第83話氷の女王と文化祭3日目2 メイド服

忙しい。


最終日ってこんなに人いるの?


今日は文化祭最終日。

最終日ということもあり、盛り上がりも最高潮。

地元の人や、中学生が、学校見学のついでに文化祭を見て回っている姿も多く見かける。


そして何より……


「いらっしゃいませ。ご主人様。」

「ふっ、あっすいません。」

「い、いえー……。」


黒兎のクラスの男女逆転メイド喫茶は大繁盛。

そしてクラスの売上1位を目指す気合いの入りよう、さらに、何故かお客さんに鼻で笑われる黒兎。


かなり、濃い一日になりそうだ。


「いらっしゃいませ。ご主人様」

「ぷはっ、あ、す、すいません」

「い、いえー」


また、お客さんに鼻で笑われた。

少し気を落としつつも、何とか笑顔で接客をする黒兎。


「笑われてやん……ぷ、はは」


黒兎の姿を見て堪えきれないように笑う陽が声をかけてくる。


なんというか、煽るように笑ってくるので、イラッとくるが、まあ、仕方ないかと、自己完結してしまう。


それもそのはず。

黒兎の今の服装はメイド服……は、もちろんなのだが、まさかのサイズ違いで今、パツンパツンのメイド服を着た、男子高校生が接客をしていることになる。


サイズは手違いということで、咲良と優心が他のメイド服を借りに行っているのだが、それまではこの、パツンパツンの服で過ごさなくてはならない。


いや、ほんとに見てられない。


恥ずかしい思いをしながら接客を進める。

店内は大繁盛。

休む間もないほど忙しい。


「その服買い取って家で着てもらおうかしら」


雫が1度黒兎の全身を見渡した後に、ぷぷっ、とでも言いたそうな顔で言ってくる。


「うるせぇ、あんまり見んな、恥ずかしい」


片手に水を持ちながら、皮肉げに雫を睨む。


「あら、恥ずかしがってる顔も可愛いわ。ほんとにその服買い取りましょうかしら。ほんと、いじめがいがあるわ」

「おいおい、本音でてんぞ」


雫から出る本音にツッコミつつ、


「こちらお水でございます」


と、完璧な切り替えで、文化祭に来ていた中学生4人組の席に水を置く。


「ありがとう、ござ、っぷぷ、ありがとうございます」


4人組の中の一人の女の子が黒兎の身なりを見て笑った。

4人組は男子、女子2人ずつだ。


さすがに女子中学生に鼻で笑われると、同学年以上に笑われることより傷ついたが、なんだろう。

雫に常にいじめられているからだろうか。

そこまでのダメージはなかった。


「いやー、ぷぷ、ですよ。ぷぷっ。実に滑稽なり」

「いや、キャラ、キャラ。露さん。最近キャラおかしいよ」


なんだか語尾とかキャラとかがおかしい露が鼻で笑われていたのを見たのか、いじりに来ている。


「いや、ほんと面白いよ。なんというか、いい意味でキモイ」

「いい意味でキモイとはこれいかに」


いい意味でキモイってなんだと言う疑問を持ちつつ、ニコニコしながら煽る露を少し睨む。


「いい意味でキモイし、いい意味で滑稽だし、いい意味黒兎らしい。あっはは。」

「いい意味多用し過ぎじゃない?いい意味ってつければいいと思ってる?割と傷つくわ!」


いい意味でを使いすぎて、悪口を隠しきれていない露にツッコミつつ、そのままだと、黒兎らしいまで悪口の仲間いることに傷つく。


黒兎はメンタルまで乙女になった。


「ほら、喋ってないで働けよー。黒っち」


ひょろーっと現れた聡が若干身体を傾けて頭だけを見えるようにして黒兎と露に仕事をするように促しに来る。


なんだかんだ、聡が1番働いている気がするが、まあ、きっとそんな事はないと、自分に言い聞かせる。


黒兎的には何事も、陽には負けるが、聡には負けていない……と思っている。


思っているだけで、負けていることの方が確実に多い気がするがそれもスルーで。


「はいよ」


短く返事を返して、接客に戻る。



30分後。


「月影ー、裏来て」


クラスメイトの高松にバックヤードに来るように言われる。


多分、咲良と優心が帰ってきて変えのメイド服を持ってきてくれたのであろう。


バックヤードに行けば咲良と優心が少し息を荒らしながら、手に紙袋を持っている。


走ってきてくれたのだろう。

そして、持っている紙袋には案の定着替えらしきものが入っているのが袋の隙間から見えた。


「はぁ、はあ。ふー。ごめん、遅れた。そんでこれ!」


優心が紙袋から新しいメイド服を出して、目の前で広げた。


「おう、サンキュ」

「いえ、い……ぷはっ。やっぱ無理」


感謝の言葉に、鼻で笑うことで返す優心。

やはりそんなにパツンパツンの服は滑稽だろうか。

自分で全身を見ていないからまだ良く分からない。


「いや、ごめんね黒兎。私も、無理、はっ、ぷぷっ。あっはははは」


咲良も堪えていたが吹き出してしまったようだ。


咲良はスマホを取りだし、黒兎の全体像を撮って見せてくる。

肩を震わせながら、ガグガクと笑っているせいで画面がブレてよく見えない。


しかし、写っているのが自分だということは理解出来た。


「ちょ、かして」


黒兎は咲良のスマホを貸してもらい、自分の全体像を初めて見る。


「……滑稽なり」


露の変な語尾が移ったかもしれない。

いや、それより初めて見る自分の姿があまりに滑稽すぎて、笑いを通り越して、哀れな気持ちになる。


「いやー、これはキモイわ」


自分で見ると今までの反応が正常だということがよくわかる。


「ちょ、黒兎、早く着替えて」

「ほんと、もう、ヤバい無理」


咲良と優心、見ていられないと、顔を逸らし、変えのメイド服を渡してくる。


「ほんと、さっさと着替えるわ」


黒兎はそそくさと着替える。


着替え終わった黒兎は現場復帰。


これでもう笑われない。


「あら、ぷぷっ。着替えたの?なんだか変な気がするわ。逆に滑稽よ」

「うえ?なんで笑われんのさ」


何故だか、雫に笑われる。


そして次は聡と露に会う。


「あれ?黒っち着替えたの?もったいないなぁ。ぷぷっ。あれ?こっちの方がなんかおもろいわ」

「黒兎着替えてやんの。もしかして気にしてた?可愛い奴め。仕方がないから露ちゃんが慰めてあげよう。てか、気にしてるなんて面白いわね」


あれ?なんでか聡と露にも笑われた。


「あ、なんか、着替えるとなんか違うね」

「なーんか、もったいないなぁ」


咲良と優心にも少し笑うような声で言われる。


ちっ、仕方ないなぁ。


黒兎はバックヤードに戻る。


そしてパツンパツンのメイド服に着替えた。


これでもう、笑われない。


「っていう、芥川の鼻風のストーリーね。ちょっと授業でやったからって、すぐに使おうとするなんて滑稽ね」

「うるさーい。でもパツンパツンの方が面白いし、雫も好きだろ?」

「まあ、ね。私はどんな黒兎も好きよ?」

「ふぇ?」


なんだか、幸せな気分だった。






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