第75話 まさかの再会

「どうして皆さんが……!?」


「ミラさんがどうしてここに」


 想定外の再会に僕も驚く。火竜の一撃の皆さんは僕ほどの驚きはなかったが、それでもここでミラさんに会うのは予想外であったようで、皆等しく驚きに目を見開いている。


「ひとまず皆さんこちらへ」


 少し落ち着いた様子のミラさんがそう言ったため、僕たちは彼女の案内でギルド内へと入った。


 火竜の一撃の登場にざわつく冒険者達。そんな彼らをよそに、僕たちは奥の個室へと向かう。

 そして室内に入った後、ミラさんの合図で席に着く。ミラさんとアケビさんが横並びに、そして対面に火竜の一撃が座り、席がないからと僕はリアトリスさんの上に座ることになった。


 そんないつも通りの姿に、ミラさんは上品にクスリと笑った後、柔らかい表情のまま口を開いた。


「まずは皆さんが無事でなによりです。スタンピードの話を耳にした時は背筋が凍る思いでしたよ」


「心配かけてすまないな。まぁ、この通りピンピンしてるから大丈夫だ」


「はい。皆さんの元気な姿を見て、やっと安心できました」


 言って、ミラさんがホッと胸を撫でおろす。


「……にしてもまさかミラが言ってたのがこことはな」


「奇跡の遭遇」


「あれ、皆さんはミラさんが町を離れているのを知っていたんですね」


 僕は思わず声を上げる。


「うん。実はね、スタンピードの前に人づてに聞いてたの。ミラさんが急用で町を離れたってね」


「本当は直接お伝えしたかったんですけど、ちょうど皆さんがいないタイミングで話がきてしまって……」


「あの、なぜ突然町を離れることに……?」


 あまりにも急な話であったため、思わず僕はそう問うてしまう。そんな僕の問いに、ミラさんは嫌な顔一つせず、優しい表情のまま答えてくれる。


「1つはこの子のお守。そしてもう1つがギルドマスターの代理補佐ね」


「……爺さんに何かあったのか?」


「たいしたことではありませんよ。ただ転んで足を骨折しただけです。ただお年もお年ですので、お仕事はせず、今はおうちでゆっくりされているはずです」


「そうか、良かった」


 言ってヘリオさんはホッと息を吐く。


「それで代理のギルドマスターが入って、ミラがその補佐?」


「なんでもここのギルドマスターとフレイの町のギルドマスターが旧知の仲のようで、ユグドリアには経験豊富な受付嬢がいないからと私に話が来たの」


「たしかにミラなら安心して補佐を任せられる」


 言って、ギルドの職員とは無縁のマユウさんがあたかも自分のことのように、誇らしげに胸を張る。その姿に小さく微笑んだ後、ミラさんはすぐにその表情を曇らせた。


「なんかあったのか?」


「実は──」


 どうやらギルドマスターの代理が少し前に亡くなったらしい。あまりに急だったことと、ギルドマスターの仕事を理解した優秀な人物として適任ということで、なんとミラさんがギルドマスターの代理をすることになったらしい。


