第38話 初めての遠出

 あれから2週間が経過した。


 その間に留守分の勉強を終わらせ、余った時間で火竜の一撃の皆さん付き添いの下、ゴブリンを討伐し、レベルを1向上させた。

 回を重ねる毎に、レベルの上がりが遅くなっている事から、そろそろゴブリンの経験値では足りなくなっている事がわかる。


 ……何か次のステップを考えた方が良いかもしれないな。


 ──そして迎えた出発の朝。


 いつもの様に──とは言え今回は歩きではなく、馬車であるが──迎えに来てくれた火竜の一撃の皆さんを、お父様、お母様、そしてその後方に控える幾人かのメイドと共に出迎える。


 馬車が家の前に止まり、皆さんが外へと出た所で、先頭に居たお父様とお母様が軽く挨拶を行った。

 そして幾度かのやり取りの後、「よろしくお願いします」と頭を下げた所で彼らの会話が終了。

 続いて僕が前へと出て「1週間よろしくお願いします」と挨拶をした所で、いよいよ出発の時を迎える。


 ……と、その前に。


「あ、ヘリオさん。荷物はどうしましょう」

「あぁ、それなら──リアトリス」

「えぇ」


 頷き、リアトリスさんがこちらへと近づいてくる。

 お父様達の前だからだろうか、いつもより落ち着いている様に見える。


「レフちゃん、預けたい荷物とそれ以外で分けてもらえるかな?」

「あ、はい!」


 頷き、小さな鞄のみを抱える。


「後は大丈夫です!」

「よし、それじゃ──」


 言ってどこからともなく、いかにも魔法使いが使用しそうな大きな杖を取りだすと、


「──えいっ」


 という掛け声と共に杖の先端で荷物に触れ──瞬間、荷物が忽然と姿を消した。


「……え」


 驚く僕とお父様達。ヘリオさんがハッとした様子で、


「あぁ、そうか。レフトは見るの初めてだったな」


 ……その物言いだと、関連の話を聞いた事があるのかな?


 僕はうーんと頭を悩ませ過去の会話を思い起こし──


「あ、もしかして魔術(空)ですか?」

「ん、正解」

「いわゆる空間魔術ってやつだな」

「ほぅ、これが……」


 お父様が小さく目を見開き、感心の声を上げる。

 そんなお父様の元へ優雅に、しかしかなりの速度で近づくリアトリスさん。


「機会があれば、今度詳しくご紹介致しましょうか?」

「おぉ、是非お願いしよう。な、セルビア」

「ふふっ、そうね」


 お父様達の反応が好感触だったからか、リアトリスさんは彼らに見えない所で小さくガッツポーズをする。


 ──表面上は違っても、やはり内面はいつも通りであった。


 その後軽く談笑をし、


「うし、そろそろ行くか」


 とヘリオさんが声を上げた所で、僕と火竜の一撃の皆さんは馬車に乗り込む。


 今回、御者台にはヘリオさんとグラジオラスさんが、客車には僕とマユウさん、リアトリスさんが座る事になった。ヘリオさんの提案である。


 客車は4人席となっており、僕の隣にリアトリスさん、向かいにマユウさんが座っている。

 いつも通りならば、リアトリスさんの膝の上に座る事になるのだが、流石に馬車の中では危険だと判断したのか、今回の様になっている。


 リアトリスさんがこちらへと視線を向ける。そして普段よりも少しだけ小さな声で、


「いよいよだね、レフちゃん」

「はい!」

「……楽しみ?」


 マユウさんが首を傾げる。僕は少しだけ俯くと、


「初めての遠出なので、正直少し不安です」

「そっか」

「けど──」


 言って顔を上げ、


「それ以上にワクワクしてます!」


 と僕はキラキラとした瞳を2人へと向けた。そんな僕の様子に、微笑ましいとばかりに2人が笑顔を浮かべた所で、客車の外から、


「んじゃ、出発!」


 というヘリオさんの言葉が聞こえてくる。そして同時に、馬車がゆっくりと進み始める。


 僕は客車の後方の布を取り払い、外へと顔を出す。


 するとこちらへと手を振るお父様達の姿が目に映る。

 その誰もが笑顔を浮かべているのだが……やはりその裏には、どことなく不安が見え隠れしている様に見える。


 その様子に、「心配をかけているんだろうな」と思いつつ、その分成長して帰ってこようと、僕は意気込みながら、大きく手を振り返した。

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