第105話氷の女王にはめられた

「で、結局わかれたと……もしかしてバカの方?」


色々あった初デートの後日、別れたことを露に報告すると案の定というか、当たり前の反応をされてしまった。


「いや、まあ、円満だから、円満破局だから」

「いや、円満なら普通破局しないと思うんだけど」

「姉さん、大丈夫よ。お互いのことを思ってよ。お互いが大好きだからこその選択よ」

「いやいや、お互いのために別れましたーって、それこそ矛盾してるじゃない。もぉー、私がフラれた意味はなんなのよー!黒兎!2文字以内で説明して」

「ない。」

「たえゆそ(こまねよをねやきてんんむ(のねやさゆゆそゆゆ」

「姉さん落ち着いて」


露の頭がおかしくなってしまったがそれもまた、仕方ない。

どちらかと言うと頭のおかしな選択をしたのは自分達なのでこれ以上どうこう言うことは出来ない。


「そういうことで、これからは友達以上恋人未満なんでよろしく」

「どういうことよー!」

「て、それに露ももうすぐこの家出るんだろ?」

「それは……そうよ。母さんとも約束してるしね」


その言葉を聞いて、さらに2人がいる時間が残されていないことを確認する。


「けど、それこそ悲観することじゃない。私たちもいつまでもお世話になる訳じゃないしね。それに、遅かれ早かれ別れなんてものはあるし、それが今後一生の別れになるなんて言ってない」

「それもそうだ。露の言う通りだよ。だからさ、何時でも帰ってきていいんだからな」

「なによそれ、ええ、わかってる。別に今すぐ別れる話じゃないけどね」

「おう」


黒兎は短く返事をしてご飯を作り始めた。




そしてそんなたくさんの選択をした1週間も明け、新たな週に。

季節はもう11月。あと、雫と居れるのも3ヶ月を切っている。


残された行事という行事はなく、唯一冬休みがあるくらい。


「おはよう」

「おはよぉ」


陽と優心が教室に入ってきた黒兎と露と雫を見て軽く挨拶をしてくる。

優心は眠たそうだ。


「おはよう」


黒兎は返し、席に座った。


目の前には雫が居る。

黒兎の席の前に立っている。


「なんだよ」

「いえ、特に。けど、ちょっと顔を見たくて」

「なんだよ、別にそんなの何時でも見れるだろ?」

「それもそうだけど、今見たいのよ」

「理由になってねぇな」

「あなたの顔を見るのに理由がいるの?」

「別に、見たきゃ見てくださいな。」


そう言うと雫はしゃがんでじーっと黒兎の顔を見る。


「なんだよ、そこまで見られると恥ずかしいな」

「やったわ。久しぶりよ、この感じ、最近あなたにやられっぱなしだったからやり返してやろうと思ってたのよね」

「まさか、そんな理由で」

「あなた、浮かれすぎじゃないかしら?私がこういう女だってこと忘れたのかしら?」


黒兎が拗ねて顔をそっぽに向ければ、自分達がいかに浮かれているかということを知ることになる。




その時、残りのイツメンは見ていた。


(なんか、仲良いなぁあいつら)

(仲良いね。もう付き合っちゃってたり……)

(珍しくあいつら、教室でイチャイチャしてんな、度が過ぎなければまあ、いいか)

(あれ?なんか、ちょっとやり過ぎ感ないですか?)


陽、優心、聡、咲良の表情がだんだんと曇っていく。


(んん???見つめ合い始めたぞ?)

(えっ、クラスの皆さん見てますよ?……えっ?)

(おいおい、ちょっと不味くないか?周り見えてんのか?)

(あれ?ここ、教室ですよ?みんな居ますよ?)


2人のところにだんだんとクラスの視線が集まる。


それもそのはず、元々雫は一人教室に座っている、どこか近づき難い存在で、黒兎はいつもいる周りの男子がスペック高めなだけで、黒兎単体ではそんなに価値の無い人間だと思われてきた。


そんな、真反対である2人が、同じグループで、最近絡むことが多かったとはいえ、ここまで距離が近くなるものかと疑いの目で見始めた。


(ったく……なにやってんのよ!)


露が心の中で舌打ちをする。






黒兎は雫から顔をそむけた。そして雫の顔以外視界に入っていなかったが、今、それが視界から無くなった途端に周りが見え始めた。


視界どころか、意識まで雫しか入ってなかったのである。


(ん?なんでみんなこんなに見てるんですかね?え?なんであいつらは顔を下に向けてんの??えっ、露まで……え?)


「どうかしたのかしら?」


まだ気づいていないのか雫が呑気にそんなことを言ってくる。


「あの……雫さん?視線というか、なんというか、気になりません?」

「そうかしら?私はあなたしか見ていないから分からないわ」


その言葉に男子の視線は冷たく鋭く、女子の視線はまさかと言う視線を向けられる。


「いやー……嬉しいなぁ、はは、さ、席に着いた方がいいんじゃないか?冬矢さん」


黒兎が言うと雫はニヤニヤと笑い始めた。

そんなところは露そっくりだ。


「どうしたの黒兎?いつもみたいに、さっきみたいに、雫って呼んでよ」


ますます、視線が鋭く刺さるのを感じて黒兎は汗が止まらない。


「ナニイッテルカワカンナイ」


そう、黒兎が言うと、女子生徒が雫と黒兎に向かって、皆も気になっていたであろうことを聞いてきた。



「あのー……間違ってたら悪いんだけど……月影と冬矢さんって付き合ってたりする?」


それを聞いてクラスメイトはますますこちらに興味が出たようで視線が集まる。


黒兎がイツメンの方を見れば、露はあちゃー、というような表情で、それ以外はほんとに付き合ってんの?と言う疑問の目でこちらを見ている。


「……え、それは。あの……」


黒兎が答えれずにいると雫が仕方ないと言わんばかりに、けれどもどこか嬉しそうに声を発した。


「ええ、その通りよ。付き合ってた」


その言葉が出た瞬間にクラス授業は大騒ぎ、あの、雫と、あの黒兎が?と言う声があちらこちらで聞こえてくる。


けれどもそんな騒ぎの中、冷静な者も何人か居た。


それがイツメン。

2人が付き合うという可能性も考えなくはなかったのだろう。

けれど、だからこそ、気になった点があった。


「おいおい、それよりも付き合って『た』ってなんだよ」


あの騒がしいクラスが静まり返る。


「ええ、付き合ってたけど、別れたわ。まあ、私は黒兎のことが好きなのは変わらないけれど」


静まり返る教室に始業のチャイムだけが響いた。

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