「おかげでフレイの町には当分戻れそうにないわ……」


 言って溜息を吐いた後、ミラさんはそういえばとばかりに首を傾げる。


「……ところで皆さんは何故ここへ?」


 その言葉を受け、ヘリオさんがここに来た理由を説明した。


「──そう、そんなことが。……ん、ということはここにきたのはもしかして」


「おう。察しの通り拠点を移すことを伝えにきた」


「そうでしたか! ふふっ、またしばらく一緒ですね。よろしくお願いします」


 先ほどまでとは裏腹にパッと明るい表情になったミラさんの言葉に、僕たちは口々に挨拶を返す。その挨拶を受けたからか、満足げな表情のまま、ミラさんは口を開く。


「さて、では申請はこちらの方でやっておきますね。それで、このあとはお話にあった──」


「あー、予定的にはそうなんだが、実はもう一つお願いがあってな」


「……? はい」


「──レフトを火竜の一撃に加入させる。だからその申請を頼む」


「……!?」


 流石に予想外だったのか、ミラさんとアケビさんは驚きに目を見開く。


 ……今日は彼女たちの表情が良く変わる日だなと思いつつ、その誰しもが驚愕するような情報を耳にしても、僕はいたって平静のままであった。


 というのも、実は道中にヘリオさんからこの話を聞いていたのである。当然その時はかなりビックリしたが、しかしその目的を聞いて、僕は二つ返事で加入を決めたのだ。


 ミラさんは心を落ち着かせるように胸に手を当ててホッと息を吐いたあと、居住まいを正して口を開く。


「……なるほど。それはビックニュースですね」


「すぐに可能?」


「はい。全く問題はございませんが、火竜の一撃の専属として、念のため理由をお聞きしてもよろしいですか」


「おう。あー、もちろんレフトに将来性を感じているというのもそうだが、今はそれ以上にレフトの安全確保が主な理由だな」


「将来性……たしかにレフト君は聡明ですものね」


 言って、ミラさんはこちらへと柔らかい視線を向ける。そんな彼女の声に、ヘリオさんはうんと軽く、リアトリスさん、マユウさん、グラジオラスさんの3人は力強く頷く。


「おう。後は……あー、どうする?」


「ミラには話しても良いと思う」


「そうね。私も同感よ」


「俺も異論はない!」


「レフトは?」


「ミラさんなら大丈夫です」


「うし。あーすまないんだがアケビ。一度席を外してもらってもいいか?」


「あ、はい……」


 言葉の後、アケビさんはチラチラと僕に視線を向けながら部屋を出た。


「んじゃ、リアトリス」


「えぇ。【箱庭】」


「うし、これで他に聞かれる心配もないと」


「知らない技ですね。もしかしてレベルが?」


「えぇ、ここに向かう道中でね」


「それはおめでとうございます! にしても防音の魔術でしょうか。かなり厳重ですね」


「それこそレフトの安全に関わるからな」


「安全に……」


「あぁ、実はな──」


 言葉の後、ヘリオさんは僕の能力について、これまでの出来事を交えつつ、詳細に話した。その内容に、流石に驚いたのか、ミラさんは本日数度目となる驚きの表情を見せた。


「……なるほど。確かに秘匿すべき情報ですね。しかし、今後ギフトを使わない訳にはいきませんよね」


「ええ、いずれ世間にバレることにはなるわ。情報をここでとどめているのは単なる時間稼ぎ。その間にレフちゃんと私たちの強い繋がりを示しつつ、レフちゃん自身に地力をつけてもらう。あとはもう1つ予定してることがあるんだけど、それはまだすぐの話ではないし、確定もしていないから後で話すわ」


「わかりました。そういうことでしたら特に異論はありませんので、すぐに加入登録いたしますね」


 その言葉を受け、リアトリスさんは【箱庭】を解除。ミラさんは書類を持ってくると、スラスラと何かを記入していく。そして数瞬ののち、ミラさんの指示に従い、僕は冒険者カードを机上の魔道具の上に置いた。


 すると次の瞬間、魔道具からなにやら幾何学的な模様が浮かび──僕のカードに火竜の一撃の文字が刻まれた。

 ミラさんが僕にカードを返す。


「これにて登録完了となります」


「わぁ、ありがとうございます!」


「レフト君なら大丈夫だと思いますが、この時からあなたは火竜の一撃の一員となります。くれぐれもその名に泥を塗るような行動はしないように気を付けてくださいね」


「はい!」


「良いお返事ですね。今後なにかわからないことや相談したいことがあれば、遠慮なく私を頼ってください。突然ギルドマスターの代理をすることにはなりましたが、今も戸籍上私は皆さんの専属ですから」


「心強いです!」


 目を輝かせた僕の言葉に、ミラさんはにこやかに頷いた後、その視線を僕の周囲に向ける。


「皆さんも、どうか変わらず私を頼ってくださいね」


「ん。すごく頼る」


「マユウ。加減はしてあげてね」


「……ん」


「なんか今凄く間があった!」


「そんなことない」


 と、いつも通りリアトリスさんとマユウさんのじゃれ合いが始まった所で、ヘリオさんがゆっくりと立ち上がった。


「……さて、んじゃ俺たちはそろそろ行くわ」


「わかりました。書類関係は私の方で処理しておきますので」


「おう。いつも助かる。ありがとな」


「いえ、これも仕事ですから」


「だとしてもだ。ありがとうミラ。今後も頼りにしてるぜ」


 ニッと力強い笑みを浮かべるヘリオさんのその言葉に、ミラさんはほんのりと頬を赤らめながら「はい!」と声を上げた。


 と、そんな傍から見たら砂糖を吐きそうになるやり取りの後、僕と火竜の一撃の皆さんは……いや、僕達火竜の一撃は部屋を出た。


 ◇


 そのまま帰ろうと歩みを進めると、ここで後方から声を掛けられた。


「あ、あの!」


 振り返ると、そこには意を決した様子のアケビさんの姿があった。


「アケビさん。どうしましたか」


「レフトさん。買取の件について、改めて謝罪させてください。申し訳ございませんでした」


「えっと、顔を上げてください。あの時も言いましたが、結局実害は無かったので、僕は全く気にしてませんよ」


「しかし……」


「というよりもむしろアケビさんに感謝をしたいくらいですよ」


「……へ?」


「だって、アケビさんのおかげで、僕は火竜の一撃の皆さんと出会えたんですから」


「えっと……」


「ア、アケビちゃんがいなかったら、レフちゃんと出会えてなかった!? ありがとう! ありがとうアケビちゃん!」


 言葉の後、リアトリスさんはすさまじいスピードでアケビさんの前まで寄ると、彼女の手を握り、そのままブンブンと上下に振った。


「レフト、リア。アケビが困ってる」


「あれ!?」


「そりゃ色々文句言われて当然の行動をしたのに、むしろ感謝されたとなりゃ、気まずくもなるわな」


「あー、まぁでも、本当に今は全く気にしていないということだけわかってください」


 ニコリと笑う僕に、アケビさんは真剣な表情のまま、再度しっかりと頭を下げた。


「さて、んじゃ俺たちはそろそろ行くわ」


 ヘリオさんの言葉を受け、僕たちは次なる目的地へと向かった。


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大変長らくお待たせいたしました。投稿を再会いたします。

とりあえず2章完結まで執筆完了しましたので、本日より1か月ほど毎日投稿いたします。


よろしくお願いいたします。

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