第31話 グリーンスライムの実体化
「……まじか」
──植物図鑑にグリーンスライムが登録されてしまった。
今まで、世間一般で言う所の植物のみを登録できると考えていた僕からすると、魔物が登録されたという現状はあまりにも現実味が無い。
故にベタに頬でも抓ってみるも、
「い、いはい」
頬をじんわりとした痛みが襲ってくる。即ち──
やっぱり現実だ。現実なんだ。……魔物が登録できてしまった。
一体どういう事なんだろうか。
確かにグリーンスライムは植物のみを消化する。故に植物に寄っていると言えなくはないが、それでも流石に植物では無く単なる魔物である。
とは言え、登録できた事が現実である以上、『魔物であっても登録できる』何らかの条件がある筈である。
そしてその条件を満たせば、今後もグリーンスライムの様に魔物を登録できるのではないか。
ならば、その条件とは何か。
例えば「植物っぽい」などという曖昧な条件ではない筈である。
……体成分の問題?
「いや……」
考えてみるも、流石に情報が少な過ぎて結論が出せない。
という訳で、これに関しては後日火竜の一撃の皆さんと共有し、意見を聞いてみる事にした。
「ともかく、これで行動の幅が広がる」
魔物を登録できる。そしてこれが実体化可能であれば、できる事が格段に増えてくる。
それこそ、戦闘への活用だって、単なる植物よりもその期待値は高い。
登録できる魔物が一体どの程度いるのかわからない。魔物に関する知識不足故にその種類でさえもてんでピンと来ない。
しかし、もしもこんな魔物が居たら──と考えると、その活用方法があれこれと浮かんでくる。
「とは言ってもまずは……」
魔物をどの様に活用するか。それ以前の問題として、そもそも登録できたからといって、魔物は実体化できるのか。
まずはこれを検証しなくてはならない。
◇
考えると、居ても立ってもいられなくなり、すぐ様部屋に戻る。
勿論、グリーンスライムの実体化を試す為である。
確かに、魔物を実体化するのならば、想定外の事態等を考慮して、外で行う方が良いのかもしれない。
しかし、今回は都合良く実害の無いグリーンスライムである。
加えて、今まで植物を実体化し掴んだ傾向からも、実体化したグリーンスライムが害を及ぼす様な事は無いと断定できる。
ならば、実体化している様を人に見られる可能性がある外よりも、寧ろ部屋の方が安全だと踏み、僕は部屋での実体化を選択した訳である。
……よし、早速。
植物図鑑を左手に召喚する。そしてペラペラとページを捲り、グリーンスライムのページを開く。
そこには今まで登録した植物と変わらず名前、写真、そして説明が載っている。
説明……といっても大した内容では無い。その全てが大抵の人間が知っている程度の話であり、そこに目新しさはない。
……ここの説明で何か新しい情報でも手に入れば良いんだけど。
現状僕が知り得た情報がその全てだと言うのであれば、仕方がないが。
ともかく、それについては今後の登録の際に期待する事として──
「実体化……するぞ」
言って、ごくりと唾を飲み込む。
今から実体化するのはグリーンスライムという一般的に無害と言われている魔物であり、僕も別段恐れは無い。
しかし何となく、今までの植物とは違い、明確に生を実感してしまうからだろうか、実体化するのに多少の躊躇いを感じてしまう。
「……うーん」
とは言え、今後を考えれば魔物の実体化を試さない手は無いので、僕は少しだけ目を瞑り心を落ちつけた後、意を決した様子で息を吐き、
「よし。おいで、グリーンスライム!」
別段必要の無い掛け声と共に、実体化を念じた。
瞬間、植物図鑑が光り輝く。そしてその光は僕の右手に集まると、徐々に楕円体の様な形を作っていく。
身体から魔力が抜け出る様な感覚を覚える。同時に、段々と右手に重さを感じる様になり──遂にその光が収まった時、僕の手のひらの上にはプルプルと可愛らしく震えるグリーンスライムの姿があった。
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