第10話氷の女王とパジャマ姿
「よし、それじゃあ寝巻きだ」
「今更だけどパジャマと寝巻きの違いって何なのかしら」
「確か、寝巻きは和服のことで、パジャマは、洋服だった気がする。あとワンピース風のはネグリジェというやつだな」
「月影くんあなたって結構博学なのね」
「そうでも無いよただしょうもないことに興味があるだけだ」
黒兎は結構雑学が好きである。しょうもないことを真面目に研究してそれで有名になった人だっているくらいだ。ニュートンは落ちるリンゴを見て、どうして月やらは落ちないのかと考えたらしいが、常人には理解できない。リンゴが落ちたら、落ちたなといしか思わない。
そんな今までの当たり前をバカ真面目に考えたりすることは、人付き合いの苦手な黒兎にとっていい暇つぶしであった。
「そうね、私が欲しいのは、パジャマのほうね。」
「そうだなじゃあパジャマ、見に行くか」
そして黒兎らは、パジャマ屋に向かって行く。
「どのパジャマがいいかしら」
「そうだな、まぁ冬矢に任せようと思ったけど…センス…大丈夫か」
「失礼ね、私センスいいほうだと思うのだけど。まぁ部屋着だからあまり人に見られないし、万が一、私のセンスがなかったとしても大丈夫よ。万が一だけど」
「念を押さなくても、もちろんセンス悪いですよー」
雫は少し不満げな顔(雰囲気)をしたがパジャマを選んでいく。パジャマといっても結構な種類があるものだ。
モコモコのパジャマに、オーソドックスなパジャマ、ネグリジェに、ズボンやTシャツのようなタイプまで様々である。
「これはどうかしら」
「ん?おぉ結構いいんじゃないか?」
「月影くんがそう言うなら安心ね」
「どうして俺なら安心なんだ?」
「それは、私のセンスがない…かもしれないから安全をとってよ」
「今、自分のセンスないこと理解してたよね?」
「私はセンスある方なのだけど、万が一の安心を取って…よ」
「相変わらず、表情とか感情とか無いけど、言葉の間で分かるよ。隠せてないよ」
「なん…のことかしら」
「そういうとこだよ」
相変わらず表情や感情を出すことはないが、声の若干のトーンや顔の色、言葉の間などで考えてることが分かる。
雫もロボットでは無いので完全に感情が消える訳では無い、ただとても硬いだけなのだ。
黒兎は人付き合いが苦手な分、磨いてきた人間観察力がある。雫は感情を出さないだけで考えてることが単純なのだ。
雫はとても素直な子なのである。
「まぁ月影くんもこれでいいと言っているし、このパジャマにするわ」
「1セットだけ?」
「1セットもあれば十分よ」
「お前変なところで謙虚だよな」
「そうかしら。私は思ったことだけ言っているのだけど」
「1セットじゃ色々困ることもあるから、もう1セット買っとけ」
「まぁ、太っ腹」
「そんな感情のない煽て方は嫌だ」
雫はもう1着のパジャマを探しに行ってしまった。まあ、パジャマが1セットだと洗濯などに影響が出てしまうため、最低2セットは欲しいところだ。次はどんなパジャマが出てくるんだろうと思って雫を見ていると、雫はネグリジェに目を移しそしてすこし経つとまたほかのパジャマを見に行ってしまう。
「これにするわ」
持って来たのは普通のパジャマだ。しかし目はネグリジェに向いている。
「そうだな、これよりあっちのがいいんじゃないか?」
そう言って黒兎は、さっき見ていたネグリジェを指す。
「…………」
「ほら、お前センスないだろ。だから俺が選んだやつにしとけばまぁ、普通くらいにはなるんじゃねぇの」
そう言ってネグリジェを雫に渡した。
ネグリジェは、白で少しレースのある。大人な感じのやつだった。
「月影くんはこんなセクシーなのがいいのね」
「おい!」
「ありがとう」
雫は顔にこそ出さないが嬉しそうな雰囲気でネグリジェを受け取る。
会計を済ませ、今日買い物はあと下着だけ、それは雫に一任するのでどの店に行くかの相談中黒兎は思い切って聞いてみた。
「どうしてそのネグリジェが欲しかったんだ?」
「欲しいなんて言ってないわ」
「目が言ってた」
「目は言葉を話さないわ」
「目は口ほどに物を言うという言葉があってだな」
雫は少し躊躇ったが思わぬ言葉を口にしてくる
「そうね、ただ可愛いと思ったからよ」
氷の女王から可愛いという言葉が出てきたことに驚きつつも、やっぱりこいつも1人の年頃の女の子なんだと何か安心してしまう。
「そうだな、可愛いんじゃねぇの。そのネグリジェ着たお前」
「なっ…そういうところよ。あなたの嫌いなところ」
「なんでだよ褒めただけだろ?素直に嬉しがっとけ」
「…………うん。」
「なんでそこで素直になっちゃうんだよ!いつもは表情ないのにこういう時だけ照れてるんじゃねぇ!お前のアイデンティティどうしたんだよ」
「照れてないわ」
「復帰はえーな」
「だだその……………………嬉しかったのよ…」
「最後の方声が小さくて聞こえねぇよ。ただそのなんだよ!気になるわ」
だんだんと小さくなる声で雫が言うので黒兎は最後の方をききとれない。
「そういうところが鈍感主人公なのよ」
「なんでだよ!土曜日のショッピングモールでボソボソしゃべられて聞こえる方が怖いっつーの」
「まぁ、いいわ。次は下着よ、鈍感主人公くん」
「名前間違ってますよー」
「失礼、下着泥棒くん」
「風呂場のことは水に流してくれ!」
「水周りだけにってことね。上手くわないわ」
「そんなつもりじゃねぇーよ。あと上手くないのかよ」
「そんなの誰にでも思いつきそうよ」と雫に言われながらも下着屋のある3階に上がっていく。
エスカレーターの上り中にネグリジェの着た雫を想像した黒兎は、あっこれあかんヤツや、男子には目のやり場に困るヤツや、と自分で買わせたネグリジェを着た雫を想像して1人でニヤつくという高度な変態プレイをやってのけた。
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