第34話 魔物の図鑑登録に向けて

 あの後一度ライムを植物図鑑に戻し、ダイニングルームへと向かった。


 そこで夕飯を摂りつつ、両親に魔物を登録出来る様になった事を報告。そのついでにライムの紹介も行った。


 ライムを実体化した際、2人はかなり驚いた様子だったが、時間の経過と共に段々とライムの可愛さがわかってきたのか、最終的にはにゅーっと触手を伸ばしたライムと触れ合う所までいっていた。


 ……うん、とりあえず馴染めた様で良かった。


 その後は部屋に戻り、ライムとモチモチと戯れながら今後について軽く考える。


「戦闘力向上を考えれば魔物の方か」


 確かに植物も便利だが、戦闘力で言うのならば当然魔物の方が有利であろう。

 故に植物の登録は勿論であるが、今後は積極的に登録できる魔物を探して、戦闘力の向上に努めようと僕は思った。


 ◇


 翌日、僕の姿は街にあった。


 というのも、一つ検証したい事があったのだ。


 それは、植物系魔物の素材で図鑑への登録は可能か否かである。


 基本、魔物を討伐した際にその場に残るのは魔石だけだが、ごく稀に素材を落とす個体が出現する事がある。

 そんな素材により登録が可能となれば、態々討伐をせずともよくなる為、今後魔物の登録が格段に楽になるのだ。


 1人街を歩く。因みにライムには、植物図鑑の中にいても快適ということで、ひとまずその中にいてもらっている。


 いくらグリーンスライムが無害であり、街で時折見かける事があるとはいえ、魔物は魔物。

 やはり連れて歩いていると、変に目立ってしまうのだ。


 故に1人で歩く僕であったが、ここでキョロキョロと辺りを見回す。


「そろそろかな?」


 今回の目的地は雑貨屋では無く、防具屋である。


 というのも、今回僕が欲しい素材が、主に防具に使われているものなのだ。

 そしてこういう加工前の素材であっても意外に防具屋に置かれている事も多いと言う事で、ひとまずそちらへと向かっているのである。


 そんなこんなで5分程歩いた所で、別段これといった問題も無く、目的地である防具屋に到着。早速中に入ると、色々と物色していく。


 魔法使い用、軽戦士用、重戦士用とジャンル毎に様々な防具が並ぶ中、その内の一角にこじんまりとした素材コーナーを発見する。

 そこをじっと眺めていると──


「あった!」


 僕は今回の目的である、トレントの樹皮を発見する。


 トレントと言えば、前世でもかなり馴染みのある魔物である。見た目としては顔が付いた木と言うのが適切か。

 そんなトレントから時折ドロップする素材の1つがトレントの樹皮であり、その耐久性と軽さから、主に軽戦士の鎧として重宝されている。


 値段はおよそ5cm四方の素材で銀貨1枚。何に使うのかすらわからないこの大きさでも銀貨1枚である。

 トレントは下から2番目のランクEの魔物であり、討伐の難度はそこまで高くは無い。またあらゆる場所に生息する事からそこまで希少でもない。

 それでもこの値段である事を考えれば、いかに魔物の素材が高いかが目に見えてわかる。


 とは言え今回は購入する他ないので、ひとまず購入。僕はすぐ様家に帰った。


 部屋に戻った僕はまずライムを実体化した。

 特に理由は無いが、仮にトレントを登録できればライムの仲間になる。ならば登録の瞬間を一緒に眺めるのも悪くはないと思ったのだ。


「やるか」


 布からトレントの樹皮を取り出し、右手で持ち上げる。


 5秒、7秒、9秒と時が過ぎる。

 そして遂に10秒を超えるが──何の反応も無い。


「……あれ?」


 一度置き、再び持ち上げる。しかしやはり反応は無い。


 その後1分程持っていたが、結局植物図鑑はうんともすんとも言わなかった。


「もしかして登録できない?」


 何故だろうか。


 ……トレントが登録できない魔物だから?


 いや、植物かどうか怪しいグリーンスライムですら可能なのだ。植物型魔物の代表格とも言えるトレントが登録不可能なんて事は早々無い筈である。


 ……なら、素材の一部分じゃ認められないとか?


 もしくはそもそも魔物の素材では登録不可で、魔石しか認められないとかか。


「こうなってくると魔石が欲しいな」


 一応魔石は店で売っている。というのも魔石に蓄えられた魔素により、魔道具という便利なもの── 前世でいう所の電化製品の様なものか──が扱えるからである。


 とにかくそういう訳で魔石は販売されているのだが、しかしそうした市販の魔石は雑多に置かれている事が多く、鑑定のギフト持ち以外にはてんで見分けがつかない。

 魔道具用の魔石は基本的にその大きさ──魔物が強ければ強い程大きい──が魔道具に適した大きさであれば何でも良い。

 その為、魔石は大きさにより幾つかの区別はあれど、魔物の種類による区別は無く置かれているのである。


 故に特定の魔物の魔石を手に入れるのであれば、誰かの手を借りるかどうかは別として、自らの力で手に入れる必要がある事になる。


「結局楽は出来ないか」


 こうなってくると、単なる植物の方が市販品で登録できるのはかなりありがたい。が、もしかしたら植物の方もその一部分では登録できない可能性がある。


 ……そこら辺は今後検証していこう。

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