第82話 斡旋所にて
斡旋所へ到着後、イヴさんはミサさんに連れられて家事をしに向かった。
その姿を見送った後、会議室に集まり、今回の件をコニアさんとグラジオラスさんに伝えた。2人は話を聞いて難しい表情になる。
「今回の件で白ってことはねぇよな?」
「流石にない。もちろん可能性がゼロではないけど、未だ疑わしいのは間違いない」
「ならあの余裕はなんだ?」
ヘリオさんの言葉の通り、僕たちがイヴさんと共にいても、女性は特に焦った様子はなかった。彼女が何かしらの理由でイヴさんを狙っているのであれば、その傍に火竜の一撃がいるという状況は好ましいものではないはずだ。──しかし、あの余裕である。
と、女性のあまりの平静さを疑問に思っていると、ここでマユウさんが首を傾げた。
「仮に彼女を悪とするのなら、単純に私たちよりも高い戦力を保有している……?」
マユウさんの言葉に、ヘリオさんが眉を顰める。
「そんなことありえるか? 驕るつもりはないが、俺たちが集まっていようと問題ないほど高い戦力なんて、そう簡単に集められるもんじゃねぇぞ?」
「ん。私たち全員が集まっても敵わない人族は、私の知る限りほとんど存在しない」
「確かに人族ならいないですよね。でも……」
「──そう、魔族含め、他種族が絡んでくるとなれば話は変わる」
「魔族……」
その単語を聞き、リアトリスさんの表情に陰が落ちる。
きっと思い起こしているのは、王国で遭遇した女魔族、リリィの存在だろう。
たしかに魔族含めた他種族、それもリリィレベルの戦力が関わっているのであれば、イヴさんを取り巻く今回の件は、想像以上に難しいものになるのは間違いない。
「……」
あの絶望を思い出し、僕たちは思わず無言になってしまう。そんな僕たちの表情を見て、コニアさんも不安げに眉根を寄せる。
と、会議室の空気が重苦しくなってきたところで、そんな僕たちの空気を一新しようと思ったのか、ここでヘリオさんがパンッと手を叩いた後、声を上げる。
「俺たち以上の戦力の存在。これが関わってこようがなかろうが、俺たちができることは変わらねぇ。まず、今はリアトリスだけがここに泊まっているが、今日から問題が解決するまでは、俺たち全員がここに住むことにしようぜ。コニアさん、大丈夫そうか?」
「そうねぇ。部屋に空きはあるし、あたしからすれば願ってもないことさね」
「うし、んじゃとりあえずこれで物理的に斡旋所の戦力を上げることができた。あとは、一番危険が高いイヴの側には、必ず誰かがいるようにしようぜ」
僕たちは頷き、ヘリオさんは言葉を続ける。
「あとはそうだな、挨拶回りしたところに協力を頼んでいくとして……あぁ、とりあえずミラに話を持っていって、高ランク冒険者の協力を仰げないか確認するのもありだな。あとは──」
「そういえば、レフちゃんのお兄さんがこの町で騎士をやっているのよね?」
「はい。確か今は一番隊の隊長をしていたはずです」
「なら、お兄さんに話をつけてもらって、今以上の協力をお願いすることってできるかな?」
「うーん、どこまで動けるかがわからないのでなんとも言えませんが、ひとまず話はしてみます!」
「ありがと、レフちゃん!」
「ありがとねぇ、レフト君」
「いえ。まだ結果どうなるかはわからないので……」
「ま、とりあえずやることは決まったな。んじゃ早速で悪いが、レフト。騎士団へ行くぞ」
「はい!」
こうして、善は急げと僕とヘリオさんの二人は、騎士団の本部へと向かった。
騎士団の受付に向かい、要件を簡潔に話したところ、ヘリオさんと僕の名前の力か、簡単に話を通すことができた。
しかし、なんともタイミングの悪いことに、兄さまと騎士団長は公務により町を離れているとのことであった。
とは言え、そのまままた後日とはならず、兄さまたちの代わりとして三番隊の隊長さんが対応をしてくれた。
ダンディなおじさんである隊長に今回の件を話したところ、隊長はなんとも言えない表情になった。というのも、別の事件でルートエンド家の名前が上がり、家宅捜査を行ったらしいが、証拠となり得るものが一つとしてなかったようだ。
彼らにとっても公務であるため、これといった証拠もなくこれ以上の強硬策を取ることはできず、現状は情報を探ったり、街を見回る騎士の数を増やすといった対応しかできていないとのことである。
そんな騎士団に対し、ヘリオさんは僕たちの方でも証拠を探り、証拠が見つかった際は騎士団に協力してもらうよう呼びかけた。三番隊の隊長は、ヘリオさんの言葉に大仰に頷き、証拠が見つかった際の協力と、見回りの強化を約束してくれた。
こうしてひとまず騎士団の協力を得ることができた僕たちは、再び情報を共有すべく斡旋所へと戻った。
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