第101話氷の女王と文字通りの決着

体育祭が終わったあとの放課後。

雫と露に呼ばれ、珍しく一緒に帰ることになった。

片付けなんかのせいで、いつの間にかあたりは暗い。


最初は一緒に帰ることすら、身バレを想像してビクビクしてたのに、今となってはその辺は寛大になったものだ。


「珍しいな、一緒に帰ろうなんて」


黒兎はその珍しさから、帰る途中の信号機で止まったのをいいことに聞いてみた。


「確かに珍しいわね」

「まー、事情も事情だしね?」


雫も露も珍しいことをしている自覚はもちろんあるようで、それも気分や、雰囲気ではなく、事情あっての行動らしい。


「単刀直入に言うわね」


雫が、青になった信号機の道を塞ぐようにして立ち、黒兎の目を真っ直ぐ見ている。


どうやら、話が終わるまで渡らせない気らしい。


「なんだよ。あらたまって」


そう言って目を逸らした黒兎に対して『まったく、こんな時にかっこ悪いなぁ』と露が呆れ顔をする。


それもそうだ。こんな時に情けない。

どうして雫が露が今、こうして黒兎の足を止めてまで言おうとしていることを理解しているくせに、いざ、決断を迫られると逃げたくなる。


「黒兎、私か姉さんを選んで。焦らしてしまうようで申し訳けないわ。けれど時間がないの。どうか、選んで」


時間がない。その言葉にはきっと色んな意味が含まれているんだとすぐに理解する。


いつ、露が、雫が、どこへ行ってしまうか分からない。

そんなの痛いほど今回の体育祭で身に染みている。


そして、それはなんの比喩でもなく、本当に時間が無いんだろう。


「なら、家に帰るまで時間をくれよ。せめて、それぐらい考えさせてくれてもいいだろ?なんたって、こんなに可愛い女子を選ぶなんて、今後一生ないからな」


黒兎はそう言って少し茶化すと、青から赤になっている信号をみた。


(止まってられないよな)


信号機にはあゆみは止められても、この気持ちはきっと止められないから、だから、今、青く変わった信号みて、大きく一歩踏み出す。


もう、後悔も後戻りも出来ないから、したくないから。


「ちょっと話して帰ろう」


信号機を渡った黒兎は雫と露に向かっていった。


いっても、あと5分ほどの時間だ。


「雫はさ、最初なんなんだこいつというか、人の家に我が物顔でいるわ、文句ばっかだわ、と思ったら、悲しげな顔して、家族っていいわねとか、言うんだよ。そんなのさ、ずるいよな、こっちだってもう、雫のいない家なんて考えられないのにさ」


「露はさ、最初会った時は可愛いなと思ったけど、性格悪いし、やり方もゲスいし、顔だけで生きてきてるんだなぁなんて思ってた。けど違った。誰よりも純粋で、真っ直ぐで素直だった。必死に姉ちゃんして、必死に母親と向き合って、必死に俺に恋してくれてる。こんなに嬉しいことないよ」


2人は黙って聞いている。


「ほんとに俺は幸せだよ。こんな2人に取り合ってもらえるほど俺はできた人間じゃないのに。それでも、こんなでも、好きでいてくれるならさ、俺も選ばないとな、ここまでさせて、2人の中から選べないなんて、そこまでの人間でもないらしいからさ、俺」


気づけばもう、玄関だ。


「だからさ、もし良ければ、こんな俺でよければ付き合って欲しい。」



「冬矢雫さん」



その一言で、2人は泣き出した。

玄関の前で泣くせいで、通りがかった人に変な目をされたりもしたけど、それでも2人は泣くのをやめない。


「そ、そんなの、こっちだって、いっぱい、いっぱいいっぱいなのにさ、」


黒兎も二人を見て泣きそうになりながらも抱きしめた。


泣いて震える雫だけを。


「いいのかな、私でいいのかな」


泣いて、腕の中で震える雫を黒兎は離さない。


「いいんだよ。お前がいいんだよ」


そう答えると雫はただ、腕の中で泣きじゃくる。


「露……」


泣いている、露にも手を伸ばそうとすると、それを露は払う。


「わ、私を今から選ぼうなんて遅いから……それに、その手は……私を抱きしめるための手じゃないでしょ?自分で選んだんだよ?私は大丈夫。その手は目の前のその子のために使ってよ」


露はそういうと、涙をとめる。

無理やり止めてるのなんて、見たら直ぐに分かる。


「あー、負けちゃったなぁー。また、雫に負けちゃったよ。小学生から変わらないなぁ。私」


そう言って、涙をこぼさないように上を向いたまま、露は玄関を開けた。


「そんじゃ、せいぜいイチャイチャしやがってください」


そう言って露は家の中に入った。


「私、嬉しい、嬉しいの、こうやって誰かに抱きしめてくれる日を待ってたの、しかも、それが黒兎なんて嬉しいよぉ」


そう言うとまた、泣いて、顔がぐしゃぐしゃになる。


「どうしたんだよ、いつものお前はどうした?普段ならもっと毒っけがあって、つんつんしてるだろ?」


黒兎がそう言うと、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げて言う。


「見て、普段じゃない私を。みんなに見せない私を。あなただけの前で見せる私を見て?どう、呆れた?」


そう言う雫に黒兎は真っ赤になりながらも答える。


「もっと、好きになったよ」







その頃、露は自分の部屋で泣いていた。


「あー、好きだったなぁ。こんなに好きになること今後あるのかなぁ、悔しいなぁ、悔しいよぉ。好きだった分、本気だった分、悔しくて、つらいよぉ。こんな顔雫に見せれないよ。お姉ちゃんだから、雫より、強く、強くなくちゃ」



そう、枕をクッションにして、言う露とは反対に涙が溢れて止まらない。


「大好きだったよ。黒兎」






「好きだよ。雫」

「私も、好き、大好き黒兎」

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