第96話 作戦開始
「先ほど、公爵様より突入の許可をいただけた」
とある日。騎士団3番隊隊長が、真剣な面持ちのままそう告げた。
「ついにか。なにか証拠が出たのか?」
「そうだな。今まで疑惑だったものを確信づける証拠がいくつか見つかった。それを元に正式な手続きを行い、つい先ほど許可を得た感じだ」
「具体的に教えられる?」
マユウさんが真剣な、しかし相変わらずの無表情で首を傾げる。
「多少ぼかすことになるが……まずいくつかの廃墟でやつらの痕跡を見つけた。そのそばには様々な人間の体液……まぁ、主に血だな……それが見つかった。その後いくつか鑑定を行ったところ、それらがやつらの仕業であると判明した感じだな」
「なるほど」
「最近屋敷にいないというお話でしたが、やはり別に拠点があったんですね」
言って僕はうんと頷く。
「まぁ、肝心の現場を抑えることはできなかったがな」
言葉の後、一拍置き口を開く。
「……つい先日、件の女とヴォルデ子爵の姿を屋敷で確認できた。現在も監視を続けているが、以降外に出た形式はない」
「だから屋敷へ突入って訳か」
「あぁ」
「屋敷へは誰が向かうのかしら?」
「そこは我々騎士団の3番隊、4番隊が行う予定だ。火竜の一撃の皆さんには、念のため獣人の少女の保護を任せたいと考えている」
「まぁ、それが無難か」
「皆さんも屋敷への突入に参加したいという思いがあるかもしれないが、今回はどうかご容赦いただきたい」
「仕方ないわ。私たちはイヴとコニアさんの保護をきちんと完遂しましょう」
「ん」
「そうだな!」
リアトリスさんの言葉に、僕たちはうんと頷く。その姿を見て、コニアさんが目に涙を溜めながら、感激した様子で「ありがとねぇ、みんな」と言う。
そんな彼女を皆で宥めたところで、隊長が改まって声を上げた。
「……とはいえ、こちらの状況は逐一伝えた方が良いだろう。そこで──」
そう言った後、唐突に僕の脳内に声が響いてくる。
(どうだ……聞こえるか……?)
「……っ!?」
どうやら皆さんも同様だったようで、一様に目を見開く。
「これは……どういう……」
(俺のギフト『諜報術』の能力だ)
「随分と珍しいギフトだな」
(あぁ、国内外合わせても数例しか確認されてないそうだ)
「とても便利」
「──と、この力はおおよそ公都内であれば、どこでも使用できる」
「なら、基本的には大丈夫か。で、それは一方通行なのか?」
「……あぁ、申し訳ないがこちら側の情報を伝えることしかできない」
「了解。まぁ、イレギュラーがない限りはこっちの情報が必要になることはないか」
「そうね。向こうの情報がわかるだけですごくありがたいわ」
「……なんにせよ、ようやく行動を起こせるな」
「ですね」
「みんなのためにも、絶対に完遂しなきゃね」
言って皆で頷いたところで、ヘリオさんが首を傾げた。
「……あ、そういやあれはどうなった?」
「あぁ、火竜の一撃と遭遇しても女が平静だった件か。それに関しては、なにもわかっていないのが現状だ」
「大丈夫なのか……?」
「一応俺の力、3番隊の精鋭の能力で色々と探ったが、危険物は見つからなかった。唯一、女の力が高そうなことくらいか」
「どのレベルだ?」
「少なくともAランク冒険者程度の力は有していそうだ」
「中々高いわね」
「あぁ、だがその程度であれば騎士団で問題なく対処できると踏んでいる」
「だからこそ、今回の突入ってわけか」
「それも理由なのは間違いない」
「……わかった。くれぐれも気をつけてくれ」
「あぁ、油断せず我々の全力をもって対応しよう」
「……うし、それじゃ作戦開始といこうか」
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