第84話 次なる目標
あの後、リアトリスさんとマユウさん、そして少女たち──主に年少組──が、僕と一緒に寝たいと熱望するというハプニング? もあったが、僕はなんとかその場を切り抜け、ヘリオさん、グラジオラスさんと同じ部屋で寝た。
──そして翌日。昨日のコニアさんとの話し合いで決まったようだが、この日は下手にイヴさんを狙う女性たちの情報を探るようなことはせず、斡旋所で過ごすことにした。
というのも、昨日街中で出会った女性が、イヴさんと火竜の一撃の繋がりを目にしながらも酷く冷静だったのがあまりにも不気味だったからである。
そんなこんなで斡旋所にいるが……なんというかかなり暇である。少女たちは家事を行っており、手伝おうと思ったら客人は休んでいてと言われ、コニアさんになにか仕事はないか聞こうと思えば、用事で留守という始末。なにか本でもあればそれを読んで過ごせるが、あいにく斡旋所にはそういった類のものはない。
まったくどうしたものかとリビングで頭を悩ませていると、ここでヘリオさんが僕の方へと近づくと、近くにドカッと座り、声を掛けてくれた。
「暇そうだな」
「あ、ヘリオさん。そうですね、なにもやることが見つからなくて」
「ハハハ、まぁこういう状況じゃな。うし、んじゃ久しぶりに2人で話でもすっか。ちょうど言っときたいこともあったしな」
「言っておきたいことですか……?」
「おう。あー、どうだレフト。火竜の一撃のメンバーになって数日過ごした感想は」
頭を掻きながらそう言うヘリオさん。その話題振りのあまりの不器用さに、僕は思わず笑ってしまう。
「ぷっ、ふふ」
「なに笑ってんだよ」
「い、いえ、なんでもないです。えっと、メンバーになってですよね。そうですね……正直まだ実感はないです。でも、人の優しさはすごく感じられました」
挨拶回りの際、同時に僕の紹介を行った。
──完成された火竜の一撃というパーティーにポッと出の子供が加入をする。
そんな状況に、なにかしら反対の声があっても致し方がないと思い構えていたのだが、ふたを開けてみれば、誰しもが驚きつつも、1人の冒険者として僕を歓迎をしてくれた。
そんな僕の言葉にヘリオさんはニッと笑ったあと、口を開く。
「そうだな、みんな歓迎してくれたな。……まぁ、あいつらには特に言ってねぇが、この加入はあくまで一時的なもんだ。今後レフトが成長して、別のパーティーを組みたいと思ったのなら組めばいいし、このまま火竜の一撃のメンバーとして活動したいのならば、もちろんその時は歓迎する。けどまぁ、レフトはまだ若いからな。ひとまず選択肢を狭めたりせず、たくさん考えて決断するようにしてくれ」
「はい!」
僕の返事に、ヘリオさんはいつものように頭を撫でてくれる。その荒々しくも優しさの感じられる手の心地よさに目を細めていると、ここでヘリオさんは独り言のようにぼそりと言葉を漏らす。
「実はな、加入せずともレフトの安全を確保する方法はひとつあるんだ。けどこれはすぐには難しくてな。だから結局うちにいながら地力をつけるしかねぇ。具体的には……そうだな、とりあえず目指す所はCランクの冒険者相当だな。ここまでいけば、単純な人間の脅威はそう多くなくなる」
「Cランク相当……」
具体的にはレベル30から40くらいか。現在のレベルを考えれば、だいたい倍近くまでレベルを伸ばさなければならないというわけだ。レベルが上がれば上がるほどレベルの上昇が難しくなることを考えれば、これは決して簡単なことではない。
ましてや僕はステータスの伸びが戦闘系ギフト持ちと比較して魔力以外はかなり悪いという。そうなれば単純に戦闘力で考えれば、僕の場合はもう少しレベルが必要になってくるだろう。
中々大変そうだなとその道のりを憂いていると、ここでヘリオさんが何かを考えるような素振りを見せる。
「──そうだな……時間を有効活用すべきか」
「ヘリオさん……?」
「いや、今ふと思ったんだが、レベルの上がりやすいこの時期にじっとしてるのももったいねぇよな。……うし、レフト。今からガラナ山に行くか?」
「……えっ!? 今からですか!?」
「レフトも暇してるようだし、なにより今後なにかあった時にレフトの力を借りることもあるかもしれねぇからな。なら、なにもない今のうちに地力をつけるべきだろ?」
「たしかに……」
有事の際、現状の力でどこまで対応できるか。スタンピードの時のように、自分の力を最大限に利用するためには、自身の能力、その選択肢を増やすべきであろう。
そして僕にとって選択肢となりうるのは、レベル上昇による戦闘力の向上以上に、植物や植物系の魔物の種類を増やすことであり、そのためには可能な限り様々な植生地へと向かうべきだろう。
「ヘリオさん! 僕、山へ行きたいです!」
「よっしゃ。……つっても俺は今回の件で色々やることがあるから一緒には行けねぇけどな」
「えっ……!? それじゃあ誰が──」
と、ここでヘリオさんの視線が一点を向く。つられて僕もそちらへと顔を向けると、そこにはソファーで豪快に眠っているグラジオラスさんの姿があった。
「グラジオラスさんですか……?」
「ジオ! 行ってくれるか?」
眠っているグラジオラスさんにそう声を掛けるヘリオさん。なにをしているのかと疑問に思いながらその姿を眺めていると、声を掛けられたグラジオラスさんは突然目をカッと開いた。
「おう! まかせておけ!」
「グラジオラスさん!? 何のことかわかってますか?」
「ガハハ! レフトと一緒に山へ行くことだろ! もちろんわかっている!」
「寝ていたわけではないんですね」
「いや、寝ていたぞ! 寝ながら聞いていた!」
「寝ながら……」
「あー、深く考えない方がいい。昔からジオにはこういうよくわからねぇ特技があってな」
「すごい……!」
「ガハハ! 照れるなー! っと、そんなことよりもレフト! 善は急げだ! 早速ガラナ山へ行くぞ!」
「グラジオラスさ……う、わわ!」
「よし! ヘリオ! では行ってくる!」
「おう。あ、レフト。最後に言っとくが、植物や植物系魔物はどんどん登録すべきだ。けど、何度も言うが基本は自力で戦う術を磨けよ」
「はい! わかりました!」
「よっしゃ! レフト行くぞー!」
「はい! お願いします!」
僕の言葉のあと、グラジオラスさんは僕を抱えたまま爆速でその場を離れた。
──目指すはガラナ山。僕は以前見たおじいさまの植物図鑑に記載してあったいくつかの植物を思い浮かべると、ワクワクを隠し切れない笑顔を浮かべた。
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