第41話 レフトクッキング

 皆さんにゆっくり休んでてもらうよう伝えた後、僕は何を作ろうかとうんと頭を悩ませる。


 しかし残念ながら、今回作れそうな料理があまり多くは浮かばない。


「うーん……」


 ……というのも、圧倒的に調味料が足りないのである。


 今回僕が持ってきた調味料は、実家にあった塩と少量の黒胡椒のみ。そして先程聞いた所、火竜の一撃の皆さんも塩くらいしか持っていないと言うのだ。


 ──なら、黒胡椒を登録すればどうか。


 胡椒も元を辿れば植物であり、これを登録すれば少なくとも十全に使用できるだけの胡椒は手に入る……と、そう思う人もいる事であろう。


 僕もできればそうしたい所ではある。


 しかし──実は以前、実家にあった胡椒を利用して登録を試し、失敗をしてしまった事があるのだ。


 恐らくではあるが、家にあった胡椒が実では無く、粉末状であった為、一個体の胡椒として認識されなかったのでは無いだろうか。

 というのも、先日の食用植物登録の際、オリンジを登録できた事から、例えば果実単位であれば、植物を登録できる事が判明した。では、仮にこのオリンジを何等分かしたものを登録に使用したらどうなるか。


 この時はそこまで気が回らず、果実単位で登録してしまったが、恐らく何等分かしたオリンジでは、粉末状の胡椒が不可能であった様に、登録できなかったのではないだろうか。


 ならばと、僕は胡椒を実として入手し登録しようと考えたのだが、なんと街のどこを探しても胡椒の実は見つからなかった。


 しかしこれも仕方が無いと言える。


 何故ならば、この世界では胡椒をはじめとした香辛料はかなり貴重であり、故に限られた市場でかつ高値で取引されているのである。

 加えて、市場に流通しているのは粉末状のみであり、実の状態で見かける事はまず無い。


 ……それでも諦めきれなかった僕は、一応この事をお父様に話した。するとお父様は知り合いの商会に尋ねてくれるという。それが丁度遠出直前の事であり、現在僕はその結果を待っている所なのだ。


 と。そういう事で、現状黒胡椒を持ってはいるが、これも大した量は無い為贅沢には使えず、故に使える調味料は殆ど塩のみとも言える。


 となるとやはりどうしても単調な料理しか作れない。


 ……まぁ、仕方がないか。調味料を沢山使った凝った料理はまた今度作るとして、今日は限られた調味料で、できる限り美味しいものを作ろう。


 そう思い、眼前でグッと両拳を握った後、僕は早速準備に取り掛かった。


 まずリアトリスさんにテーブルを用意してもらう。

 そして植物図鑑を召喚すると、ギャベズ、カウブ、ボールネギ、キャロテ、トゥリマメ、タールイモ、ガーレッグを実体化する。


 ちゃんと手に取るのは初めての為、1つずつ確認していくが、やはり地球にあった野菜と近しいものが多い。


 これなら大丈夫そうだ。……っと、


「ヘリオさん、お水ってどこのやつを使えば良いですか?」

「あぁ、すまん。リアトリス頼む」


 リアトリスさんが200リットルは入りそうな大きな樽を異空間から取り出す。


「飲料としても使える水だ。好きに使ってくれ」

「ありがとうございます!」


 テーブルの上でナイフを使い、野菜を切っていく。

 タールイモ4つ、カウブ1つ、キャロテ1本は乱切り、ギャベズは4分の1をざく切りに。ボールネギ1つは薄切りにし、ガーレッグを1かけみじんぎりにする。


 野菜を切り終えた所で大きめの半球状の容器を用意し、そこに水を張る。

 次いでタールイモに塩を強めに振り、よく揉んだ後、用意した水でそそぐ。

 これを3回程繰り返し、タールイモのぬめりを取る。


 次に大きめのフライパン──中華鍋の様に深い──にみじんぎりにしたガーレッグを入れ、軽く火にかけ、ジワジワと香りを出していく。


 そして、ふんわりと辺りに漂う程度まで香りが出た所で、ぬめりを取ったタールイモ、乱切りにしたカウブ、キャロテを入れ、軽く炒めていく。


 と、ここで僕の後方からひょこりと覗く影が現れる。


「ほぅ……!」

「随分と手際が良いな」

「レフちゃん凄い……!」

「レフト……天才?」


 そんな大それた事はしていない様に思うが、褒められるのは嬉しく、僕は小さく微笑む。


 因みにこの世界では一度もまともに料理をした事が無い。

 ならば何故料理を作れるのかと言えば、勿論前世の知識のおかげである。


 というのも、一人暮らしの上、収入の少なかった前世の僕は、外食は高くつくからと、ほぼ毎日料理をしていたのである。


 ──なるべく安い食材でバリエーション豊かに、そして尚且つ美味しいものを。


 様々な工夫を凝らしながら行う事で、メキメキと上達していく料理の腕……。


 ──いやー、まさかあの社畜生活が、間接的だけど、こんな所で役に立つとは。


 嬉しいんだか、悲しいんだか、何とも言えない複雑な感情を抱きながら、続いてギャベズ、ボールネギをフライパンに加え更に炒めていく。


 この間に、うっかりしていたとばかりにヘリオさんに声を掛け、干し肉を分けてもらう。

 食べ易い大きさに何とか切り分け、これもフライパンへと加える。


 そのまま炒めていき、ボールネギが透き通ってきた所で、水をおおよそ1リットルと、あらかじめサヤから取り出しておいたトゥリマメを二掴み分加える。


 フライパンの位置を動かし、何とか中火程度の火加減を作り出し煮込みながら、塩を10g程度加える。


 後は時折混ぜながら5分程煮込む。そして最後に軽く黒胡椒を振り掛け、味見をし──


 ……うん!


「できました!」


 こうして、僕の異世界最初の料理、具沢山野菜スープが完成した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る