第97話 襲撃

 僕たちは騎士団が用意してくれた空き家へと、リアトリスさんの転移で向かった。

 メンバーは、僕たち火竜の一撃、コニアさん、イヴである。

 他の少女たちについては、すでに数日前から騎士団に保護してもらっている。


「……あの、本当に大丈夫でしょうか」


 空き家のリビングで全員が腰掛ける中、唐突にイヴがそう言葉を漏らす。

 しかしそれも当然か。なぜならば今回の件で狙われているのが彼女自身なのだから。あらゆる面を考え、不安を覚えるのは致し方ないといえよう。


 だからこそ、僕はニッコリと笑顔のまま彼女に声を掛ける。


「大丈夫ですよ。だって、あの騎士団ですよ。絶対に完遂してくれます! それに、こっちには皆さんがいるんです! 万に一つも、失敗なんてありませんよ!」


「レフトくん……そうですよね。ごめんなさい、皆さんの前で弱音を吐いてしまって」


「気にすんな。レフトが言うように不安になるのは仕方がないことだからな」


 ヘリオさんがそう言ったところで、コニアさんが表情を歪めながら口を開いた。


「ごめんねぇ、イヴ。あたしのせいで辛い思いをさせてしまって……」


「そんな、コニアさんのせいではないですよ! ……あの時、コニアさんに拾っていただけたから、たくさん優しくしていただけたから、今こうして私は幸せに生きてられるんです!」


「イヴ……」


「だから、自分のせいって思わないでください」


「そうさね……。一緒に乗り越えようね」


「はい!」


 言葉の後、僕たちは先ほどよりも落ち着いた様子で何気ない会話をして過ごした。

 そして少ししたところで、不意にコニアさんが立ち上がった。


「ちょっとお茶を用意してくるさね」


「あ、手伝いましょうか?」


「いや、大丈夫よ。こういう仕事は私に任せてほしいさね」


「……わかりました。お願いします!」


 僕がそう言うと、コニアさんはニコリとし、キッチンの方へと向かっていった。

 それからおよそ5分後、皆の分のお茶を持ってコニアさんがやってくる。


「はいよ」


 言葉と共に、コニアさんが皆にお茶を配ってくれる。


「ありがとうございます!」


 そんな彼女に、皆でお礼を言う。

 そして一番に配られたリアトリスさんが、喉が渇いていたのかごくりとお茶を飲み込み──


「……っ!?」


 ──目を見開くと、突然バタリと倒れ込んだ。


「リアトリスさん!?」


 思わず声を上げる僕。同時に皆さんも声を上げながら、そちらへと意識を向け──ここで唐突に騎士団長の声が聞こえてくる。


(こちら騎士団3番隊! 屋敷に突入したが、化け物だらけだ! だが肝心の奴らの姿は──)


 ……化け物?


 ──瞬間、なにもない空間から、複数の化け物が姿を現した。


「なっ……!?」


「ぬっ……場所がバレたのか!?」


 さすがに想定外だったのか、声を上げながら化け物の対応する皆さん。

 その行動速度は流石で、すぐさま、倒れ込んだリアトリスさん、僕、コニアさん、そしてイヴを背後に隠してくれる。


 ──それにしても、この化け物は……魔物なのかな?


 目前のそれは、なんとも形容し難い見た目をしている。人間のような二足歩行に、ドロドロに溶けたヘドロのような全身。人間で言うところの顔にあたる部分には、3つの目のようなものがあり、常にギョロギョロと動いている。


 そんな化け物は現在5体存在しており、皆似たような姿形をしていた。


「……ちっ。とにかくやるぞ、ジオ、マユウ!」


「おう!」


「ん」


 言葉の後、ヘリオさんが以前見せた【竜化】をし、グラジオラスさんとマユウさんが全身にオーラを漂わせる。それと同時に、化け物がこちらに襲いかかってきた。


「きたぞ……ッ!」


 ──と、ここで。


「……うっ」


 突如背後で、そんなイヴの声が聞こえてくる。その声に釣られ反射的に後方を向くと、そこにはイヴの口になんらかの布を当てているコニアさんの姿があった。


「…………えっ」


 背後からイヴの口を塞ぐコニアさん。そしてその布に薬品かなにかがあったのが、意識を失っているイヴ。

 目前の光景があまりにも理解できず、僕は小さく声を漏らした後、数秒固まってしまう。


 その間に、コニアさんはイヴを抱き上げると、近くの開いたドアから逃げるように走っていった。


「……コニアさん!?」


「なっ……!」


 ヘリオさんたちもこちらに気づいた様子だが、しかし化け物が想定外に強く、また執拗に皆さんのことを狙っているため、コニアさんの姿を追えないようである。


 だから僕はすぐさま皆さんに「僕が追います!」と声をかけると、背後から「レフト!」という僕を静止する声が聞こえてくる。


 しかしそれでも僕は止まらないと思ったのか、数瞬の後「……すまん! 頼んだ!」とヘリオさんは声を掛けてくれた。


「わかりました!」


 僕はそう言うと、コニアさんの姿を見失わないように走った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る