第29話 新たな出会い
──1週間火竜の一撃の皆さんが居ない。
たったそれだけなのに、僕は今までできていた事が殆ど何もできなくなっている事に気がつく。
街の外に行くのにも、植物を売るのにも、ただ街を歩く事でさえ、僕は火竜の一撃の皆さんの力を借りていたのである。
1人では何もできない。
年齢的に仕方が無いとは言え、それだけ依存しているという事であり、火竜の一撃の皆さんの事を思うのならば、今後はこれをどうにかする必要があるのはまず間違いない。
とは言え、街の外に行けない以上、レベル上げは出来ず、かと言って実体化した植物を売りにもいけない。
また、一応街には行けるが、仮に行った所で、今の僕に植物を買える程の資金は無い。
確かに、火竜の一撃の皆さんが冒険者ギルドから依頼された植物を僕が提供し、1割増でお金を頂く事を会いに行くたびに行っている為、現在金貨5枚程は手持ちにある。
国の雑兵の月収が金貨2枚である事を考えれば、この金貨5枚というのはかなりの額であると言える。
しかし、僕が購入したい植物の金額が総じて金貨1枚以上である事、中でも高価なものは金貨10枚を優に超える事を考えると、決して多いとは言えず、寧ろ少ないとまで言える額なのである。
「……何も出来ないな」
改めて火竜の一撃の皆さんの存在のありがたさを実感すると共に、早く大人になりたいなと僕はそう思った。
◇
翌日、僕は仕方無しに庭へ出た。
というのも、どうせ時間があるのならば久しぶりに庭で新たな植物探しでもしようかと考えたのである。
……まぁ、といっても庭に生える植物については粗方探し尽くしている為、恐らく何の発見も無いであろうが。
地面に顔を近づけ、草花をかき分ける。
草花特有の青々とした匂いを感じながら、何か無いかと探すも、
「……んー、まぁそうだよね」
案の定とでも言うべきか、やはりこれと言って目新しい植物は無く、見つかるのは幾度と無く目にした草花のみ。
──しかし。
そんな状況でありながら、僕は言いようもない心地良さを覚えていた。
恐らく、ここ最近忙しない日々を送っており、何も起こらないのんびりとした時間というものを久しぶりに体感したからであろう。
……うん、偶には良いかも知れない。
そう思いながら、変わらず植物を探していると、
「……ん?」
ここで偶々かき分けた茂みの中に、直径20cm程だろうか、ぷよぷよとした球形の何かを発見する。
──僕はそれを知っている。いや、きっと恐らく、日本人ならば目にした瞬間、あの生物を想起するのではないだろうか。
その形状、独特の質感……まるで水わらび餅の様な見た目のそれは──いや、間違いない。
「……お、スライムだ」
──この出会いがまさか、人生で一二を争う程特別な出会いになるなんて、この時の僕は考えもしなかった。
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