第26話 実戦検証と課題

 ゴブリ草原に戻りしばらく行くと、前方に1体のゴブリンの姿が目に入った。

 辺りを伺うも、他にゴブリンらしき影はない。

 通常、ゴブリンは複数体で行動しているのだが……もしかするとはぐれだろうか。


「……マユウさん」

「ん、恐らくはぐれ。どうする?」

「カラミヅルから試してみようと思います」

「わかった。今回は周囲の警戒は私がする。だからレフトは検証に集中して」

「はい! ありがとうございます!」


 言葉の後、左手に植物図鑑を召喚。次いでカラミヅルを右手に実体化する。


「……よかった」


 カラミヅルは衝撃を与えると絡みつく性質を持つ。故に、実体化した瞬間に与えられる軽い衝撃で、僕の手に巻きついてしまう可能性もあるのではと考えていたのだが、どうやら杞憂であったようだ。


 ……よし。


 グッと気を引き締める。そして、左手の植物図鑑を消し、左手を自由に使える様にした後、準備が整った所で僕はグッと地面を蹴った。


 ゴブリンとの距離が縮まる。


 と、ここで遂にこちらの存在に気付いたのか、ゴブリンが棍棒の様なものを振り上げながら走り寄ってくる。


 更に縮まる距離。


 その距離が3m、2m、1mとなった所で僕は右手のカラミヅルをゴブリンへと放った。

 すると、カラミヅルはゴブリンの右足に接触し、ゴブリンの両足を纏め上げる様に絡んだ。


 思わず転倒するゴブリン。


 それを目にした僕は、すぐ様ショートソードを抜くと、立ち上がろうとするゴブリンの首をはねた。


「……うん」


 ……かなり動きを封じられたな。


 カラミヅルを絡ませ、動きを封じ、その内に攻撃を加え討伐する。

 今回の一戦だけを考えれば、一連の流れをスムーズに進める事が出来た為、上々の結果と言えよう。


 しかし今後を考えるのならば、カラミヅルに限らず、植物により右手が塞がってしまうのはやはり大きな問題である。

 だからと言って、衝撃で絡むカラミヅルを右から左に持ち替えるのもそれはそれでリスキーである。


 それだけでは無い。


 今回はカラミヅルが運良く脚に絡まり、ゴブリンの動きを阻害できたが、今後も同じ様になるとは限らない。

 カラミヅルの絡まり方は制御できず、その時々により違うからである。


 また、僕の投擲能力を考えても、そもそも百発百中で対象にぶつけられるとは言い切れない上に、当たり所によっては何の害も与えられず、投げてすぐはこちらが無防備である事を考えれば、かえって不利になってしまう事もありうる。


 ……って言っても、現状どうしようも無いけど。


 今日行うのはあくまで検証であり、挙がった問題点に関しては追々考えれば良いだろう。


 僕はカラミヅルに関して、「現状使えるとは言い切れない」という評価を下すと、とりあえずカラミヅルを回収し、収納。そしてついでにと、カラミヅルを再び実体化する。


 すると先程実体化した時と同様に魔力を2消費した。


 ……んー、収納した植物の実体化でも普通に魔力を消費するのか。


 僕が少々残念に思っていると、マユウさんがこちらへと近づいてくる。


「お疲れ様」

「ありがとうございます」

「ギフトの使い方、凄く上手だった」

「いえ、まだまだですよ。課題は沢山ありますし……」

「ん、やっぱりレフトはよく考えてる。そういう子は伸びるよ」


 言って微笑むマユウさんの言葉に、僕はあいも変わらず嬉しさを覚えた。


 ◇


 続いて、爆裂草の検証をすべく、僕達は再びゴブリンを探す。

 すると歩き始めて間もない内に、2体で行動するゴブリンを発見する。


「1体は任せて」

「お願いします」


 僕の声の後、マユウさんがうんと頷き、ゴブリンの方へと視線を向ける。

 そして、右手をかざし──瞬間、ゴブリンの内の1体が突如として消滅した。


「ん、次はレフトの番。頑張って」

「は、はい」


 ……何が起こったの?


 リアトリスさんの時もそうであったが、彼女がどんな攻撃をしたのか一切理解出来ない。──知覚する事すら叶わない程に、圧倒的なレベル差があるという事だろうか。


 ……いや、そんな事は後で良い。まずは爆裂草の検証だ。


 思い、僕は右手に爆裂草を実体化する。


 茎の部分を掴む様な形で実体化した爆裂草。重力により垂れ下がった葉と葉の間にはパンパンに膨れ上がった実がある。


 ……よかった、実が膨らんだ状態で実体化できた。


 実体化の衝撃で爆発する事も無く、出だしとしては最高である。


「……よし」


 僕は小さく息を吐いた後、風を読む。


 風の向きは、僕の後方からゴブリンの方へと向かっている。……つまり、現在僕の位置はゴブリンに対して風上側となる。


 ……これなら。


 ──ここでゴブリンがこちらに気付いたのか、別段工夫も無く走り寄ってくる。


 距離が少しずつ縮まる。そして遂に2mを切った所で、僕はゴブリン目掛けて爆裂草を放った。


 実の部分がそこそこに重かったのか、爆裂草は小さく放物線を描きながらもかなりのスピードで進み──ゴブリンに命中。そしてその衝撃により、実が勢いよく弾けた。


 途端に舞う毒の粉。


「……んわっ!」


 風上側に居たが、思いの外勢いが強かったからか、こちらへと迫ってくる毒の粉に、僕は慌てて斜め後ろに跳ぶ。


 そしてごろごろと転がり、急いで立ち上がり、ゴブリンの方へと目を向けると、そこには地に伏せながらピクピクと身体を震わせるゴブリンの姿があった。


 ……随分と即効性があるんだな。


 勿論望んでいた事ではあるが、それでも実際に目にするとかなり恐ろしい。


 僕は念の為息を止めつつ、ゴブリンへと近づくと、その首をはねた。


 そして再び距離を取り、毒の粉の影響が無さそうな位置まで来ると、僕はふぅと息を吐く。


 ……効果は良い。凄く良い。


 爆発と同時にゴブリンを覆う程には広がる毒の粉。あれ程広範囲に広がるのであれば、仮に直接ぶつける事が出来なくとも、その近くに落とす事が出来れば充分に相手に影響を与える事ができるだろう。


 しかし、今回風上に居ながら僕自身が毒の粉を浴びそうになった様に、下手したら自身に影響を及ぼす可能性がある。


 遠距離攻撃を持っていれば十全の結果をもたらしそうだが、近接攻撃しか持たない僕にとって、爆裂草は現状は諸刃の剣であると言える。


「まだまだ課題は多そう」

「はい」


 マユウさんの言葉に僕は頷く。


 確かに、今回どちらもかなりの効果を発揮した。

 しかしこれは、ゴブリンだから効果があっただけであり、例えば体格の大きいオークやオーガの様な存在であれば、恐らくたった一度ぶつけた程度では、何の影響も与える事が出来ず、即蹂躙されてしまう筈であり、課題は山積みだと言える。


 とは言え──


「ただ、少なくとも戦闘に直接使用できる植物があるという事はわかったので、収穫は大きいと感じてます」


 現状、使い方、使う相手等少なからず制限はある。きっと今後幾つか戦闘に使える植物を見つけたとしてもこれは変わらないだろう。

 しかしそれでも、植物を活用し魔物を討伐する事が出来たという事実により『ギフトを活用して戦う』という目標、その達成の兆しが見えた様な気がした。

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