第72話文化祭とみんな

これは黒兎と雫がなんかいい感じになっている時の陽や優心、聡、咲良、露の話である。


「いらっしゃいませ。ご主人様」

「いらっしゃいませ。お嬢様」


1人は明るく可愛い声色で、もう1人はなんだかぎこちなく低い声で客を迎える。


陽と優心だ。


「いらっしゃいませ。ご主人様」

「おおっ!これはこれは陽さんじゃないっすか?いや、陽ちゃんかな?」

「えらく可愛い格好してんな。似合ってるぞ」

「可愛いなぁおい」

「はいはい、お席にご案内しますねー」


さっきまでの可愛い声ではなく、明らかに面倒くさそうに、そしてゴミを見るような感じで客を案内する。


店に来たのは陽の他クラスの友達だ。

冷やかしがてらに店を見に来たといったところか。


「なんだよ急に冷たいな」

「だけどそれがいいんだよなぁ。なんというかそそるわ」

「マジで男って知ってなかったら告白してたわ」

「はいはい。ご注文をご主人様」

「おお、怖い怖い」


そんな中で1人残された優心。

そんなところに、


「いらっしゃいませ。お嬢様」

「よっす。ってぷぷっ。」

「おー、優心じゃん。って、やばいその格好」

「似合ってねー。声もぎこちないし。その身長で執事って」

「お席にご案内する前にあの世にご案内させて頂いていいですか?」

「冗談だって」


優心のところにも冷やかしついでに友達が来たようだ。


「ご注文は?」

「私はBセットのカフェオレで」

「私もBセットでクリームソーダ!」

「私はAセットで、そーだなー、優心のオススメで」

「ブラックコーヒーでよろしいですね」

「ブラックはちょっとねー、それは世間は許してくれませんよ」

「ブラックということで」

「ちょっと、ふざけただけなのにー」


優心は180度回って歩き出す。

そして。


「いてっ……」

「おっと……」


「ご、ごめんない……って」

「ああ、悪いな」


ぶつかってしまったのだ。

そしてぶつかった相手はすぐ横を通っていた陽だ。


「そ、その、ちょっと離してくれないかな。さすがにちょっとこの格好は恥ずかしいんだけど」

「わるいわるい」

「ごめんね」


結果から言うと、優心は陽に抱き留められる形になった。


ぶつかってしまった時、幸い手には何も持っていなかったため、食器や、食事を落としてしまうということは無かったのだが、それよりもある意味問題がおきている。


「ちゃんと周り見ろよ」

「ごめん陽。気をつけるね。ちょっと注文受けたから行くね」

「おう」


優心は逃げるように走っていく。


周りなんて見れたもんじゃない。

もう、視界にあの人しか入ってこない。


「お待たせしました」

「おお、さっきラブロマンスしてた優心さんじゃないっすか」

「もう、うるさい!」


優心は設定なんて忘れて雑に食事を置いていく。


「うわっ本当にブラックコーヒーじゃん」

「悪い?」


そんなところに、


「あんまサボってないで働けよー」

「ひひ、陽?」

「なんだ?そんなに俺が珍しいか?いつもいるだろ?」

「それはそうだけど、その、ちち、近い」

「おお、これは失礼。あんまりにおしゃべりに夢中そうだったから気づかないかと考慮した結果だ」

「それは、ごめんだけど……耳元なんて……」

「それは悪かったって。覚えとくよ。優心は耳が弱いって」

「っ……!」


陽は元の場所に戻って行く。


「あー、これは完全にショートしてますね。優心さん」

「熱くない?なんかこの辺熱いなー」

「甘っ!このブラック甘っ!おかしなブラックのはずなんだけどなー?まさか優心が気を利かせて砂糖入れてくれたのかな?」


結果、より冷やかされることになったのだが、そんなの優心に関係ない。


もう、本当に色々と目覚めそうな優心だった。


(これから、陽にメイド服きて貰えるようにオネダリしようかな?)




「いらっしゃいませ。旦那様、お嬢様」

「いらっしゃいませ。ご主人様❤」


そしてここにかっこいい執事ときっもちわるいメイドが1人。


「なんだー?ここはリア充の特殊プレイを見せられるのか?」

「ちょっと紗季!」

「よっ、紗季」

「俺もいるぞ」

「竜星!よく来たな!」

「ちょっと聡、一応接客はメイドだよ」

「おっと失礼。いらっしゃいませ。ご主人様❤」


ここに来たのは聡と咲良のリア充友達?といえばいいのか、お互いリア充の紗季と竜星だ。


この2人もそこそこ有名で、活発な紗季とどこか抜けた竜星のなんとも言えない雰囲気の、まあ、バカップルだ。


「席に案内させて頂いていただきます」

「はーい。」


咲良の先導で席に案内する。


「ご注文は?ご主人様❤」

「おっと、それじゃその気持ち悪い人を下げてくれる?」

「辛辣だな、紗季は」

「まあ、紗季の気持ちも分からなくはないけどね」

「彼女にも言われた!?」


そこそこ辛辣なこと言われつつもなんだかんだ言って楽しそうに接客する聡。


「私はAセットでレモンティー」

「俺はBセットでコーヒー。アイスね」

「かしこまりましたお嬢様、旦那様」

「はーい。待っててねご主人様❤」


聡と咲良は調理場に戻る。


「ちょっと聡さすがにキモイよ。ははっ。」


咲良は笑いながら言う。


「おいおお、そんな事言うなよー。俺だってやりたくてやってるわけじゃない……ことも無いな。楽しいなこの格好」

「やめてよー。変なのに目覚めないで」

「でも、目覚めても、俺の彼女なんだろ?」

「ううっ、ずるいよ。それは」

「どーしよっかなー。次咲良の家行く時はメイド服きて行こうかなー」

「いや、本当にやめてそれは」

「あっはい」


さすがに引かれたのでさっさと料理を持って竜星たちの元に向かう。


「はーい、お待たせしましたご主人様❤」

「お待たせしました。お嬢様」


聡と咲良は料理を置いていく。


「ありがとう。店番終わっら私たちのところにも来てね」

「聡も来るんだぞ」

「おう」

「もちろん。楽しみにしてる」


聡と咲良は店を訪れる約束だけして厨房に戻る。


その時……!


「わっ!」


咲良が聡の足に引っかかりつまづく。


「おっと。」


聡が受け止める。


形としては抱き留める。

というかもう、抱きついている。


「ごめん。聡」

「いいよ。久しぶりに咲良を感じれて嬉しいし」

「ちょ、ちょっとこんな所で……」


咲良は無理やり聡から離れて厨房まで走る。


「そんなに走ってまた、コケるなよー」


この時クラスメイト、そして客全員の意見が一致していた。


(なーんだ。ただのバカップルか)




そんなラブロマンスが至る所で起きている中、携帯を見てニヤリと笑う人が1人。


「つ、露ちゃん?」

「わわっ、どしたの?」

「いや、携帯見てニヤニヤしてるから……」

「別に何もないよ?それよりお仕事しなきゃね!」

「そうだね!行こう露ちゃん」

「うん!」


女子生徒に手を引っ張られて厨房から表に出る。


「いらっしゃいませ。ご主人様!」


一言声を出すだけでその場の空気を一気に自分色に染める。


その笑顔に誰もが釘付けになる。







その、笑顔の下に何があるか知らずに。


人はその娘を天使と呼んだ。

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