第3話氷の女王は料理ができない
1年だけ黒兎の家に居候することになった雫は、
学校では基本的に関わらない、バイトをして居候の間は食費を払う、家事を分担する。という決まりで居候をすることになる。
「月影くん、あなたもしかして家事、苦手?」
雫が聞いてくる。ちなみに雫は黒兎のことを月影くん、月影さんという他人的に呼んでくる。黒兎は冬矢と呼ぶことにした。お互い、同居してるとはいえ、他人は他人である。
あと雫は、ほとんど感情の無い声で呼ぶものだからとても周りから見た時、同居してるなんて思いもよらないだろう。もし、同居してるなんて学校にバレればいかなる理由があったとて面倒になるのは目に見えている。なので学校では基本的に関わらない事にしているのだ。
「まあ、得意な方ではないかな。」
得意な方ではないが出来なくもない。少し部屋が散らかっているくらいだ。
「それじゃ約束通り私が月影くんの家の掃除をするわ。」
「ありがとう。任せるよ」
家事を分担する。という約束通り雫は、掃除をこなしていく。それはもう驚き速さだった。掃除機から、洗濯、食器なんかも洗ってくれて一瞬で部屋が片付いた。
「ずげぇ」
「そうかしら。掃除なんてものは小さい頃に、嫌という程やらされたわ」
「………」
それを聞いて少し申し訳なくなってしまった。
雫は、小さい頃親戚の家で雑用をさせられていたという。
「なんか……ごめん」
「いいの。別になんとも思ってないから」
それでも雫はただ淡々と話す。その冷たさは本当に氷の女王のようだった。
「それじゃ料理するわ」
「料理までしてくれんのか?悪いな」
「泊めさせてくれるのだし、このくらいするわ」
雫はテキパキ料理を進めていく。その手つきまるで本物料理人を見ているかのような、手際の良さと、素晴らしい調理だった……はずだった。
「出来たわ」
「おぉー」
出てきたのはチャーハンだ。家の残ってる卵とご飯で作った残り物のチャーハン。でもどこか美味しそうなチャーハンだ。さっきご飯を雫にやったのでお腹が空いてやばいのだ。
俺は思わずチャーハンにかぶりついた。どんどんかきこんでゆく。
「ううんん?」
黒兎は気づいてしまった…
このチャーハン不味いと。
「おい、このチャーハン何入れたんだ」
「ご飯、卵、ごま油、醤油、砂糖、あぁ最後にベーコンを入れたかしら」
「砂糖!?しかもベーコン火が通ってねぇ生じゃねぇか」
「砂糖は料理の基本よそんなのも知らないの」
「知ってるよ。でもチャーハンに砂糖は入れないんじゃないかな?」
「入れたと言っても少しよ」
「どのくらい?」
「測ったことなんてないわ」
そして黒兎は気づいてしまう。こいつ料理が下手であると。
「なんかあまじょっぱい、醤油の量は?」
「だいたい」
「だいたい!?」
「ちょっとベチャッとしてる、油っこい、ごま油の量は」
「気分」
「気分!?」
「ちなみにベーコンどのタイミングで入れた?」
「ついさっき」
「だから火が通ってねぇんだ」
黒兎は料理だけは自信があった。黒兎の父は料理人であり、母は外交官という割とエリートな家柄だったが黒兎自身はあまり人と関わることを得意とせず、家に帰ると父に料理を教えてもらうことが日課になっていた。
だから料理は人並み以上にはできるのであった。
「冬矢…」
「何かしら」
「料理はこれから俺がするよ」
「あら、そう。助かるわ」
「うん。俺も助かるよ」
雫は、不思議そうに顔を傾げたが、さすがに雫に料理をさせるとどんなものが出てくるのか分かったもんじゃない。
こんなこともあり、当番としては、掃除全般、洗濯、食器洗いが雫の担当。
買い出し、料理、雫の掃除の手伝いが黒兎の担当となった。
「それじゃ私、お風呂もらっていいかしら?」
2日ぶりなのよねぇーなんて言いながら雫は服を脱ぎ始める。相変わらず感情のこもった声ではないが心做しか楽しそうである。しかし
「まてまてまてまて!ここで脱ぐなー!!」
2人の同居はまだ一日も経っていないのである。
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