第45話 ミカルデの街
あの後、道すがらもう一度野宿をし、迎えた3日目の夕方頃。馬車の客車から顔を覗かせると、僕の視界に大きな街が映る。
「ヘリオさん!」
「ああ! あれが目的の街、ミカルデの街だ!」
──ミカルデの街。
国内三大都市の内の1つであり、辺境伯様が統治している街である。
三大都市というだけあり、ミカルデの街の規模感は、僕の住むフレイの街の倍以上と言える。
そんなミカルデの街に近づくと、門の前に長い列が出来ている事が見て取れる。
商人、冒険者など様々な職種の人が並ぶその列を目にすれば、いかにミカルデの街が盛り上がっているかがわかる。
それにしてもこの列に並ぶとなると、街に入るまでかなり時間がかかりそうだな……と思っていると、
「……へ?」
僕達の乗る馬車は、その長い列の後ろにつく事無く、脇をすり抜ける様に進んで行く。
困惑する僕に、同じく客車にいるマユウさんが大丈夫とばかりに微笑んでくる。
その姿に安心を覚えつつ客車で待っていると、遂に馬車が門の前に到着し停車する。
そしてヘリオさんが業者台から降りると、近場の兵と会話をする。すると列関係無くすんなりと通してくれる。
「ほら、街からすれば指名依頼を受けた私達は賓客みたいなものだから。……並んでいる人達には申し訳無いとも思うけどね」
言ってリアトリスさんが柔らかく笑う。
なる程と僕は頷く。
指名依頼がどれ程特別なものなのか、そして依頼される火竜の一撃がいかに凄まじい人々なのかを改めて実感した。
と、そうこうしている内に何やら案内人の人がやってきた様である。
僕達はその案内に従い馬車のまま街を行く。
どうやら既に宿も用意されているという事で、最初の目的地はその宿となる。
案内人の方に誘導されながらいかにもな高級住宅地を行き、遂に目的の宿へと到着する。
馬車を専用のスペースに置き、宿の方に管理を任せ、僕達は宿へと入る。
その際、馬車から降りた僕を見て、案内人の方が怪訝そうな表情を浮かべたが、ヘリオさんが付き添いである事を説明してくれたおかげで別段追及もなかった。
それにしても──
宿の中は驚く程に広かった。
僕も曲がりなりにも貴族であり、故にこれまでも様々な宿へと泊まった事がある。
しかしそれでも、正直ここまでレベルの高い宿は初めてであった。いや、というよりも、そもそもフレイの街にこれ程の宿は無い。
「凄い所ですね」
「ねー、私達もびっくり」
周囲を気にしてか小声のリアトリスさんに、マユウさんがコクリと頷く。
僕だけでなく、火竜の一撃の皆さんも一様に驚きつつ案内人に従い宿の中を行く。
その全てが物珍しく、周囲をキョロキョロとしながらついて行くと、ここで遂に案内人が足を止める。
「こちら1号室と2号室が、今回火竜の一撃の皆様に宿泊して頂くお部屋になります」
という言葉の後、幾つかの説明をすると案内人は離れていった。
「どうする?」
「俺達はどっちでも良いぜ」
「ん。なら1号室にする」
「あいよ」
ひとまず男女に分かれ、部屋で休む事にした。マユウさんとヘリオさんにより、1号室が女性陣、2号室が僕達男が使う事になった。
「じゃ、また後でね。レフちゃんもまたねー!」
「はい!」
女性陣が部屋に入って行くのを見送った後、僕はヘリオさん、グラジオラスさんと共に2号室へと入る。
「わぁー」
思わず声を上げてしまう。流石のヘリオさんやグラジオラスさんも、このレベルの宿に泊まった事はないのか、ほぉと感心した様子である。
「お、ベッドも3つあるな」
ちょうど用意してくれていた部屋が、宿で最も広い部屋だった様で、運良く3人部屋であった。
仮に2人部屋だった場合は、ヘリオさんがもう一部屋借りるつもりだった様である。……良かった、3人部屋で。
そのまま僕達は物珍しさから探索する様に部屋の中を歩いていると、奥に何やら重厚な扉があるのが目に入る。
「お、まさか!」
ヘリオさんがワクワクした様子で扉を開く。
するとそこには十分な広さが確保されたお風呂があった。
「内風呂か! 凄ぇ宿だな!」
ガハハとグラジオラスさんが楽しげに笑う。
──それにしても本当に凄い。
確かに一般的な高級宿にも風呂はある。しかしあったとしても基本は大衆浴場である。
こうして各部屋に内風呂がある宿など、この世界ではまず目にする事は無く、当然僕にとっても初めての事であった。
「いいんでしょうか……関係無い僕までこんな高級宿に泊めて頂いて……」
「折角の3人部屋なんだから、2人よか3人で使う方が良いだろ。だから気にすんな。……それよりも俺は腹が減った!」
とヘリオさんが言った瞬間、周囲に地鳴りの様な音が響く。
驚きキョロキョロとする僕。しかしヘリオさんは一切驚く事なく、寧ろ楽しげにコロコロと笑うと、
「ジオも空腹みてぇだな」
「え、今のお腹の音なんですか!?」
思わず声を上げ、グラジオラスさんの方へと視線を向ける。グラジオラスさんは照れた様に頭を掻いている。
「ハハ、ジオのは一際凄ぇんだわ」
「やめろ! 照れるだろうが!」
言って2人が楽しげに笑う。女性陣が居ないからだろうか、普段にも増して親友という言葉が似合うやりとりである。
そんな中々見ない2人の姿を僕は微笑ましく思うのであった。
◇
その後、
「……うし、んじゃ飯行きますか!」
というヘリオさんの言葉に従い、リアトリスさん達と合流し、宿の外で夕飯を取った。久しぶりの複雑な味に感動しつつ、僕達はお腹一杯になるまで料理を堪能した。
尚、料金については街の方で持ってくれるらしい。因みに僕の分も払ってくれるとの事。凄まじく太っ腹である。
食事の後は、宿へと戻り3人で内風呂を堪能した。流石に3人全員が浸かるとなるとかなり一杯一杯であったが、まるで修学旅行時の男子風呂の様で、これはこれで楽しかった。
風呂から上がった僕達は、他愛もない話をしながらのんびりと過ごし、その後は翌日からのスケジュールの事を考えながら、ふかふかのベッドで就寝するのであった。
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