第30話 グリーンスライムと想定外の結末

 ──庭に魔物が居る。


 そう言うとかなり大変な事態に聞こえるが、実は目前に居るスライムは街中でも時折目にする事がある。


 というのも、このスライムは魔物としては珍しく、人間には無害な生物なのである。


 名はグリーンスライム。

 日本人が知っているスライムは水色だが、このスライムはその名の通り黄緑に近い色をしている。

 姿形としては、特別目や口の様なものは無く、まさに黄緑色に着色した、しかし透明感のある水わらび餅の様である。


 ではそんなグリーンスライムが何故人間に無害と言われているのか。


 その所以は、グリーンスライムが植物しか食さない所にある。


 何故か理由は解明されていないが、例えば肉や魚をこのグリーンスライムの体内へと入れても一切消化をせず、逆に、植物と分類されているものを入れると、その植物の毒の有無など関係無しに消化、吸収するのである。


 と、そんな性質と安全性からか、魔物でありながら、庭の除草などに使われており、故に庭の掃除屋という異名を持っている。


 しかしだからといって無闇矢鱈に放してはいけない。

 グリーンスライムが人間に無害とは言え、彼らは魔物であり、故に知能も高く無い。


 その為、植物とあれば何でも食してしまうのである。──そう、例えば栽培している野菜なども含めて。


 つまり、除草に使用する際はある程度監視や仕切りの様なものが必要であり、また仮に家で使用するのならば、別の家に逃げ迷惑をかける事がない様に管理すべきなのだが──


「うーん。うちは使ってないし、どこかの家の管理不足で逃げてきたのかな?」


 恐らくグリーンスライムに逃げるという概念は無く、単に適当に移動した結果ここに辿り着いたのだろうが。

 いや、それにしても──


「何でこんな茂みの中で止まってるんだ?」


 先程も言った様に、グリーンスライムは見境なく植物を消化してしまう。その為、グリーンスライムが通った場所は植物が無くなり、道のようなものができる。


 うちの庭はその大半が草花で覆われている。つまりは、グリーンスライムがここに至るまでの道程があっても良い筈なのだが、辺りにそれらしきものは見当たらない。


 どういう事なのだろうか。


 ……誰かが嫌がらせでうちの庭にグリーンスライムを放った?


 確かにそれならば道ができていない理由に説明はつくが、今この瞬間植物を消化していない理由については説明できない。


 ならば──


「もしかして植物を消化出来る程体力が残っていない?」


 仮に何らかの理由で弱っているのだとしたら、確かに消化できないのもおかしくはないか。


 ……まぁ、良い。


 ひとまずそうと仮定したとして……僕はどうするべきなのだろうか。


 無害とは言え、魔物は魔物。


 今まで、人間にとって悪だと、何も考えずに魔物であるゴブリンを討伐してきた人間が、無害だからと助けるのはおかしな話である。それは結局、人間の都合でしか無いのだから。


 しかしだからといってこのまま放置するのも、それはそれで後味が悪い。


 ……いや、どちらにせよ結局僕のエゴか。


 ならば──


「都合が良くても結構」


 僕はひとまずこのグリーンスライムを救おうと考えた。


 とは言え、魔物がどの様にすれば回復するかなんて当然だが知らない。


 仮に人間と同様にHPの様なものがあるのだとすれば、相応のもの、例えば薬草

 なんかを与えれば回復しそうではあるが、草花を消化できないスライムに与えた所で結果は目に見えている。


 ならば、下級ポーションならどうか。


 液体であれば、消化云々は関係無くなる。そもそもスライム自体が水分の塊の様な姿なのだ。

 恐らく、そのままポーションと同化し、自分の糧とするのではないだろうか。


 そうと決まれば……取りに行かなきゃ。


 僕は走って屋敷へと戻った。

 そして下級ポーションを手に入れると、スライムの元へと走る。


「よし、これで──」


 ──回復できるかもしれない!


 そう思い、スライムの居た場所へと戻るも、


「あ…………」


 そこにスライムの姿は無く、あるのは1つの小さな魔石だけであった。


「んー……間に合わなかったかぁ」


 スライムもゴブリン等と変わらず魔物。


 この世界の人間の常識として、その思いは変わらずありながらも、やはり一度救おうと考えた後のこれだと、少し悲しい。


「…………」


 僕はグッと口を引き結びながら、グリーンスライムの魔石を拾う。


「……小さいな」


 直径1.5センチ程か。翠色で透明感のあるそれは、まるで小さなビー玉の様である。


 ……ゴブリンの魔石が直径5センチ程度なのを考えると、かなり小型だな。


 そう思いながら、何となくノスタルジックな雰囲気で、手のひらに乗せた魔石を眺めていると──


「……え?」


 ここで突如魔石が光り出した。


 次いでその光は段々と光量を増していき遂に光が霧散すると、僕の手のひらから先程まであった魔石が消えていた。


 ……あれ、もしかして。


 何やら見覚えのある光景に、僕は慌てて植物図鑑を召喚する。


 すると植物図鑑が突如として輝き出し……光が収まった時、植物図鑑のとある1ページに、グリーンスライムの名が刻まれていた。

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