第107話氷の女王と青春したいんですけど
学校はとうとう冬休み1週間前を切り、気分も雰囲気も冬休み。
憂鬱なテストを終え、やっと学生たちはのびのびと羽を伸ばすことが出来る。
そんな中、のびのびと羽を伸ばすなんてことは出来ず、むしろ、狭い思いをする2人がいた。
それが黒兎と雫だった。
あの日以降、クラスの黒兎や雫に対しての扱い方というのが変わった。
雫と付き合っていたという事実により、黒兎のクラス地位は上昇。
雫も普段は見せない、年頃の女の子らしさを獲得、結果友達が増える。
しかし、そのせいもあってかやけに気を使われるというか、黒兎と雫が話していると、クラスが2人を避けるというのがわかる。
それもこれも、クラスからの思いやりであり、気遣いであることはわかるのだが、何せ居心地が悪い。
あの空気感だけはなれないものがある。
「ご飯行きましょうか」
「おう、そうだな」
現在昼休み。
いつも通り、イツメンしかほとんど居ない空間。
最近は唯一羽を伸ばすことが出来る環境でもある。
と言っても、雫と露が転校すると言った後2日くらいはあまり居心地のいいとは言えなかったが、雫も露もみんながそこまで思ってくれてるなんて嬉しいと、本人たちは満更でもないようだった。
「ふぅ、解放される」
「何が解放されるだよ。幸せな悩み抱えやがって」
「幸せな悩みかどうかは本人たちが決めることだろ?それに悩んでる時点で幸せじゃねぇーよ」
陽は弁当ではなく、購買で買ったパンやらおにぎりにナタデココというミスマッチすぎる組み合わせでご飯を食べている。
「それより、ナタデココとおにぎりて」
「ん?悪いかよ。2時間目に無性に飲みたくなってな、お昼のこと考えてなかった」
「……たまにあるよな」
「……たまに、あるんだよ」
「持久走前に炭酸飲料とかな」
「それは、考えるだろ」
「唐突の裏切り」
ナタデココ、無性に飲みたくなる時、あるよね。
「はいはい、御二方。特に黒兎くん。雫が待ってるよー……ってことでそこは私に代わりなさい!」
「おまっ、……お弁当落とすだろうが」
「陽の横は私の席です」
「はえ?」
横を強引に割って入ってきたのは優心だ。
そして「陽の横は私の席です」という言葉に引っかかる。
「どういうこと?その物言いだとまるで、優心が陽のこと好きみたいだな」
「そだよ?」
「おう、そうそう、そ……え?」
「難聴?そうだよって言ってんの」
「OMG」
突然の告白!かと思えば、黒兎以外は大して驚いていない様子。
それに当の本人の陽まで。
「え?なんでみんな驚いていないの?え?なんでお前は知ってるみたいな顔して飯食ってんの?ナタデココ喉に詰まれ。え?え?みんななんでそうな普通に飯だべてんの?え?え?」
「うるさいわよ!」
「いでっ」
あんまりにも黒兎が騒ぐので雫からの、その名の通りの鉄拳制裁が下った。
「逆に黒っち、気づいてなかった?鈍感すぎでしょ?」
聡は黙々とおにぎりを食べながらナタデココを飲んでいる。
「え?みんな知ってたの?それにお前もナタデココかよ、流行ってんの?おにぎりとナタデココの組み合わせ」
「黒っちうるさいぞ。薬飲むから」
「え?薬ナタデココで飲むの?馬鹿なんですか?」
「グェッホッゲッホごっほおぅえ」
聡はナタデココと錠剤 (風邪の)を吹き出した。
「いや。そうなるでしょ。ナタデココだもん。つぶつぶが喉に詰まるのね。当たり前だよね」
「はいはい、聡、ティッシュ」
「お、悪い。咲良さんきゅな」
「え?無視?みんな無視?イジメ?」
「さっきから1人でうるさいっ!」
「いっでっ!」
1人騒がしい黒兎に露が鉄拳制裁 (肘打ち)を下す。
「えー……俺が悪いんだ。コレ。どうなってんの。それにじゃあ、どうしてみんなは優心が陽のこと好きって知ってんの?」
「女子は女子会で話したから」
露が答えた。
「聡は?」
「行動」
「陽は?」
「行動と今、好きって言われたから」
「じゃあ、俺は?」
「「「「「自分の恋愛に必死だったんでしょ?」」」」」
「私に夢中ってことよ」
「……その通りでございます」
それを言われれば、何も言い返すことは無い。
「それじゃあ、なんで優心は今、行動にでたの?」
「…………………………………お前たちが羨ましいからだよ!!!!!……」
「え?毎日毎日、好きな人とイチャコラしやがって、片方はバカップル、もう片方は同棲バカップル。露にしたって、好きな人と同棲だし?こっちはそれを毎日毎日みて、それで?陽のことが好きかもって、思ったら?お父さんが出てきて?私は陽にふさわしくないと、その間にも雫と黒兎は付き合っちゃうし?は?は?羨ましいんですけど?は?私も青春したいんですけど、青春したいんですけど!」
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが響く。
「青春したいんですけど」
「青春したいんですけど」
「青春したいんですけど!」
壊れたようにそれしか言わなくなった優心を置いて一斉にみんながクラスへと戻り出す。
「青春したいんですけど」
「さ、黒兎行きましょう」
「けどあれ……」
「青春したいんですけど」
「いいの、彼女は手遅れよ」
「いや、手遅れて」
「青春したいんですけど」
「うっ、悲しいけど、きっと彼女のことは忘れないわっ!」
「え?死ぬの?優心死ぬの?」
「青春したいんですけど」
「おいおい、陽、あれ置いてていいのかよ」
「青春したいんですけど」
「ま、時期に戻ってくるだろ、それまで放置」
「青春したいんですけど」
「お、おい、みんな、……」
黒兎もみんなにら連れられるようにクラスへ戻っていく。
「青春したいんですけど……」
彼女の切なる思いは空の向こうに消えていった。
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