第15話氷の女王といつも通り

同居し始めてから初登校。

勿論同居している事がバレることは絶対に防がないといけないため、雫の方が先に家を出る。

その後黒兎も学校に行くのだ。


登校中は至って普通。雫も隣にいないし、いつも通りのぼっち登校だ。


教室に入れば聡と陽が寄ってくる。

顔がニヤついてくる。めんどくさい。

どうせ昨日のことだろう。


「黒っち、昨日の説明してもらっていいですか」

「昨日説明した通りだ」

「おお、そうか」

「あぁ」


苦しいのは分かっている、最悪同居はバレてもそれが女子と気づかれなければいい、更には雫と気づかれなければいいのだ。

そこは何とか誤魔化せそうだった。


「じゃ、昨日ベランダに干してあった女物の下着は?服は?パジャマは?」

「……………………」


ベランダ片ずけるの忘れてたー!やってしまった。もう、同居人が女の子ということがバレてしまった。まずい。


「観念したらどうだ?黒っち」

「諦めろー」

「勘弁して欲しい」

「なにがー?」

「気づいてるんだろ」

「まぁねぇ」

「その子とは一切ヤラシイ関係はない」

「下着とパジャマ干してて?」

「同居してて?」

「うっ」


そこを言われれば黒兎は言い返せない。

高校生の男女が、同居し、互いのパジャマや服、下着なんかが干されているという状況で、何も無いなんてことは普通ない。黒兎がその状況を見ても察するだろう。


「ほんとー?」

「ホントかな?」

「なんもない!ホントだ!」


「まぁそこまで言うなら」と半ば強引に納得させる。黒兎をこれ以上いじるとホントに怒ることを2人は知っている。だからそのギリギリを攻めてくる。ホントにヤラシイヤツらだ。


「ちなみに相手は?」

「個人情報なので」

「気になるなー」

「言わねぇよ!」


チラッと雫の方を見る。あいつはいつも通り女子数人に囲まれている。しかし笑うこともなければ怒ることもない。ただ話を聞いて、相槌をうち、話がスムーズになるように周りに合わしている感じだ。黒兎といる時は逆にこっちに合わして欲しいくらいだ。


「何冬矢さん見てんだよ」

「同居の相手冬矢さんだったりして」

「んなわけねぇだろ。あいつが俺といるとこ想像できるか?」


「無理だな」「無いな」とか傷つくことを言われたが、それにしても鋭すぎる。今、黒兎は

マジで心臓が飛び出そうであった。鼓動は早いし、目は泳ぐし、こんなとこ聡達に見られたらまずいと思い、全力で抑え込む。


その後の学校生活はとても普通に過ぎていった。

雫と喋ることもなければ、もう聡達にいじられることも無い。他の人と絡むこともなければ、

目立つようなことも無い。いつも通りの普通がそこにあった。


放課後、黒兎1人歩いていると後ろから足音がする。後ろを振り向けば雫がいた。


「冬矢、なにしてんだよ」

「いえ、偶然あなたを見つけたから」

「こんなとこ人に見られたら勘違いされるぞ」

「笑止ね。自意識過剰すぎるわ。あなたと私が恋人?笑わせないで、傍から見ても釣り合うはずもないわ」

「お前のその無機質な声で罵声浴びせるの心にくるからやめてくれ」

「あら、この世にはそれをご褒美と言う人もいるのよ」

「俺はドMじゃねぇよ」


「あら、そう」と綺麗に話を終わらされてしまう。雫は何を考えているのかよく分からない。

いきなり会話を初めていきなりやめる。一体何がしたいのか。


でも、心做しか学校の雫よりも活き活きとした雫がそこには居たのだ。本当の雫。彼女の本当とは一体何なのか黒兎は知るはずもない。しかし学校の雫が本当の雫でないことくらい分かる。

どれも雫でどれも雫でない。しかし今の雫は限りなく本当に近い、そんな気がする黒兎だった。



家に着くと雫はすぐに自分の部屋に入っていった。何をしているのか分からないが基本、雫はお風呂や、ご飯の時だけリビングにくる。

ご飯ができたと伝えるが雫に返事はない。

恐る恐る雫の部屋の扉を開けると雫は眠っていた。


「私なんていない方がいい」


雫はそう呟いた。黒兎は雫の顔をよく見る。

雫の涙が一粒零れた。

黒兎はそれを見て自分がどうにかしないとと思った。

雫は夢を見ている。夢の内容を黒兎はある程度想像できる。きっと辛い時期の夢だろう。


黒兎はそっと雫に毛布をかける。雫はきっとこの事を自分から話さない。辛い思いを1人で我慢していることを。だからこそ、黒兎は雫にこれ以上思い出して欲しくない、だから聞かない。これからも、この先も。


黒兎は1人でご飯を食べる。1人で風呂を入れて、洗濯機を回す。

そんないつも通りがいつもじゃ無くなっている寂しさを感じて。

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