第56話 涎草の効力
続いて僕は涎草の効力を確かめる事とした。
既に植物図鑑は召喚してある為、ペラペラとページを捲り涎草のページを開く。
そして今回は掌を上にしながら、うんと念じる。
すると魔力が減った感覚と同時に、僕の掌の上に涎草が実体化された。
……ここまでは今まで通り。
確かにこのままでも効力は確認できるが、実は一つ試したい事があった。
僕は涎草を収納した後、地面へと右掌をつけ、再び実体化を念じる。すると──
「おぉ」
──涎草は、地面に植わった状態で実体化した。
その涎草を優しく引っこ抜いてみれば、しっかりと地に根を張っている事がわかる。
これならば、仮にそのまま放置しても、右掌に直接実体化したものよりは枯れにくくなる筈である。
……よし。
確認した所で一度収納。
ここでステータスへと目を通してみれば、フィルトの木同様に魔力を20消費している事がわかる。
……涎草の効力によるけど、これはかなりコスパが良いんじゃないか?
その善し悪しを確かめるべく、僕は再び地面に手をつけ、涎草を実体化する。
……さて、問題は──
僕は火竜の一撃の皆さんの方へと視線を向け口を開く。
「涎草の魔物を集めるフェロモン? の有効範囲を調べたいんですが、何か良い方法ありますかね」
例えば、魔物であるライムに境界線を移動して貰えば、ある程度はわかる筈であり、かなり有効な方法と言えよう。
しかし、もしかしたら火竜の一撃の皆さんならより良い方法がわかるかも知れないのだ。ならば聞かない手は無いだろう。
そう思い問うた僕の声に、マユウさんが相変わらずの平坦な口調で、
「ん、ある」
と言った後、一拍空け、再び口を開く。
「以前、涎草の粘液から生じるフェロモンの様なものが、魔物等を集めていると言った。しかし正確には、涎草の粘液から発せられる魔素、それも変異した魔素に魔物等は引き寄せられている」
「魔素って……魔力の素となるやつですよね」
「そう。空気中に存在する成分の1つで、私達の魔力が回復するのは、呼吸の際にこの魔素を取り込んでいるからと言われている。そして、そんな空気中の魔素は、しかし場合によってその性質が変化する。例えば、涎草が取り込んだ魔素に魔物を引き寄せる力がある様に」
「今回はその変異した魔素が及ぶ範囲を調べるという事ですか」
「ん、そうなる」
「でも魔素って目には見えないですよね。それをどうやって──」
「確かに見えない。けど、変異した魔素に限っては、目に見えなくとも感じる事ができる」
淡々とそう言うマユウさん。しかしそれを聞いたリアトリスさんが苦笑いを浮かべると、
「因みに私には無理よ」
「俺も無理だわ」
「ガハハ! だな!」
「つまりマユウさんだけができる調査方法なんですね」
「ん、この中ならね」
言葉の後、マユウさんが目を瞑る。
瞬間、彼女の周囲がキラキラと輝きだす。
一体どの様にして魔素を感じているのか。正直この姿だけではわからないが、そのまま待っていると、
「わかった」
「本当ですか!」
「ん、涎草を中心におよそ10m。風の影響とかを受けている様子もない」
「……なんかここまでくると最早ギフトだな」
「ん、植物は凄い」
マユウさんはこちらへと視線を向け、
「レフト、他に何か試したい事はある?」
「はい! 次は、涎草を2本にした時の範囲が知りたいです」
「わかった」
僕は先程の涎草の近くにもう一本実体化する。見た目上は2本の涎草が並び粘液を垂らしているだけである。
……果たして範囲はどうなるか。
僕達が見守る中、マユウさんが再び目を瞑り、
「およそ20m。丁度倍になってる」
「近くに植えただけで倍になんのか」
「レフト! もう1本行ってみたらどうだ?」
「はい!」
グラジオラスさんの声に従い、再び涎草を実体化する。すると、
「ん、30mになった」
「涎草の数だけ有効範囲が広がる様ね」
「にしても何で近くに植えただけで、こうも均等に範囲が伸びんだろうな」
ヘリオさんの声に、みんなでうんと考える。その間、僕は何となく気になり、涎草を1本抜いてみる。
……と。
「……1本抜こうと思ったら残りの2本もついてきました」
「ん、根が絡まっている?」
「絡まっているというよりも、融合している……かしら?」
改めて3本纏めて掴み、根に付いた土を払い落とす。
……なる程、確かにくっついている様に見える。
「つまり涎草は根を広げ、近くの涎草と一体化する?」
「そして変異した魔素の有効範囲を広げて、自分達の生存率を上げる訳ね」
リアトリスさんの声に、僕は納得といった様子でうんと頷いた。
何はともあれ、涎草の有効範囲は10m、そして数を増やせば増やす程、その数に応じて距離が伸びる事が判明した。
……よし、次は実戦で確かめてみよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます