第37話 食用植物の図鑑登録

 夕食中、お父様達に今日の話をした所、意外にもすんなりと許可をくれた。


 火竜の一撃の皆さんへの信頼の現れだろうか。


 内心どう思っているかはわからないが、ひとまず笑顔で許可をくれた事に感謝しかない。


 という事で、2週間後に出かける事が決定した。


 翌日、ヘリオさんにこの事を伝えると非常に喜んでくれた。


 ……良かった。これで少しは恩返しができる。


 同時に行先などの情報を貰った。


 どうやら今回は途中で何日か野営をするらしい。大抵の道具は皆さんが用意してくれる様だが、個々人で使用するものに関しては、どうせならば自ら相応の道具を揃えたい。それと──


「ちょうど良いな」


 このタイミングで、後回しにしていたあれの登録を試してみるか。


 ◇


 僕は食用植物の並ぶ露店に来た。


 そう、今回登録を試すのは食用植物──所謂野菜、果物や穀物である。


 前々から登録を考えてはいたのだが、別段遠出する予定も無く、また家で使っている野菜は、お父様が懇意にしている商会から購入しており、僕が野菜を実体化する必要も無かった事もあり、後回しにしていたのである。


 今回満を辞しての登録となるが、もし登録できれば、食料の心配がかなり少なくなる。更に必要な時に実体化すれば良いので、荷物にならない。


 今回の様な遠出の際にはかなり便利である。


 ……もしかしたら、これが本来の使い方なのかもしれないな。


 この世界には食料が不足している地域や国が多々ある。

 もし仮にそんな場所に僕が行けばどうなるか。


 恐らく全てとはいかずとも、かなり多くの人を救えるのではないだろうか。


 ……食料で人助け、それも悪くないな。


 そんな事を思いつつ、僕は露店へと近づく。


「こんにちは!」


 すると店主なのか、恰幅の良い女性がこちらへと振り向き、


「いらっしゃ……あら、随分と可愛いお客さんだこと。おつかいかい?」

「はい!」


 実際は違うが、流石に図鑑への登録の為とは言えないので、ここはそういう事にしておく。


「偉いねぇ……。それで今日は何を買いに来たんだい?」

「えっと……」


 言いながら眺める。

 恐らく自分で育てているものなのだろう、形はそこまで綺麗ではない。

 しかし色艶は非常に良く、丁寧に管理されている事がわかる。


 種類としては10種類無い程度であり、価格は大体1つ銅貨1枚〜5枚といった所か。


 ……うん、これなら買えるな。


 こちらへと笑顔を向けてくれる女性。そんな女性へと僕も笑顔を返すと、


「カウブとキャロテ以外全種類下さい!」

「……………へ?」


 ◇


「買えてよかった〜」


 食用植物がパンパンに詰まったカバンを背負いながら、僕は満足げな笑顔で家へと帰宅。

 そしてそのままの足で、カイラの元を訪ねる。


「レフト様、おかえりなさいませ」

「ただいま、カイラ。頼んでおいたものは準備できてる?」

「はい、こちらに」


 カイラの示す場所へと目を向けると、そこには5種類の食用植物が。家の朝食、夕食で使用されているものである。


 少ないと思うかもしれないが、実は貴族は肉魚卵をメインとする代わりに、野菜をあまり取らない事が多い。

 例に漏れず、うちの家もそうであり、故に最低限の野菜しか置いてないのである。


 ……平民は野菜中心、貴族は肉魚卵中心か。


 どちらが健康なのかわからないなと思いつつ、


「ありがとう!」


 僕はカイラへとお礼を言い、たくさんの食用植物を抱えながら部屋へと向かう。


 部屋に着くと同時に、テーブルへと全ての食用植物を並べる。今回手に入れたのは全12種類である。


 その内、家に置いてあったものが5種類。タマネギに近いボールネギ、まんまニンニクのガーレッグに、大麦を思わせるポラムギ、深緑のカブであるカウブ、紫色のにんじんであるキャロテである。


 そして露店で購入したものが7種類。長ネギに近いポリネギ、形容し難い形状のイモであるタールイモに、ブルーベリーと苺の中間の様なパルティベリー、赤いオレンジの様なオリンジ、えんどう豆に近いトゥリマメ、黄色いキャベツであるギャベズ、ホウレンソウの様な見た目のミツラ菜である。


 全て1つずつではあるが、これだけの数集まるとかなり壮観だ。


 ……さて、全部登録できるかな?


「お願いします!」


 僕は登録できる事を信じながら、一つずつ触れていき──結果、全て登録できた。


「よしっ!」


 野菜、果物、そして穀物。かなりバランス良く食料が揃ったと言える。


 ……これで食料は安心だな。


 僕はそう思うと、二度手間ではあるが、遠出に必要な道具を買いに再び街へと向かった。

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