第55話 フィルトの木の実体化と仮説
あの後、気が付いた僕は、妙によそよそしい2人と共にそれぞれのベッドで就寝をした。
そして翌朝、予定通り帰宅をすべく、僕達は準備を整えた後ヘリオさん達と集合。
すぐ様馬車に乗り込むと、街を出発した。
その後はこれといったトラブルも無く順調に進んでいき、遂に初日の野宿予定地へと到着する。
と、ここで僕はヘリオさんにお願いをし、以前からやろうと思いつつも実行しなかったフィルトの木の実体化と、今回入手した涎草の効力を試す事となった。
馬車を木に括り付けた後、皆で少しだけその場を離れる。勿論、馬車を目視できる距離である。
次いで僕は植物図鑑を召喚。ペラペラとページを捲り、フィルトの木のページを開く。
「フィルトの木の実体化。一体、どうなるのだろう」
「今までの傾向からして、恐らく成木だとは思うんですが……」
しかしひとえに成木と言っても、その高さには勿論バラつきがある。
故に、今回実体化される木がどの程度の大きさになるのかにより、植物図鑑で実体化できる植物の、おおよその基準がわかるのではないだろうか。
僕は右掌を前方に翳す。
何故上に向けないのか。
今まで実体化した植物は全て掌に乗る大きさであった為、上に向けても問題無かったが、今回実体化するのは想定の通りであれば数メートルにもなる木である。
そんなものが仮に今までの通り掌の上に実体化されでもすれば、僕の右手はたちまちマユウさんのお世話になる事となってしまう。
故に今回はフィルトの木がどの様な状態で実体化されても問題無い様、前方へと向けているのである。
火竜の一撃の皆さんのワクワクとした視線が向けられる。
そんな中、僕はフィルトの木の実体化を念じ──瞬間、魔力が減る感覚と共に僕の右手に何やら堅いものが触れる感覚を覚える。
「おぉ……」
僕の右掌の先。そこにはおよそ高さ8メートル程か、立派なフィルトの木が鎮座していた。
……やっぱり成木だったか。それに、掌に触れる様に実体化されている。
想定通りの展開にうんと頷いた後、ステータスを開き確認すれば、魔力が20消費されている事がわかる。
……思いの外消費魔力が少ないな。
と、実体化したフィルトの木に触れたまま今回の結果について1人ぶつぶつと考えていると、火竜の一撃の皆さんが木を見上げながら、
「ハハハ! でかいな!」
「ん、かなりの大きさ。けれどフィルトの木にはもっと高いのもある」
「レフちゃん、もう一回実体化できる?」
「はい!」
リアトリスさんの声に従い、再びフィルトの木を実体化する。すると、再び僕の右掌に触れる様に木が出現した。
「ほー、殆ど同じ大きさだな」
ヘリオさんの言葉の通り、2本の木はかなり近しい大きさとなっている。
僕は三度フィルトの木を実体化する。やはりその大きさは直前の2本と変わらずであった。
「……およそ平均を実体化する?」
「ですね、僕も何となくそんな気がします」
マユウさんの言葉に僕は頷いた。
今回の件により、一つの仮説が立つ。
──植物図鑑から実体化される植物は、その大きさや効力など、全てにおいておおよそ平均的なものである……という仮説である。
例えば下級薬草の場合であれば、その成長具合は勿論の事、回復力においても数多ある下級薬草の平均程度となるのではないか。
勿論、様々な植物で検証した訳では無い為、断言はできない。
また、植物など新たに生えたり枯れたりするものであり、何を持って平均というのかも明確に定義出来ない為、どうしてもおよそという枕詞は付いてしまう。
正直、この仮説が正しいかどうかは、未だフィルトの木の結果しか考慮していない為、現状何とも言えない。
しかし、例え正誤の分からない仮説段階であったとしても、一つの基準として「こうではないか」と定義しておいた方が、今後植物を扱い易くなるのは確かである。
僕はうんと頷くと、実体化したフィルトの木を収納した。
……場合によっては攻撃にも使えそうだな。
と、フィルトの木を用いた戦闘方法について幾つかの案を思い浮かべながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます