第106話氷の女王と質疑応答
クラスにチャイムの音が響く。
ガラガラガラ。
「ごめん、遅れました。はい、それじゃ、ホームルーム始めますよ。みんな席に着いて……みんな?どうしたの?」
担任が遅れて教室に入ってきたことを詫びると、その、クラスの普段とは違う光景に戸惑いを隠せないでいる。
担任の言葉が耳に入ったのか、クラスのみんなは無言で席に着いた。
1時間目の休み時間。
そこでは異様だが、当たり前の光景が広がっていた。
「ごほん。えー、それでは冬矢雫さん、そして月影黒兎の二方は、少し説明の方よろしくお願いします」
聡が咳払いをし、珍しく真剣な表情で、隣同士に座らされた黒兎と雫に問いかける。
その周りには陽や優心、クラスのみんなが囲っている状況だ。
ほかのクラスの生徒が異様なクラスの状況に、なんだなんだと野次馬のように廊下の窓から覗いているのも少し目に入った。
「えー、それでは1つ目の質問です。現在のあなたがたのご関係は?」
聡の質問にクラスメイトも納得の質問だと言う表情を見せる。
「友達……です」
「大好きな友達です」
雫の『大好きな』という言葉にクラスの視線は鋭くなる。
「お、おい、余計なこと言うなよ」
「いいでしょう?ホントのことなんだから」
「お二方、コソコソ2人で話すのではなく、我々にも聞こえるようにお願いします」
「「すいません」」
「ごほん。改めて次の質問です。『付き合っていた』とのことですが、それは本当でしょうか。また、どうして別れたのでしょうか、もう、お互い嫌いになってしまったのですか?お聞かせください」
クラスの視線がもっと鋭くなるのを簡単に感じることが出来る。
ここで嘘を言っても仕方ないので、全て本当のことを答えようと黒兎は決意した。
一方、雫ははなからそのつもりのようだ。
「本当です」
「本当です」
「それではどうして別れたのでしょうか」
「それには……ええと」
「……この件については黙秘を。理由としてはもうすぐわかるでしょうが、それでも私たちだけの話ではないので」
「それはどういうことですか?」
「黙秘でお願いします。必ず時が来れば話します。」
雫は転校することについては黙秘を貫いた。
それは、姉である露にも関わることだし、それに今、転校するなんて言ってクラスを戸惑わせないようにという彼女なりの配慮があった。
それにいつかこの事実は明らかになること、それも、もうすぐで。
だからこそ、これは先延ばしではなく、あくまで時が来るまでとしているんだろうと、黒兎は想像できた。
「それに関しては俺からもお願いだ。いつか話すから、それまでちょっと待ってくれ」
黒兎と雫の答えにクラスは納得いかなそうだが、(主に、雫が好きな男子)一応、その場は通してもらえそうだ。
「分かりました。それでは2人の今のお互いの気持ちは」
「大好きです。何度も言うように、好きで仕方ありません」
雫はそんなことを恥ずかしげもなく、堂々と答えた。
あまりに堂々としているので、クラスメイトは冷やかすでもなく、ただ、口をポカンと開けている。
まさか、あの雫がこんなことを言うとは思っていなかったのだろう。
「黒兎は?」
そう、聡に聞かれて、これで答えられないようじゃ、男が廃ると意を決して言った。
「好きだ。大好きだよ……ほんと」
その言葉にクラスメイトは今度は冷やかす声が聞こえてくる。
「……んじゃ、なんで別れたんだよ」
聡が今までのマスコミみたいな言葉使いから普段のものへと変わっていく。
それは、ほんとに本心からの質問だからだ。
ほんとになんで別れたのか分からない。
そんな視線がクラス中から集まってくる。
「それは黙秘で。理由はさっきと同じだからよ。でも、きっと、いつか話すわ。私がいるうちに」
その答えにクラスはまたもや納得いかないという表情だが、雫の表情を見て、納得せざるおえない。
なぜなら、あんなに寂しそうな表情をしているから。
「……わかった。わぁーった。でもそれじゃ、別れたのに、ほとんど付き合ってるようなもんじゃないか。黒っちも、雫も。なんのために別れたのか俺にはわかんねぇよ」
クラスの言いたいことを総まとめにしたみたいな言葉に、雫は静かに答えた。
「けじめよ」
その言葉にクラス中も、聡も『そう。』としか答えなかった。
「はい、授業まで1分前。みんな解散した解散した」
陽が時計を見て言った。
「それに、わかってると思うが、クラスの男子諸君。冬矢を狙おうとしても無駄だぞ。きっと黒兎しか眼中にない。それに黒兎を狙おうとしても冬矢しか眼中にない。まあ、黒兎を狙うやつなんて、相当物好きか、冬矢しか居ないだろうな」
「うるせー!余計なお世話だ、馬鹿野郎」
チャイムがなってやっと解放された。
「私たちも席に座りましょうか」
「そうだな」
黒兎達もやっと席に着いた。
昼休み。
「ということで、私たち姉妹転校します」
イツメンだけには先に伝えたいと雫と露はいつも通り、昼休みのご飯中に暴露した。
カチャ
咲良の持っていたお箸が落ちる音がした。
優心はお弁当を持ったまま、微動だにしない。
陽は食べようとした卵焼きを落とした。
聡は食べていた卵焼きを落とした。汚い。
「……ということでって、どういうことやねん」
がらにもない関西弁を使って優心が言った 。
まあ、それはそうなるよねって感じの反応だ。
「ということは、ということです。それ以外説明することないです。えー、次の方、どぞ」
露が華麗にスルーする。
食卓が凍り付くなんて言うが、凍り付くというより、時が止まる。この空間だけ、時間が仕事をやめたみたいに、面白いくらいみんな固まってる。
もっと言えば、これをSNSにあげたらバズりそう。
「それじゃ、質問はなしということで」
「頂きましょうか、せっかく黒兎が作ってくれたお弁当を残すのも悪いし」
「お、そうだな。あいつらには悪いが、先に食べ進めるとしよう」
その日遠くから黒兎たちを見ていた生徒は語る。
「ありのまま今起こった事を話すぜ!3人はご飯を食べてるんだ。けど、4人は固まってるんだ。それもいきなり、体の時間を止められたみたいにさ。な…何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何が起きたのかわからなかった…」
この話は、その生徒が漫画の見すぎだということで片付いた。
しかし、その生徒には確実に恐怖を植え付けた。
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