第40話 火竜の一撃の意外な弱点
客車の外は出発前とはだいぶ様相が違っていた。
一面に広がる青々とした草地にポツポツと点在する木々。地平線を一望できるこの場所から辺りを眺めるも、建物の様なものはてんで見えず、出発地であるフレイの街からかなり離れた事が視覚的に理解できる。
今回はそんな点在する木の内の1本の下で野宿をする様で、ヘリオさんは木に馬車をくくり付ける。
そしてそれが終わると同時にこちらへと視線を向ける。
「んじゃ、日が暮れる前に準備しちゃおうぜ。……マユウ」
「ん。任せて」
言ってマユウさんが眼前で祈る様に両手を組み、目を閉じる。すると彼女の周囲をキラキラとした光が覆い始め、
「
と口にした瞬間、その光がマユウさんを中心として広がり、一帯を覆う半球状の光のドームの様なものが出来上がった。
「……わぁ」
美しさに感動しつつ驚きを見せる僕に、マユウさんは淡々とした口調で、
「
「凄いですマユウさん! これで安心して野宿ができるという訳ですね!」
「お陰で俺達も随分と助かっているぞ!」
言って清々しい笑い声を上げるグラジオラスさん。マユウさんは照れたのか、
「ん。なら良かった」
と言いつつ頬を赤らめる。
……褒められ慣れていないのだろうか。
その後、皆で協力して野営の準備をする事になった。
まずリアトリスさんが、魔術(空)により異空間に保管されていたあらゆる道具を取り出す。
ポンポンと出てくる大きな道具の数々に驚くと同時に、一体どれくらい入るのかとその容量が気になったりもした。しかし今聞いては邪魔になると考え、それは後回しとし、ひとまずテントを設置していく。
今回設置するテントはそこそこ大きなものが2つ。どうやら男女でテントを分けている様である。
皆さんに教わりつつ、スムーズにテントを組み立てていく。
そして完了と同時に、今度は付近に薪をくべ、発火系の魔道具で火をつける。
この魔道具の扱いには慣れが必要という事でヘリオさんが行っているのだが、その様子を見ながら僕はふと思う。
……この感じだと、リアトリスさんは魔術(火)は持ってなさそうだな……と。
仮に持っていればそれで火を付ければ良い。それをしないという事は「火力が強くて制御ができない」という通常の魔術系ギフト持ちとしては考えられない理由が無い限りは、持っていないという事になるだろう。
ヘリオさんが手際良く炎を起こす。
ちょうどここで辺りが薄暗くなってくるも、しかし炎の光により、視界が奪われる事は無い。
「うし」
火加減が最適であるからか、ヘリオさんが頷き、これでひとまずの準備は終了となった。
僕達は、火を付けている間にリアトリスさんが用意してくれた椅子にそれぞれ腰掛ける。
そのまま焚き火に当たりつつ、少し休憩した所で、「クゥゥ」といういかにもな音が僕のお腹の辺りで鳴る。
それを聞き、ヘリオさんは柔らかく笑うと、
「飯にすっか」
「あ、料理するのなら、僕が野菜を提供しますよ!」
お腹が鳴った恥ずかしさで少しだけ頬を赤らめながらそう言うと、ヘリオさんは先程とは違いワクワクした様な笑みを浮かべる。
「その物言いだと……登録したか?」
「はい!」
「そうか。……でも悪ぃな」
言って一転、ヘリオさんはばつが悪そうな顔をする。
その様子に、僕が頭上にハテナを浮かべると、リアトリスさんがアハハと苦笑しながら、
「実はね、私達誰も料理が出来ないの……」
「ガハハ! だから食事は専ら!」
「干し肉とか乾パンとか長期保存可能なものだけ」
「そうだったんですか……。あれ? でもリアトリスさんの空間魔術なら……」
「確かに持ち運びは出来るけど、時間の経過は外と変わらないの」
空間魔術が作り出す異空間の中だからと言って、食べ物が腐らないという事はないようだ。
「……という訳だレフト。申し訳無いが、野宿の間は味気ない飯で我慢してくれ」
スマンとばかりに頭を掻くヘリオさん。
その姿を目に収めながら、僕は1人小さく笑う。
……良かった、持ってきておいて。
思いながら、僕はリアトリスさんの方へと視線を向ける。
「……リアトリスさん。預けていた僕の荷物取り出して貰っても良いですか?」
「え、う、うん」
突然の事に疑問を覚えつつも、リアトリスさんは魔術(空)を使用し、大きな荷物を取り出してくれる。
「ありがとうございます!」
言って、皆さんの注目の中、ガサゴソと荷物を漁り──22世紀の某猫型ロボットよろしく鉄製のフライパンを取り出す。
「フライパン?」
「レフちゃ……ッ! まさか……!?」
ここで察したのか、リアトリスさんがこぼれ落ちそうな程大きく目を見開く。
他の皆さんもリアトリスさん程では無いが驚いた様子でこちらに目を向ける。
そんな注目の中で、僕はうんと頷いた後、フライパンを高く掲げながら、
「もし皆さんが宜しければ、今日の夕飯は僕に任せてください!」
「レフちゃんの手料理!」とパァっと明るい表情を浮かべるリアトリスさん。
対し、どんな出来でも喜んで食べてくれそうな彼女以外は、若干困惑した表情を浮かべている。
それもそうか。何故ならばフライパンをはじめ、今回揃えた調理用具は全て新品。全く使った様子が無いのである。
ましてや僕は貴族の子供であり、普段手料理をする事も無い筈と考えたのだろう。
が、それでもどうせならばとでも思ったのか、最終的には、
「んじゃ、レフト。よろしく頼む」
というヘリオさんの声の後、皆さんが首を縦に振ってくれた。
……さて、何を作ろうかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます