第78話 奴隷制度
その後、僕たちは数件挨拶回りを行った。青果店や精肉店から、冒険者まで幅広い人脈に流石と思いながら、僕はヘリオさんの後ろを歩く。
ちなみにグラジオラスさんとマユウさんはそれぞれ個別の知人の元へ行っており、現在僕たちは2人きりである。
そのまま次の目的地へ向かって歩いていると、ここで不意にヘリオさんが口を開く。
「……確かにレフトからすりゃ、奴隷制度はショックな内容かもな」
どうやら先ほどから僕の表情が優れないことを察してくれたようである。
「はい。まさか合法に人身売買を行っている国があるなんて知りませんでした」
「……人身売買か。確かに聞こえは悪いし、実際違法に行われているそれの中には悪辣なものもある。けどな、現代の奴隷制度はそこまで悪いものじゃねぇんだ」
一拍置き、ヘリオさんは口を開く。
「奴隷を売る側も買う側もガチガチの制約で縛られるから、非人道的な扱いを受けることは基本ねぇ。それに売買の対象はみなし子や犯罪者だからむしろ奴隷になった方が人並みの生活ができる場合が多いんだ」
「……」
それでも変わらず眉を顰める僕に、ヘリオさんはちらとこちらを見た後、話を続ける。
「まぁ、身近に存在がなきゃ納得できねぇのも無理はねぇな。とはいえ、これはこの国の常識なんだ。納得はせずとも、理解はしてほしい。特に誰よりも彼女たちの幸せを願い、活動しているコニアさんのことはな」
……確かにそう簡単に納得できるものではない。とはいえそれも仕方がないだろう。ヘリオさんからすれば僕は奴隷のいない国に十年という短い期間を生きている存在かもしれないが、実際は前世を入れれば、数十年もの間奴隷のいない国に住んでいるのである。そんなこと簡単に納得できるものではない。
……けど、理解はした。
納得できない。でもこれがこの国にとっては常識で、実際この制度で救われている存在がいるというのであれば理解するほかないだろう。
僕はそう思うと、ヘリオさんの言葉にうんと頷き、ヘリオさんはそんな僕の頭をポンポンとした。
◇
その後も、僕たちは再び挨拶回りを続けた。そして粗方回ったところで宿に帰宅。そのまま泥のように眠り、翌日。
この日も挨拶回りをするということで、僕はヘリオさん達と共に複数の人の元を尋ねた。
流石に短くない月日が経過していることで、すでに目的の相手がおらず、空き家になっていることもあったが、それでもかなりの人と顔を合わせることができた。
そして経過すること数時間。ここでヘリオさんが口を開く。
「次が最後だな」
その言葉の後、僕たちが向かった先は、どでかい屋敷の前であった。僕の実家ほどではないがそれでもかなり大きい屋敷であるため、もしかして貴族の家……? などと考えていると、ヘリオさんがトントンと扉をノックした。
その後少しして「はーい」という柔らかい女声と、トタトタという足音が聞こえてくる。
……あれ? この声って……。
まさかと思いつつ待っていると、ここで屋敷のドアが開き──
「あ、みんな久しぶり~」
という緩い声と共に、緑髪の美女──ウィルさんがひょこりと顔を出した。
ということはつまり……。
僕の内心を察したのか、グラジオラスさんは豪快に笑いながら声を上げた。
「ガハハ! そう!ここは公国ナンバー1パーティー、
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