閑話2 リティナと2人の師
レフトとの婚約解消の後、日々の修練に励む中で、私は行き詰まりを実感する。
学業に関しては問題無い。既に国内最高峰のネモフィエラ学園の受験生と、同等の知識は有しているから。
なら、一体何が問題なのかと言えば、実技──所謂剣術や魔術である。
というのも、戦闘に関する事で現状私が教わっているのは魔術の理論や剣術の基礎となる剣の振り方ばかり。実際に誰かに師事し、直接的な戦闘訓練を行った事は一度も無い。
レフトは10歳になる前から剣術を習っている。なのに何故私に師がいないのか。
理由が2つある。
1つは、お父様が直接教えてくれるから。
お父様は優れた剣才の持ち主で、自分が暇な時に私の修練をしてくれる。
とは言ってもお父様は多忙な人。当然直接指導なんて1カ月に2度あれば良い方であり、現状は自習の様な形で剣を振るばかりとなっている。
2つ目はお父様以外に私に教えられる人が居ないから。
私達ビーバナム家の治める町はそこまで大きくは無い。それでも町は活気で溢れているし、純粋に戦闘力の高い人ならば沢山存在する。
ならば何故、私の師となる存在が居ないかと言えば、ひとえにその人達が平民だからである。
平民も貴族も関係無いと思うかもしれないが、残念ながらお父様達は内心で平民を見下している節がある。
だから、いくら私が平民でも全く問題が無いと思っても、お父様が許してくれないのだ。
こんな事で、ネモフィエラ学園に合格できるのか。
そう思う人もいるかもしれないが、残念ながらと言うべきか、ネモフィエラ学園入学に必要なのは学力と、非情ではあるがギフトの内容──つまりは才能である。
私のギフトを考えれば、勉強さえ頑張れば学園入学はまず間違いない。ならばそれ以降に本格的に戦闘を学ぶというのも、決して間違った事では無い。
しかし……それでは間違い無く、目標である学園の首席は狙えない。
ならばどうするか。
当然剣術や魔術の師となる人物を探すべきではあるが、残念ながら私にその様な人脈は無い。加えて基本的に1人で家の外に出る事を許されておらず、探しに行く事も叶わない。
……仕方がない。ここはお父様に相談しよう。
私はお父様の元に赴くと、国内最高峰のネモフィエラ学園に入学し、首席を取りたい事、その為には早々に戦闘力を鍛える必要がある事を伝える。
勿論、学園首席を獲得したい理由……レフトの事は話さない。
実力主義のお父様は、普段あまり主張をしない私が明確に目標を言ったからか、酷くご機嫌な様子で、すぐ様用意してくれると言ってくれた。
──1週間後。
お父様から、週2日教えに来てくれる人が見つかったと聞かされる。そして初対面の機会は2日後に設けられている様である。
「よかった」
私はふぅと息を吐き、1人小さく微笑む。
これで再び成長できる! という喜びと共に、一体どんな人物が来るのかと若干の不安を覚えながら迎えた当日。
公務の為、お父様達はお迎えできないという事で、庭で1人待っていると、遠方から馬車がやってくる。
馬車はゆったりとしたペースでこちらへと近づいた後、家の前で停車。
次いで客車の布が揺れ、中から金色の長髪を持った女性──いや、少女と言った方が正しいか──が降りてくる。
師というにはかなり若い女性である。金属製だろうか、光沢のある薄めの鎧に身を包み、腰からはいかにも高級そうな剣を挿している。
「ふふっ」
金髪の女性がこちらへと目を向けると、おっとりとした整った容貌に、柔らかい笑みを浮かべる。
優しそうな人……と思っていると、続いてもう1人降りてくる。
まず目についたのは燃えるように真っ赤なミディアムショートの髪。そしてそこに浮かぶ勝気な表情である。
身体付きから女性とわかるが、パッと見ではどちらか判断がつかない程に中性的な容貌をしている。
年の瀬は金髪の女性と同じ位か、こちらもやはりかなり若く見える。
そんな赤髪の女性は馬車から降りると、私の存在に気付いたのか、こちらへと視線を向け、
「お、やっほーリティナ!」
と言って快活な笑みを浮かべた。
金髪の女性が口をあんぐりとした後、ハッとし、
「シ、シネラ! 初対面の相手に向かって呼び捨てとは何ですか! もう少し礼儀正しくいきなさい!」
「んー? 別に良いでしょ。ね、リティナ」
突然話を振られた事に驚きながら私は頷く。
「は、はい。私は構いません」
「ほらー! ネリネは頭が固すぎるんだよ! やーい! 堅牢の流麗姫ー!」
「……んなっ! そのあだ名で呼ばないでといつも言ってるでしょう! というよりも、そもそも私は正しいと思った事を言っただけで──」
到着して僅か数十秒にして突如勃発した言い争い。
想定外の事態に、私が困惑していると、シネラと呼ばれた赤髪の女性がはっとした様子で、
「あ、ごめんごめん。んじゃ、早速自己紹介といこうか」
言って親指で自身の方を指しながら、鋭い犬歯を見せつつニッと笑うと、
「あたしはネモフィエラ学園高等部魔術師科2年三席、シネラ・ローダンセ。よろしく! そして──」
「私が同学園高等部騎士科2年次席、ネリネ・シーマニアです。よろしくお願いしますね、リティナさん」
──2人の若き師。まさかこの2人との関係が今後数十年と続く事になるとは、この時の私は想像だにしていなかった。
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