第27話 楽しいという気持ち

 マユウさんと別れた僕は、日課をこなした後、部屋に戻り今日1日を振り返る事にした。


 いつもの様に、ベッドの上で胡座をかく。


 今日は、目標だったカラミヅルと爆裂草の登録が完了し、時間によっては後日でも良いと思っていた、実戦使用まで行う事が出来た。


 その中で、植物を戦闘に活用できるかもしれないと、そんな希望を抱くには十分な結果が得られたのはかなりの成果と言える。

 とは言え、未だ課題が多く残る為、引き続きこの2種の検討と、また他に何か使える植物はないか探す必要があるが。


「それと──」


 植物図鑑を開き、ペラペラとページを捲る。

 そこには先程の2種とは別に新たに登録された植物の詳細が記されていた。


 ……そう、実は2種を探しつつ、新しい植物を発見しては登録をしていたのである。


 今回登録したのは6種類。

 フィルトの木、ルル草、マピ草、リタルカ草にパリプラポルラとセントフラワーである。


 とは言え、これらには別段これといった効力は無い。


 パリプラポルラに関しては、その訳わからない名の割には美しい花である為、花を贈る際に幾本か混ぜたりするのも良いかもしれない。

 が、その他は雑草と何らかわりが無く、故に今後頻繁に実体化する事は無い筈である。──フィルトの木を除いて。


 確かに、フィルトの木も突出した何かは無い。しかし、フィルトの木に関しては1つ検証したい事があるのだ。


 それは、実際にフィルトの木を召喚した際、どの様に実体化されるか……である。


 フィルトの木は全長おおよそ5から15m程の大木である。

 そんな大木が実体化される際、変わらず右手の上で実体化されるのか、また実体化した木は成木なのか将又てのひらサイズの苗木なのか。


 実体化のされ方次第では、フィルトの木に幾つか活用方法が生まれるので、なるべく早めに確認をしたい。


 とは言え、流石に部屋で実体化は出来ないし、かと言って夜に外に出るのもお父様達を心配させてしまう為出来ない。


 ……とりあえず、また今度だな。


 そう思いつつ、次に僕はステータスを開く。


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 レフト・アルストリア 10歳 


 Lv 4

 体力 58/58

 魔力 469/469


【ギフト】

 ・植物図鑑Ⅰ


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 実はレベルが上がった。


 現在のステータスはこの通りである。1レベル毎の能力の伸びは現状一定である為、何ら特別な変化は無い。


 ……まぁ、あえて1つ挙げるのならば、相変わらず体力に比べて魔力の伸びがバグっている事くらいか。


 これに関しては、僕の伸びがどの程度のものなのかは気になるので、今度火竜の一撃の皆さんに聴いてみようと思っている。


「……ふぅ」


 振り返りとしてはこんなものだろうか。


 僕はステータスを消すと、ベッドへと身体を預け、目を瞑る。


「…………」


 そのままボーッとしていると、脳裏に今日の出来事が、次から次へと浮かび上がってくる。


 記憶というものは儚く、大抵は断片的にしか残っていない事が殆どであるのだが、浮かび上がってくる今日の記憶は、びっくりする程詳細で鮮明であった。


 それを知覚すると同時に、僕は思う。


 ──今日は楽しかったな、と。


 これまでの日々も勿論楽しかった。今まで幾度か経験した、植物図鑑に登録する瞬間も、当然の様にワクワクした。


 しかしそれ以上に──自らの足で現地に赴き、目的の植物を発見した時、僕は何にも変え難い感動とワクワクを覚えたのである。


 曖昧な記憶ながら、前世で、所謂ブラック企業と呼ばれる様な会社の中で、数々の縛りを受けながら、何の意味も無い日々を送っていたからか。

 何にも縛られない自由な生き様に、僕はどうしても憧れを抱いてしまう様である。


 そういう意味では、もしかしたら僕には、学園を出て王国騎士団として国の為に戦う事を目指すよりも、冒険者として様々な場所に赴き、植物を登録していきながら、上を目指す方が向いているのかもしれない。


 ……まぁ、学園入学は早くても約2年後。これから幾らでも考えが変わる機会があるだろうし、まだこう生きようと明確に決定付けるのは早いか。


 どちらにせよ僕の目標は、両親が誇れる様な人間になる事である。


 そこをブレさせるつもりはないし、その為に、植物図鑑をどんどんと強化していき、能力の幅を増やす。


 いずれにせよ、これが僕の課題である事は今後も変わりない。


「……さて、そろそろ寝るか」


 ポツリと呟き、ベッドへと身を委ねる。


 すると疲れていたのか、次第に意識が遠のいていき、


 ──明日も今日みたいに楽しい日になると良いな。


 そう漠然と思いながら、僕はゆっくりと眠りについた。

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