第92話 イヴの戦闘能力

 ライムの存在昇華について皆さんに話したところ、案の定かなり驚いていた。

 そしてこれについては僕の方が驚きだったのだが、どうやらリカバリースライムという名を皆さんも初めて聞いたようであった。


 それ自体かなり凄いことなのだが、しかし実際ライムの姿形が全く変わっていないこともあってか、とりあえず能力検証は今後するとして、ひとまずはいつも通り接するという結論に至った。


 と、そんな驚きの出来事があった翌日。

 この日も特に予定が無かったため、僕は2匹の能力検証も兼ねて、グラジオラスさんと特訓を行うことにした。


 グラジオラスさんと詳細を詰めた後、斡旋所を出ようとし……ここで、突然声を掛けられる。


「あの、レフトくん、グラジオラスさん」


「あれ、イヴ。どうしたの?」


「もしも迷惑じゃなければ……私も、特訓に参加させてほしいです」


「……えっ!?」


 まさかの申し出に驚き、グラジオラスさんへと視線を向ける。

 グラジオラスさんはというと、あっけらかんとした様子で口を開く。


「俺は別に構わないぞ!」


「危険ではないのでしょうか」


「イヴの強さはDランク冒険者並みさね」


「あ、コニアさん。そうなんですか?」


 ここでコニアさんがそう声をかけてきたため、僕は首を傾げる。


「ええ。この子の身体能力の高さは人族とは比べ物にならないさね。だから例え目が見えなくとも、それを聴覚で補いながら戦うことができる」


 Dランク並みということは、僕と同程度の強さということか。確かにそれならば、グラジオラスさんも了承しているし、ついてきても問題ないだろう。


「それなら大丈夫そうですかね」


「おう! ただ狙われているのは確かだからな! 念のためリアトリスにもついてきてもらおう!」


「ちょっとリアトリスさんにお願いしてきますね」


「ガハハ! 頼んだ!」


 確かに瞬間移動のできるリアトリスさんが近くにいれば、より安全だ。そう思いながら、リアトリスさんに話を振ると、間髪入れずに了承してくれた。……抱きつきというおまけ付きで。


「ありがとうございます、リアトリスさん」


「レフちゃんのためなら喜んでだよ!」


 彼女の胸に埋まり、甘い香りを全身に浴びながらお礼を言うと、リアトリスさんはぎゅっとする力を強めてくる。


 それにより、僕は息が出来なくなり……こうして意識を失いかけるというハプニングはあったが、とりあえずリアトリスさんの了承を得られたため、僕たち4人は近くの草原へと向かった。


 ◇


 草原に到着した後、僕たちは早速特訓を始めた。


 ひとえに特訓といっても様々であるが、今回は乏しい実戦経験を補うこと、そしてイヴがこの前の僕の話を聞いて、じっとしているだけじゃなくて、なにか行動をしたい。まずは1人で生きていける力を手に入れたい……ということで、魔物との戦闘を主に行うことにした。


 僕がまずDランクの魔物と何度か戦闘を行い、続いてイヴの番になった。


「では、いきます!」


 僕と同じ革製の鎧という軽装に身を包んだイヴは、短剣を構えながら気合い十分にそう言うと、姿勢を低くし、目前のゴブリンに向かって駆け出した。


 ……ッ! はやい!


 そのスピードに思わず目を見開く僕。その眼前で、数十mあったゴブリンとの距離をあっという間に詰めたイヴは、その素早い動きのままゴブリンに攻撃を仕掛けた。


 攻撃を加えては避けて、加えては避けて。まるで目が見えているかのように、ヒットアンドアウェーを華麗にこなしながら、徐々にゴブリンの体力を削っていく。

 そして数瞬の後、ついに一度も怪我を負うことなく、ゴブリンを討伐した。


「……すごい」


「久しぶりの戦闘と聞いたが、見事だな!」


「ええ。これなら、Dランクの魔物相手でも大丈夫そうね」


「あ、ありがとうございます!」


 言いながら頭を下げるイヴ。嬉しいのか、尻尾はゆらゆらとし、頭上の猫耳はぴょこぴょこと動いている。

 その姿に負けてられないなと思いながら、この後僕は何体もの魔物を討伐した。


 その間、1人で戦ったりガブと協力して戦ったりしたが、やはり意志の疎通が難しく、中々上手に戦うことができなかった。


 ……ただ、1つだけ大きな収穫があった。それは、ライムの回復能力の活用方法である。


「ライム、バランスは大丈夫かな?」


 そう聞くと、頭上で僕にくっついているライムは、大丈夫という感情を僕に伝えてくる。


 ……これまでライムは戦闘に参加することはできず、どちらかというと愛玩動物に近い立ち位置であった。


 しかし、今回存在昇華によりリカバリースライムになったことで、ポーションを作ることができるようになった。つまり、ライムが回復役を担うことができるようになったのだ。


 とはいえ、ライムが別行動をしていてはその回復能力も十全に活用できない。


 そこで僕が考えたのが、ライムに頭の上に乗ってもらうことだ。


 これならば、僕が傷を負ってもすぐさまライムが下級ポーションで回復してくれる。……まぁ、姿形は中々に不恰好ではあるが。


 と、そんなこんなで様々な感情を覚えながら、この日の特訓は終了となった。

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