第42話 夕飯

 スープを木椀によそい、皆さんへと分配する。


 これにより、全員の前にスープ、乾パン、そしてデザートとして8等分したオリンジが並ぶ事となり、夕飯の完成となる。


 ……うん。


 限られた具材、限られた調味料の中で作った割には、中々栄養バランスの良いメニューが作れたのではないだろうか。


「ん〜良い匂い!」


 リアトリスさんが言う様に、確かにスープからは良い匂いが漂ってくる。


 1日2食という事もあってか、かなりお腹が空いており、その空腹感がまたスープへの期待感を高めてくれる。


 と。ここで、クゥゥと可愛らしい音が辺りに響く。

 音源の方へと目を向けると、そこにはお腹をさするマユウさんの姿があった。


「腹ぺこ」

「ヘリオ、早く!」


 急かすリアトリスさんの声に、ヘリオさんは頷くと、僕の方へと視線を向け、


「まずは料理を作ってくれたレフトに感謝だな。ありがとな、レフト」


 続く様に皆さんが感謝の言葉をくれる。

 口々に語られるその言葉に照れ、頭を掻きつつ、僕は口を開く。


「いえ。あの、皆さんここに来るまでに沢山汗をかいたと思うので、今回のスープは気持ち濃い目にしてみました。お口に合えば良いのですが……」

「心配すんなレフト! 匂いの段階で旨いのは確定しているッ!」


 ガハハと笑うグラジオラスさんの声に、ヘリオさんが頷く。


「だな。……んじゃ早速」


 言って手を合わせ、


「いただきます!」


 と揃えて声を上げた後、皆お腹が減っていた様で、早速スープを口に含む。


「美味しい! 美味しいわレフちゃん!」

「……んむっ! レフト天才!」

「野営でこんな美味い飯食ったのは初めてだわ」

「ガハハ! 美味いな!」


 反応は上々である。


 ……良かった、喜んで貰えた。


 彼らの姿を見ながらそう嬉しく思っていると、続いてリアトリスさんが乾パンをスープに浸し、口に入れた。


「あの味気無い乾パンが嘘の様に美味しいわ!」


 その声を聞き、皆さんがスープに浸した乾パンを食していく。

 みるみる減っていくスープ。


 ……人に食べてもらって、その上で喜んで貰う事がこんなに嬉しい事とは。


 皆さんの姿を見ながら自然と微笑んでいた僕に、マユウさんが首を傾げ、


「レフト、食べないの?」

「あ、いただきます」


 木のスプーンで掬い口元へと運ぶ。

 瞬間、キラキラと透き通ったスープから漂うガーレッグの匂いが、ふんわりと優しく鼻腔を擽る。……何とも食欲をそそる匂いである。


 ごくりと息を飲む。


 そして期待感を高めながら、遂にスプーンを口に含む。


「…………っ!」


 瞬間、口内に広がる野菜の強烈な旨み。

 味付けが塩胡椒というシンプルさ故か、素材の味をダイレクトに感じられる。


 しかし決して味気ないという事はなく、干し肉から出る出汁、黒胡椒のピリッとした辛み、そしてガーレッグの香りにより深みが増し、かなりの完成度となっている。


「美味しい」


 思わず声を漏らした後、僕は乾パンを手に取り、スープへと浸した。スープを吸い上げ、徐々に乾パンが膨らんでいく。


 その乾パンを、タイミングを見計らい、スープを溢さない様に口へと運ぶ。

 麦の香りと、しっかりとしたパンの食感が加わり、より美味しくなる。


 僕達は夢中で食べ進めた。


 ◇


 半分程食べた所で、僕はそうだと思いつき、植物図鑑を召喚し、ライムを実体化する。


「どうせなら、ライムも一緒にね」


 以前判明した事なのだが、どうやら植物図鑑から実体化した魔物は、食を必要としない様である。

 故に別段これと言って食事を与える必要も無いのだが……ライムも仲間なのだ。

 食事の輪の中に入れてあげないのは流石にかわいそうであろう。


 とは言え、ライムにスープを与えるのは色々と不安な部分もある為、


「よし、これにしよ」


 僕は新たに下級薬草を実体化し、これを地面へと置いた。

 するとライムが「なーにー?」とこちらへ視線を送っている様な感覚を覚える。

 僕はライムへと笑顔を向けると、


「ライムのご飯だよー。一緒に食べようね」


 瞬間、「ごはんー!」とばかりにもにょもにょと、普段よりも少しだけ俊敏な動きで下級薬草に近づいていく。

 そして覆い被さる様に下級薬草を体内に取り込んだ後、ジュワーっと少しずつ消化していく。


 その様を目にしながら僕は疑問を覚える。


 ──果たして美味しいとかそういう感覚はあるのか……と。


 正直こればかりはわからないが、少なくともライムから届いたのが正の感情であった為、僕はホッとしつつ再び食事を再開し、そして同時に思う。


 目前で嬉々として僕の作った料理を食べる皆さん。


 調味料が少ない今回でさえこの反応なのだ。……ならば、調味料がある程度揃った時、どうなるのか。


 きっと今以上に喜んでくれるに違いないと、僕は未来を思い、心を躍らせるのであった。

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