第46話 リアトリスの仕事と〇〇再び

 翌朝、全員で朝食を取った後、リアトリスさんは仕事の為1人出かけていった。


 離れ難いとばかりのリアトリスさんを宥め送り出すのはかなり大変であった。

 しかしそれでも何とか送り出した後、そういえばリアトリスさんが今から何をするのか聞いてなかったと思い、それとなしに皆さんに聞いてみる。

 するとマユウさんが別段おかしな事でもないとばかりに、


「荷物運び」


 と言う。


「……え」


 僕は思わず眉を潜めてしまう。


 ──Bランクパーティーへの指名依頼で……荷物運び?


 困惑してると、そんな僕の様子を目にしたヘリオさんが柔らかく笑う。


「まぁそれだけ聞きゃ、指名依頼なのに? とは思うわな」

「は、はい。まさにそう思いました」

「まぁ、あれよ。荷物運びでもその規模が違うのよ」


 言って何とも言えない表情を浮かべるヘリオさん。その表情で荷物運びが一体どれ程の規模なのかを察する。


「──なる程、だからリアトリスさん宛ての依頼なんですね」

「そう。リアの空間魔術をあてにして」


 空間魔術について詳しくは知らないが、今回の遠出の際に大量の荷物を収納していた事から、かなりの容量を扱える事がわかる。


 ──では、もしそんな空間魔術で、例えば家の様に大きなものを収納できるとすればどうか。


 なる程、確かに通常では移動不可能なものを簡単に、しかも一瞬でできる事になり、かなり便利であると断言できる。


 思い僕がうんうんと頷く中、ヘリオさんが口を開く。


「んま、確かに指名依頼という割には地味な依頼だがな。こういう依頼も人の為になると思えば、断る訳にはいかないわな」


 人の為に……。


 ヘリオさんの言葉を受け、冒険者活動の根幹に『人の為』がある事を改めて理解し、


「そうですね」


 言って僕は柔らかく笑みを浮かべた。


 ◇


 その後少しして、ヘリオさんが勢いよく立ち上がると、


「さてと、そろそろ行くか」

「……? 何か予定が──」


 首を傾げる僕に、ヘリオさんは片眉を上げる。


「約束したろ? 有用そうな植物がある場所へ案内するって」

「──あ」

「おいおい、忘れてたのか?」


 言ってヘリオさんが半目を作る。

 僕は頭を掻きながら、


「すみません。野宿とか、ここ、ミカルデの街とか、目にする全てが新鮮で、つい──」

「楽しかったんだな!」


 そう言い、豪快に笑うグラジオラスさん。僕は大仰に頷く。


「はい! それはもう!」

「ガハハ! 良い事だ!」

「いや、だからってレフトにとってのメインイベントを忘れんなよな」


 言って苦笑いを浮かべるヘリオさんに、僕はあいも変わらず小さく笑うと、


「あはは、申し訳ないです」


 と、ここでマユウさんが首を傾げる。


「それで、どこに向かう?」

「そりゃもう、ここらで植物といえばあそこよ──」


 言ってニッと含みを持った笑みを浮かべるヘリオさん。


 一体どんな場所に行けるんだろうとワクワクしながら、僕はすぐ様皆さんに連れられて街を出た。


 街を出てすぐに広がるパルジャ平原を北へと進む。

 時折遭遇するゴブリン等低ランクの魔物を、マユウさんが目にも留まらぬ速さで討伐しつつ歩いていくと、前方右側に何やら見慣れた深緑が目に映る。

 まさかと思いつつ、僕はヘリオさんの方へと視線を向ける。


「ヘリオさん。もしかして、今回の目的地って──」

「ははは、すまんな。どうしてもこの辺で植物となりゃここが最適なのよ」


 近づけば近づく程に、視界の右側いっぱいに広がる深緑。

 まるで飲み込まれてしまいそうな程の、不気味で途方もないその場所を、僕は確かに知っている。


 到着と同時にマユウさんが口を開く──


「結局ここが一番だね」


 ──僕の人生2度目の訪問となる、魔物の森の前で。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る