第110話氷の女王と思いが重い

「おっすー、メリークリスマス&ハッピーバースデー露、冬矢」

「メリクリ」

「おっ!良い匂いするー」

「お邪魔しまーす」

「来たな、まぁ、座れ座れ」


雫にこってりしぼられた後、黒兎たちの準備も済み、予定の時間よりも少し早くクリスマスマス会兼、誕生日会が始まった。


今日の主役は雫、そして22日に誕生日を迎えていた露だ。


「まずは食べましょうか」


雫が言う。


「そんなこと言って、雫が先に食べたいだけじゃないのぉ?」


優心が何気なしにそんなことを言った。


しかし、それが大きな地雷だと黒兎と露は知っている。

なんたってさっきこってりしぼられたからである。


「何か言ったかしら?優心?」


これは雫の優しさでもあった。もう次はないぞという圧力をかけて言う。

しかし、これに気付かないのが、優心という人間なのだ。


「え?だから、本当は早くたべたいだけじゃないのって」

「おわったな」

「そうね。お疲れ、優心」

「え?ドユコト?」

「優心、ちょっとこっちに」

「あ、ちょちょ、痛い。え?どこに連れて行かれるの?」

「まぁ、少なくとも今よりずっと怖い思いをするよ」

「え?今すでに結構怖いんですけど、これより怖いとか無理なんですけど」

「ううっ、あなたのことは忘れないわ!優心」

「死んでないから!てか、この先死んじゃうの?え?」

「さっ、こっちよ。優心」

「いや、嫌、連れてかないでー!」





「さっ、ご飯にしましょう。冷めてしまうわ」


「雫……。怖い。」


帰ってきた雫は笑顔で、優心は恐怖に怯え、対照的な二人を見て陽は言う。


「なに……があったんだろうな」


黒兎は答える。


「さぁな、まぁ聞かないことをお勧めするよ」


笑顔の雫を見て陽は言う。


「そうだな」



「ささっ、ほら食べましょう」

「おう、そう……だな」


なんとも異様な雰囲気で始まったが、いざご飯を食べ始めると、みんな笑顔になる。


「うまい。俺も黒っちに弁当作ってもらいてぇー」

「ありがとよ、けど、あいにく、男に作ってやるつもりはねぇよ」

「それって女の子だったらOKってこと?なら私、作ってもらおうかなぁ」


咲良が言う。


「まぁ、時間があれば」

「やったー」

「やめろ!咲良を取るんじゃねぇ!」

「とんねぇよ!」

「そこ!いちゃいちゃしてる時間があるなら食べる!うっとしい」

「でた、優心のリア充アンチ」


未だ、優心のリア充アンチは健在。


「てかてか、まだ付き合ってないの?優心と陽」

「うるさい露!こっちにもタイミングがあるの。ね?陽?」

「唐揚げうめぇ」

「ぶっ飛ばしてくる」

「いってらー」


唐揚げを食べていた陽に優心のゲンコツが炸裂した。


「いってえぇ!なにすんだよ」

「ばか!ばか!陽の大バカ!」

「いきなり殴っておいてそれはないだろ!」

「知らない!陽の大バカ!」

「しゃあねぇ、付き合うか」

「そうだね。……。え?」

「「「「「え?」」」」」


陽以外が状況をつかめていない様子。

当たり前だ。こんな状況を冷静になっている方がおかしい。


「え?付き合わないの?」


陽は当たり前のことのように言う。


「え?何でそんな当たり前感でてんの?」


当の本人、優心が言う。


「まぁ当たり前だしな。付き合うのか、付き合わないのか?」

「それわずるいよ!じゃ、じゃあ、陽は私と付き合いたい?」

「当たり前だ。それこそ、当たり前だろ?」

「どうして、こんなやつを好きになったのか」

「で、付き合うのか?」

「ずるいよ。答えなんか知ってるくせに」

「知らないなぁ、本人から聞いてないからな」

「……付き合いたいよ。付き合いたいよ!好きだから!」

「じゃあ付き合おう」

「てか聞いてたの?」

「俺の耳はおじいちゃんか」


「「「「「え?」」」」」


周りは理解できていないが、なぜかうまくいったようだ。


「もしかしてカップル成立」

「この状況で?」

「これ私たちの誕生日会よね?祝 陽、優心カップル成立おめでとう会じゃないわよね?」

「主役のはずの私が空気に……」


「熱々のところ悪いけど、飯が冷めるんで」


黒兎は黙々と唐揚げを食べた。

これから陽と優心は幸せいっぱいの学生生活を送るのだろう。

しかし、黒兎はどうだ?

後どれくらい幸せな生活ができるのだろうと考えた時、友人の幸せが少し、眩しく見えた。


陽と優心だけじゃない、咲良と聡に対しても。


「……と……ろと……くろと……黒兎!」

「お、おう」

「聞いてるの?」

「悪い、ぼーっとしてた」

「しっかりしてよ、そろそろ、ケーキとプレゼントにしないかって」


言われて周りを見れば、唐揚げの入った大皿は空になっていた。


「そ、そうだな。ケーキ出すか」


黒兎は冷蔵庫に向かっていく。


「大丈夫か?なんか考え事してるみたいだけど」


黒兎の様子を見て陽が言う。


「ええ、まぁ、きっと大丈夫でしょう」


雫は、多少の心配があったが、そう答えた。



「ケーキだぞ。俺と露の作ったショートケーキだ」


そこには手作りとはいえ、立派なケーキが置かれていた。


「うまそー」

「そんで食べながらプレゼントを露と雫渡していこうと思う」


黒兎はケーキを切り分け、そして、露と雫にプレゼントを渡した。


「開けていいの?」

「当たり前だ」

「それじゃあ」


黒兎が渡したのは家の鍵だ。


「鍵?」

「もちろんこの家のな。まぁいつでも帰ってこいよってこった」

「「重も」」

「え?」

「家の鍵とか重も」

「キモ」

「え?」


イツメンの表情を見ても引いている。


「さすがに家の鍵はねぇ」

「この家結構金目のものもあるし、この鍵売り捌こうかしら」

「ひどい!そんなにやばいか?」


黒兎が不思議そうに周りを見ると、イツメンもプレゼントを出していく。


聡と咲良からは有名コーヒー店のインスタントコーヒーと、それを入れるコーヒーカップ、陽からはみんなで遊べるゲームのカセットと本体 (さすが金持ち) 優心からはテディベア、雫はマフラー、露は手袋だった。


「普通これくらいでしょ」

「まあ、一名金銭感覚バグってる奴いるけど」

「もしかして、相当キモいプレゼントしてた?」


黒兎がそう言うとみんな一斉にうなづきだす。


「まぁ私は嬉しいけど」


雫が言う。


「「「「「きも」」」」」

「天使!」

バカップルはバカップルだった。

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