第39話 パルジャ平原
僕が住む街、フレイの街の近くには、北から南へミカゲ川というそこそこ大きな川が流れている。そしてこの川を境として、東側に今の僕の狩場であるゴブリ平原と街が、西側にはパルジャ平原という別の平原が存在する。
今回僕達は、普段利用している東門ではなく、向かいの西門から出て、ミカゲ川の上に伸びる石橋を渡り、このパルジャ平原を行く。
パルジャ平原も基本的にはゴブリ平原同様にランクの低い魔物ばかりが生息している。しかし、時折ランクDやランク Cの魔物も発見されている事から、ゴブリ平原よりは難易度が高いと言われている。
と、そんな平原を行きながら、しかし客車の空気は非常に緩く、ニコニコと満面の笑みを浮かべるリアトリスさんと、柔らかく微笑むマユウさんと共に僕は談笑をしている。
業者台にいる2人に申し訳ないとも思うのだが、ヘリオさん曰く、休める時に休むのも冒険者の仕事らしい。
これといった仕事も無く、ただ同行させて貰っているだけの僕がこうして休ませて貰うのもおかしい様な気はするが、ここはリーダーであるヘリオさんの考えに従うべき所である為、こうしてゆっくりとさせて貰っている。
と、ここで談笑ついでに改めて今回の予定を確認する。
まず期間はおよそ1週間を予定している。
流れとしては、途中で野宿を挟みつつ馬車で2日程移動し、目的の街へ。
街にはリアトリスさんの依頼含め3日滞在。この間に植物を探しに行く様である。
そして依頼が終わったら再び2日かけ馬車で移動となる。
半分以上が移動時間である事を考えると、前世が如何に便利だったのかを実感する。
近くにある時は意外とそのありがたみに気付けなかったりするんだよね……などと考えていると、ここで突然馬車が止まる。
何かあったのかとキョロキョロする僕。対してこれといった焦りも無く、至極落ち着いた様子のリアトリスさんが口を開く。
「恐らく魔物と会敵したわね」
「この声は……オーク?」
「えっ……!」
オークとはランクDの魔物である。基本的に集団行動を行い、人間の住む村や街を襲う。
分厚い筋肉と脂肪に覆われた身体は物理耐性が強く、故に近接戦闘タイプの人間にとってはかなりの脅威となる魔物である。
そんな魔物が現れたとなり、ランクFの魔物としか会敵した事がない僕は、ピクリと少し驚いてしまう。
しかし、対面のマユウさんは酷く冷静な様子で、
「大丈夫。2人があっという間に片付けてすぐに──ほら、動き出した」
「は、早いですね……」
30秒もしない内に馬車が再び動き出した。一体どの様に討伐したのだろうか。
……そういえば、僕は皆さんのギフトの事を何も知らないな、と思う。
先程、リアトリスさんが見せてくれた事により、彼女のギフトに魔術(空)がある事は判明した。
これが火竜の一撃の皆さんのギフトで最初に判明した……いや、そういえば、一度マユウさんがパーフェクトヒールを使っていた。となると、恐らく彼女のギフトは魔術(光)だろう。
グラジオラスさんに関しては、普段これといった武器を持ち合わせておらず、しかし普段からかなりしっかりとした籠手をはめている事から、近接武術系のギフトだと予想できる。
……ランクBの最速記録を達成したパーティーの一員となると、ギフト《闘王》かな?
近接戦闘系の激レアギフトであり、その所有者は世界で数例しか確認されていないという。可能性はありそうだ。
ヘリオさんに至っては、ユニークギフトという事、戦闘を行っている様を一度も目にした事が無い事から、皆目見当もつかない。
──まぁ、一緒に行動してればいずれ知る機会はあるか。
……そう思いながら、僕は馬車に揺られ続けた。
その後、数度馬車が停止したが、別段問題無く進んだ。
そして出発からおよそ10時間程経過し、空が橙に染まり始めた所で、馬車が停止し、カーテンの様に垂れた入り口の布が取り払われる。そしてそこからヒョコリと顔を出したヘリオさんの、
「おーい、今日はここで野宿するぞー」
という声により、僕達はすぐ様客車の外へと出た。
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