第82話文化祭3日目1

眩しい光が窓から入ってくる。

静かな住宅街にことりの声だけが響く。

そんな、爽やかな朝……のはずだった。


「起きろ!」

「んー」


「起きろ」

「んー」


文字だけ見れば同じことの繰り返しに見えるかもしれない。いや、繰り返しと言えば繰り返しなのだが。


1人目の『んー』は居候の冬矢雫、そして2人目の『んー』はそんな雫の姉であり、家出中の霞田露だ。


そして昨日の夜、はしゃぎすぎて、少し夜更かしをしてしまった。

しかし、週間とは怖いもので、黒兎はいつもの時間にきっちりと目が覚めた。


いつも基本的に誰よりも早く起きて、ご飯を作り、雫を起こす。

そんなお母さんのような役回りだった。


なら、いつも黒兎に起こされている雫はどうか。はじめて泊まった露はどうか。


答えは簡単。


「起きろっつてんだろうがー!!!!」


静かな住宅街の理想的な朝に、1人の男子高校生の怒声が響く。


「んー、今何時かしら?」

「もう7時30分だ!」


まだ眠いのか、目を擦りながら雫はベットから降りる。


「んー、今何時?」

「だから!もう、7時半だ!」


まだ眠いのか、大きな欠伸をしながら露は布団から重い体を起こす。


「この、寝坊姉妹が!」

「そんなこと言ったって、眠いものは眠いのよ」


まだ、半目の雫がだるそうに体を伸ばす。


「そうそう。人間の三大欲求って知ってる?金、金、金よ」

「全部同じじゃねぇか」


露は寝ぼけているのか意味わからないことを言っている。

というか、三大欲求全部金って、と黒兎は人間の闇を見た気がしたが、とりあえずスルーで。


「はい、ほら、さっさと下降りる!ご飯できてるから食べとけよ」

「「お母さんか」」

「誰がお母さんだよ」


姉妹仲良く声を揃えてツッコミつつ、リビングへ向かう。


本当に仲良がいい。つい前日まで恨みあってたなどと誰も思うまい。

そんな微笑ましい朝だが、普通に寝坊してるし、投稿までの時間は差し迫っているので、それは、もう、忙しい朝だった。



「おはよ」

「おはよ」

「露ちゃんも」

「うん。おはよう」


学校に着いた黒兎は遠目に、雫と露のことを見ながらカバンを机の上に置いた。


「おはよ」


陽が声をかけてくる。


「ああ、おはよ」


黒兎も軽く返す。



「にしても、良かったな。文化祭3日目は問題なく楽しめそうだ」

「まったくだよ」


陽は少し笑ってみせる。

2日目に迷惑と、そして楽しめなかった分、今日は楽しもうと思う。

そして何より、


「おは、黒っち」

「おはよう、黒兎」

「黒兎おはよー」


イツメンの聡と咲良、そして優心だ。

なんだか一日まともに会ってないだけでなんだか久しぶりな気がするイツメンだが、そんなイツメンと今日はたっぷり遊ぶ。


店番は雫と黒兎、露含めイツメン全員は前半、そして後半からはみんなで遊ぼうということになっている。


なんだかんだ、やっぱりこのメンバーが一番居心地がいい。

そして露も、雫も無事、クラスに溶け込めたのなら、今日はもう、心配いらないだろう。


そんなこんなで朝礼。

もちろん、みんなは文化祭最後の日を楽しむ気満々だ。


黒兎もそのうちの一人ではあるが、何よりみんなが盛り上がっている理由がある。

それは売上げだ。


隣のクラスとはメイド喫茶同士ということでどちらのクラスが売り上げが高いか、勝負を生徒間でしているらしい。


もちろん黒兎は知らない。


そして昨日、初日には勝っていた売り上げが、昨日の露、雫のクラス内美女不在ということもあり、僅かな差だが隣のクラスにリードされている。


そして、今日、そんなクラスのエース2人が帰ってきたこともあり、逆転を狙ってみんな盛り上がっているということだ。


そんなことを知るはずもない黒兎と雫と露はいつも通り着替えて、店番に回る。



「冬矢さん!露ちゃん!今日は頼むよ!」


クラスメイト女子生徒から、なんだか大きな期待をかけられたふたりは、キョトンとしてお互い見つめあったあと、

雫は


「ええ。まあ、善処するわ」


と、少し戸惑いながら、まだクラスがどういう状況なのか理解できないまま返事を返す。


一方雫は


「うん。もちろん。精一杯頑張るね!」


と元気よく、そして周りの期待の意味を完全に理解したようで、周囲の望み100点の答えを返す。


まあ、黒兎や、雫から言えばあんな態度全て計算された偽物なのだが、露曰く、『人を幸せにする嘘つきだから、私は』との事。


まあ、間違ってないので、深くは突っ込まない。


そんな中、昨日いなかったのに、誰からも、期待の眼差しや、声がかからない哀れな男子が一人。


「おいおい、そんな悲しい顔するなよ」

「そうそう。黒っちも、まあ、いないよりはマシだからさ」

「それ、慰めてるの?」


そんな黒兎を見かねて聡と陽が声をかけてくる。

まあ、慰めてるかどうかは別だが。

何とか、声をかけてもらうことが出来た。


「よっし、そろそろ開けるか」


陽がクラスメイトに声をかける。


「みんな、持ち場に、ごー!」


優心がテンションを上げて、号令をかける。


「「おー!」」


クラスメイトが答えるそして。


『只今より、文化祭最終日を始めます。』


いよいよ、文化祭最終日が幕を開ける。



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