第88話 マンイーターの検証と名付け
本日2話目です。ご注意ください。
================================
実の射出方向が一定ではない──その事実によりキャノンフラワーの評価を現状は扱いが難しく、射出方向をどうにかする方法を考えない限りは使用は難しいとそう結論付けた。
その威力が凄まじいばかりに、なんともうら悲しい結果だが、いたしかたない。
それよりも今は次に目を向けようと、僕は続いてマンイーターの実体化を試みることにした。
「グラジオラスさん、何度も申し訳ないのですが……」
「ガハハ! 気にするな!」
そう、今回も突然襲ってくる可能性があるため、念のためグラジオラスさんにはそばにいてもらっている。
ちなみに先ほど呼び出したライムはというと、僕の頭の上でグデーっとしている。
感情から察するに、おそらく寛いでいるのだろう。
その姿は頭上にあり、目に見えないが、なんとなくイメージはできるため、かわいいなぁと僕は微笑む。
しかしそれは一瞬のこと、すぐさま気を引き締めると、グラジオラスさんの了承を貰い、高らかに唱えた。
「マンイーター、実体化!」
瞬間、僕の眼前に光が集まり、それが収まった時、そこには一体のマンイーターの姿があった。
マンイーターは花部分──人間では顔にあたるのか──をキョロキョロとした後、こちらへと喜びの感情を向けてくる。
僕は安堵の息を吐いた。
「よかった。グラジオラスさん、この様子だと突然襲ってくることはなさそうです」
「ガハハ! それはよかった!」
グラジオラスさんの言葉に頷いた後、僕は改めてマンイーターへと視線を向ける。
──相変わらずなんとも禍々しい姿である。
黒と藍色で覆われた全体に、茎を覆う無数の棘、その先で大きく開く花の中央にはなんでも貫きそうな鋭い牙がこれまた無数に生えている。
仮に夜に遭遇したら思わずビクリとしてしまいそうな見た目だが、向けられる感情が喜色だからか、目前のマンイーター相手には別段暗い感情は湧いてこなかった。
「マンイーター、これからよろしくね」
言って僕が笑みを向けると、マンイーターは茎の部分をうにょうにょと伸ばし、全身の中でも特に害のない花弁の部分をすりすりと僕へと擦り付けてきた。
「わぁ! くすぐったいよ」
言いながら、僕はマンイーターの花弁を優しく撫でる。すると伝わってくる喜色がより強いものになった。
「そうだな、名前をつけないと」
ここで僕はふとそう思い立ち、うんうんと頭を悩ませる。
マンイーター……うーん、名前から取るのは微妙だな。じゃあ、特徴……噛み付く、噛む、ガブリと……あっ!
「決めた! 君の名前はガブだ!」
僕がマンイーター──ガブにそう告げると、ガブはブンブンと顔を揺らし、全身で喜びを伝えてくれた。
「よし、名前も決めたし、早速君のできることを確認しようと思う。まずは……そうだな、ガブって移動できるの?」
現在、ガブは通常の草木と同じく、身体の一部が地中に埋まっている。
故に攻撃範囲が決まっていたのだが、もし動くことができるのならば、ガブにできることが増えるのは想像に難くない。
とはいえ、先ほどマンイーターが移動する様子はなかったのだ。であれば、おそらくガブも移動はできないのだろう。
そう思いながらの質問であったが……それを聞いた瞬間、ガブは突然ズボッと根の部分──かろうじて脚のようにも見える──を地表へと出すと、それをちょこちょこと動かした。
「…………っ! 動けるの!?」
驚く僕の眼前で、ガブの姿が徐々に動き出すが……なんというか、戦闘時には一箇所にとどまって戦ってもらうことにしようと、思わずそう結論付けてしまうような、そんなスピードであった。
その後、僕はガブを色々な魔物と戦わせた。
が、やはり移動できないのがネックで、Dランクまでの魔物ならば基本倒すことができるが、CランクレベルやDランクでも一定以上の威力がある遠距離攻撃を有する魔物相手では、勝利は厳しそうであった。
ガブ単体の後は、僕との連携で戦ったりもしたのだが、やはり僕自身の身体能力が低いことや、攻撃手段が乏しいこともあり、Cランクレベルの魔物相手ではついぞ勝利を収めることはできなかった。
またこれは初めて魔物と連携して戦ったからわかったことなのだが、彼らと連携する場合、どうしても僕からの指示が必要になる。
というのも、彼らは人形ではなく、立派な生物ではあるが、しかしその知能は成人した人間には遠く及ばないのである。
故に彼らに自由に戦わせると、その能力以上の実力を発揮することができない。
かといって、僕が指示を送るのも、それはそれで中々難しい上、戦闘中に余計な時間が掛かってしまうのだ。
それならば連携を鍛えるべきだと思うが──果たしてそれで、Cランク以上の魔物を倒せるだろうか。
魔族と対峙するヘリオさんや、先ほど僕をキャノンフラワーの種から守ってくれたグラジオラスさん、その圧倒的な頼もしさを思い出す。
それと僕が今のまま成長した姿を比較すれば、やはり僕からは彼らのような力強さを感じることができなかった。
──彼ら戦闘系ギフト持ちのように身体能力を伸ばすことができれば。
能力の実というステータスを向上させる植物は存在するが、それは伝説の存在であり、現状の僕が手にできるものではない。
それに仮に手に入れたとしても、きっと実体化にはとんでもない魔力が必要になるからと、迂闊に使用できない未来は簡単に想像できる。
──ならせめて、魔物と思考を共有できたら。
現状のようにいちいち指示を出さずとも、僕の考えを彼らに伝えることができたら、どれほど可能性が広がるだろうか。
そう考えるも、やはりそう簡単に思考を共有する方法など思いつくはずもなかった。
結局その後も頭を悩ませながら色々と挑戦するが、ただの一度もCランクの魔物を倒すことはできなかった。
その事実に、ずっとモヤモヤと頭を離れない自身のステータスの低さに、僕はなんとも言えない憂いの感情を残しながら、斡旋所へと戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます