第101話 事の顛末

「これは……読みますね」


 かなりの文章量であるため、言葉の後、僕はその文字をゆっくりと読んでいった。


「えっと……これを読んでいるということは、どうやらあたしにとって理想的にことが進んでいるのでしょう。まずは、ごめんなさい。きっとたくさん不安と迷惑をかけているはずです。だから先に一つ伝えておきます。あたしは決してあなたたちを裏切った訳ではありません」


「コニアさん……」


 ホッと息を吐く皆さん。僕は言葉を続ける。


「順に説明していきます。まずはことの顛末から。以前、一人で買い物に出た際、あの女、ネフィラが接触をしてきました。そして、こう言うのです。私たちと協力しなさい、さもなくばイヴ以外のみんなを殺すと。その際、あたしは火竜の一撃や騎士団の名を借りて、対抗できると伝えました。しかし、ネフィラは平静のまま、こう伝えてきました。あたしにはそれを上回る力がある……と。その話の詳細を聞き、私は協力するフリをし、なんとかその力が及ばないよう不意をつくことしか、あたしたちが生き延びる術はないと判断しました」


「そんなことがあったのか……」


「……やっぱりレフちゃんが言ってたように、凄まじいなにかがあるのね」


「続きを読みますね。──協力をする際、私は魔族の女の【堕化絡繰だっかからくり】という能力により、五感を監視されることになりました。これにより、私の全てがネフィラに把握され、裏切る素振りすら見せられないようになった……と、ネフィラは考えているはずです。あたしはここに好機を見出しました。……あの女が掌握したのは五感だけで、あたしの思考を読み取ることはできない」


「なるほど……」


 ここでマユウさんが全てを理解したのか、言いながら頷いた。しかし他の皆さんはそうではなかったため、僕は話を続ける。


「あたしのギフトの能力【隷属化】は隷紋を刻み、そこに命令を書き込むことで、相手をそれに縛り付けることができます。それは人間に限らず、物相手であっても同様に。さらに隷紋を刻む際、その全てを思考の中で行うことができます。だから、視線をそちらに向けず隷紋を刻むことで、ネフィラにバレることなく、また不意をつける形で、情報を伝える手段を手に入れました。ただ、隷紋は刻んだ瞬間、淡い発光があります。それではネフィラにばれてしまうため、あたしは隷紋が発動するキーを設定し、それをあらかじめ会話の中で自然に伝えることにしました」


「……なるほどな、それがあの言葉だと」


「合言葉を口にすることで、あらかじめ設定しておいた文字列が浮かび上がる。それが今回あなたたちに情報を伝えられたすべてです。……さて、少しでも信用してもらえるよう長々と書きましたが、ここで本題に入ります。まずはイヴと私たちの居場所です」


 そこまで読んだところで、その下に表示してあった地図を皆さんとじっと見つめる。

 そこは公都を出て少し進んだところにある、小さな森の中であった。


「ここは……建物なんてあったかしら」


「そんなもの、あればとっくに騎士団に見つかっているはずだ!」


「まぁ、大方偽装系の能力で建物を隠してるんだろう。なんせ、相手は魔族だ。常識が通用する相手じゃねぇ……っと、レフト、とりあえず続きだ」


「あ、はい! えっと……次に魔族の女、ネフィラの能力について。彼女の能力は簡単に言うと、心が壊れた人間に種を植えつけることで、従順な化け物を生み出すというものです」


「……つまり、さっき俺たちが戦った化け物は──」


「ん。……思うところはあるけど、今は続き」


「はい! ……彼女が所有する化け物──魔人形の数は推定100体。そのうち、特に強力なのが3体います。その3体は間違いなくネフィラと対峙した際に現れますが、火竜の一撃であれば、問題なく対処できると考えています」


「ははっ、決定事項かよ」


「随分と簡単に言う」


「それだけ皆さんの力を信じているということですよ。……っと、続きを読みますね。──そして彼女の所有する……いえ、彼女が封印のありかを知っている化け物について。流石に詳しくはわかりませんでしたが、ソレが皆さんをも超える圧倒的な力を有していること、そしてソレは彼女の管理下にある訳ではないため、すぐさま呼び出すことは不可能であることは確かです。つまり、彼女たちの不意をつけば、その化け物と相対する可能性は無くなります」


「俺らをも超える化け物か──」


 きっと皆さんの脳内に浮かんだのは、全く同じ存在であろう。


──リリィ・レプリィレント。僕たちが絶望を抱くほどに、圧倒的な力を有した魔族である。


 仮にそれと同等の化け物をネフィラが駒として有しているとすれば、確かにそれとの戦闘を避けるためにコニアさんが行動を起こしたのも理解できる。


「レフト、続きは?」


「はい、あと少しです。──とりあえずあたしが伝えられる情報は以上です。最後に、改めてたくさん不安にさせてしまい申し訳ありません。そしてどうかお願いです。イヴを、みんなを救ってあげてください。最大の脅威は、簡単に呼び起こすことはできません。だから、不意をついた今なら、ソレを除外して事を進めることができます! どうか、どうかみんなをよろしくお願いします。──以上です」


 僕の言葉が終わった後、沈黙が起こった。しかしそれも一瞬のことで、すぐさま皆一様に力の入った表情になる。


「そんなことがあったんだな。……まぁ、言いたいことは色々ありはするが、とりあえず今は──その覚悟を無駄にする訳にはいかねぇよな。……おいお前ら、準備はいいな」


「ん、大丈夫」「えぇ」「おう!」「はい!」


「早速で悪いが、行くぞ」


 ヘリオさんのその言葉に、僕たちは再度うんと頷き、すぐさまリアトリスさんの力で、目的地の近くへと転移した。

 

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