますか」

「挨拶?」

「え?優心のお父さんとお母さんに」

「うっそ、いまから?」

「嫌か?」

「嫌じゃないけど」

「けど?」

「今、もう少し、2人だけで」

「なんだよ、それ、可愛すぎだろ」


ソファにいる優心を陽は抱きしめた。

案の定、優心は顔を真っ赤にしている。


「ちょ、陽!」

「嫌か?」

「……なわけ」

「ねぇよなー」

「それ、私が言うとこ」

「言わさないよってな」

「ふふ、ははっ、何それ」

「いやぁ、なかなかにクサイセリフだな」


そんな、ことを言いながら、2人は笑いあった。

とっても幸せで、なんというか、最高だった。


「なんか、いいな」

「うん」


未だに2人は抱き合ったままだ。


「陽、あついよ」

「暑苦しいってか?」

「そうじゃくて、だから!私があついのよ。もう、頭クラクラ」

「そうかよ。それは大変だな」


「っっっっっっつ……!」


陽は、そっと、優心の額に口付けをした。


「可愛すぎるんだよなぁ」


それから何があったかは、ご想像におまかせする。


その後、優心たちは女子会で恋について語ることになるのだが……


「幸せが溢れすぎ、許容範囲超えてんの、過充電過充電。バッテリー傷んじゃうよって」

「なら、電池の減りも早くなるわね」

「そうなんだよ、だから、充電回数も増えるんだろうね」

「恋は電子機器説」

「何その説」

「咲良は、そんなことない?」

「まあ、無いことはないよね。むしろ共感しかないよね」

「露は?」

「恋人いねぇーですよ、コノヤロウ」

「ごめん……雫は?」

「私?そんなこと思ったことないわ」

「うっそ」

「違うよ優心。雫はね、充電式じゃないから、コードだから、まずコンセントに刺さないと動かないから」

「まあ、いつもベッタリだしね」

「????」


雫にだけ疑問が残った。

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