第48話 登録失敗!?
ハンマーウッドを討伐したグラジオラスさんは、魔石を拾った後、涎草の粘液などお構いなしとばかりに此方へと向かってくる。
グラジオラスさんが馬鹿力である事から何とも言えないが、涎草の粘液は、人間の力ならば悠々と歩ける程度の粘性なのだろうか。
動きを止め、そのまま餓死させるという意味ではカラミヅルと似ているのかと思ったが、この様子ではどうもそうとも言い切れないのかもしれない。
そう思いながら、僕はグラジオラスさんを迎える。
「グラジオラスさんお疲れ様です!」
「おうよ! ほれ、レフト」
言ってグラジオラスさんがハンマーウッドの魔石を差し出してくる。
「えっ、良いんですか」
驚く僕に、ヘリオさんが口を開く。
「良いも何もそれが目的でここまで来たからな。寧ろ貰ってくれねぇと俺らが困る」
「ありがとうございます!」
受け取り、早速登録しようと魔石を握る。
そのまま10秒程経過した所で、魔石が光に──変わらなかった。
「あ、あれ?」
僕が登録する様を目にするのが初めてだったからか、ワクワクした目で見ていた皆さんが総じて首を傾げる。
「ん、どうしたのレフト」
「お、おかしいです。登録できません」
「普通ならもう登録できてんのか?」
「はい。手に持って10秒程経過すると勝手に……」
その後1分程待ってみるも、魔石はうんともすんとも言わない。
「もしかして、登録には何か条件がある?」
独り言の様にマユウさんはぽつりと声を上げる。対し僕はそれに答えるように、
「単なる植物の方は毎回登録できるので問題無さそうですが、魔物に関してはまだ何とも」
「とりあえず涎草を登録してみたらどうだ?」
「はい」
ヘリオさんの提案に頷いた後、僕は涎草に近づく。そして粘液を避けるように茎の辺りに触れる。
すると一定時間の後、涎草はいつもの様に光になると霧散。植物図鑑を開き確認すると、涎草の名がしっかりと刻まれていた。
「んー、レフトの言う通り植物は問題無く登録できると。って事はやっぱ魔物の登録で何かある様だな」
ヘリオさんの言葉の後、マユウさんは無意識なのか、唇に片手で触れながら口を開く。
「……考えられるのは、2つ。1つは魔物を討伐したのがレフトでは無かったから登録対象として認識されなかった」
注目の中、マユウさんは一拍空け口を開く。
「2つ目は、植物の様な魔物ならば全て登録できるという訳では無く、登録できる魔物には何らかの条件があるということ」
なる程と頷く僕に、マユウさんは更に話を続ける。
「これを確かめるには植物系魔物、できれば今回登録できなかったハンマーウッドをレフト1人で討伐する必要がある。けど──」
言って苦い顔を浮かべるマユウさん。ヘリオさんが続く様に、
「いきなりランクDの魔物を倒せってのはちょいと酷だよな」
頷いた後、マユウさんはヘリオさん、グラジオラスさんの方へと視線を向ける。
「……ここら辺で他に植物の様な魔物っている?」
「ある程度奥地に向かえば一応何体か居るが……今回の日程的にちょいと厳しいな。ここ周辺となると……んーー」
腕を組み悩むヘリオさん。
と、ここでグラジオラスさんが意気揚々と、
「ユレニドルはどうだ!」
「あれは恐らく菌類。明確に植物とは言えないから今回は却下」
「……なら、食人花とかどうだ?」
「食人花……確かに可能性はありそう」
「何ですか、そのおどろおどろしい名前の植物は……」
言ってうへーと顔を歪める僕に、マユウさんは淡々とした口調で、
「ランクEの魔物。花に擬態していて、近くを通った動物に鋭い牙で噛み付く。攻撃力はそこそこだけど、移動できない事、防御力が低い事から対処法さえ知っていれば、幼子でも討伐できる」
「攻撃力全振りって感じの奴だな」
「……でも、ここら辺に居た?」
「んー、確かここからもう少し東に行った所に群生地があった筈だ」
「ん」
なる程と頷き、マユウさんは視線を僕の方へと向ける。
「……レフト、疲れてない? まだいける?」
「はい! まだまだ大丈夫です!」
言ってニッと笑うと、マユウさんも釣られる様に柔らかい笑みを浮かべ、
「なら、このまま向かおうか」
と言い、こうして僕達は、植物系魔物登録の条件を探るべく、食人花の群生地へと向かった。
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