第99話依存していちゃいけない

話がしたいという雫に呆れはしたものの、自分が大人気もなく、感情的になっていたことに気づき、少し冷静さを霧子は取り戻した。


「ええ、そうね。私も1度くらい話をしないとと、思っていたわ」


霧子落ち着いた様子で答える。


「それはありがたい機会を。しかしお義母さん」

「『おかあさん』と呼ばないで、話はするとは言ったけれど、別にあなたの母になった覚えはありません」


そう、少し感情を露わにして答える霧子に雫はもう1度優しく話し始めた。


「ええ、私もあなたの子になった覚えはありません。けれど、覚えるまでもなく、私はあなたを……お義母さんを家族として認識しています」


そう答えた雫に霧子は呆れながらも、恐怖すら覚えた。


どうして自分を母だと、家族だと言うのだろう。

どうしてあの子はそんなにも真っ直ぐ私を見るのだろう。

産んでも育ててもない私のことを。

何も無い私のことを。


「お義母さん、少し話をしてもいいですか?まずは私の紹介からという事で」


雫は自分のことを話し始めた。


「私は不倫でできた子供です。父は言うまでもなくあなたの旦那さんだった人です。母と父は不倫という関係ではありましたが、幸せだったそうです。私ができて、お義母さんの旦那さんだった人はお義母さんと離婚し、母と一緒になると言ったそうです。

母はそれを信じ、私を産むことを決意しました。

しかし、母は裏切られました。その事が告げられたのは中絶ができない状態になってからでした。

母の元には慰謝料と称した、多額の金銭と、愛の結晶から、憎悪の塊に変わった私だけが残されました。

そして母は、私を親戚へと、渡しもう、私の前に現れませんでした。

親戚の元へ行ってからも、転校そして、邪魔者扱いされる日々。

それでも学校は唯一安心できる場所として私の心の支えでした。

そんななか、転校したての私に話しかけてくれたは人がいました。姉さんです。

私は嬉しくてたまりませんでした。

私は姉さんと並び立てるように、なんでもできる姉さんを憧れとして、勉強も、スポーツも、オシャレにだって、小学生なりに努力しました。しかし、それがお義母さんを、姉さんを傷つけてしまったと知ったのはつい最近のことでした。

そして私は姉さんと離れまた転校を繰り返し、そして今いる高校への進学を決めました。高校からは親戚の家から出てもいい、むしろ出て行けと言うので、私は一人、お金と衣類を詰めて家を出ました。しかし寝るところなんてなく、毎日野宿をしながら学校に通いました。学校には親戚が上手く手を回していたようです。私は一人暮らしをしているという許可とていで学校に通っていたことになります。さすがに数週間もしたらお金はなくなり、銭湯やコインランドリーを使うお金さえ厳しくなり始めまた。そんな時に出会ったのが黒兎です。私とそして姉さんの大切な人で家族です。

黒兎は私に家族を教えてくれました。もしかしたら姉さんにも教えているかもしれません。

それからは友達ができ、姉さんと再開しそしてお義母さんにも会えました。

今日、話をしたいというのは私のワガママです。そして私は黒兎に依存して生きたくない。けれど、私に家族と呼べるのは黒兎だけ、けど違う。お義母さんがいる。私は弱い。だからお義母さんに甘えたい。そんなワガママを聞いてくれませんか。わかっています。ワガママできる歳じゃない。けど、最初で最後かもしれないワガママです。どうか私を甘えさしてください」


そんなことを言う雫に霧子はますます呆れる。

けれども、もう、それは呆れを超えてなにか大事なものを見た気がする。


「あなたの過去なんて、説明されても、私の痛みは消えない、そしてあなたの痛みも分からない。だからお互い傷を舐めあえと言うの?」


少し意地悪な質問を雫にする。


雫は考えたがすぐに答えた。


「傷を舐めあというのは違います。傷を噛み合うんです。痛くて、辛くて、苦しくて、それを忘れないように。消して誰かがそんな思いをしないように、自分がそんな思いをしないように。私たちの傷は舐めあったところで消えません。むしろそちらの方が痛む」


雫は真っ直ぐに霧子を見つめる。


「お母さん!私は雫といたい!黒兎といたい!けど、母さんともいたい!だから、少し待って欲しい。せめて1年生の間は」


そう言う露に霧子はため息を着く。


「誰かしら、あなたを。あなた達をそんなふうに変えてしまったのは。黒兎と言ったかしら。挨拶くらいしに来なさい。ここからでないと行けなくなる前に。それまで好きにしたらいいわ」


霧子はそう言って雫と露を後にして学校を出る。



「あっ、もしもし?社長?海外行きの話やはり少し待って欲しいです。ええ?無理?……そんなこと言っていいんですか?私が居なくなると困るのは社長でしょ?なんならこの件降りてもいいですけど……。

急にどうしたって?

ええ、少し2人の可愛い娘の顔を見たらもう少し近くにいてあげたくなったのです」


少しなら、雫の言う家族ごっこに付き合ってやってもいいとほんの少しだけ思ってしまった霧子だ。


だが、まだ、霧子も雫も露も家族になった訳では無い。


だから一生かけてなってみるのも悪くないと思う霧子だ。


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