第22話 いざ、魔物の森へ with マユウ

 あの後用があるという3人と別れ、僕とマユウさんは会議室を出た。


 街を歩き、いつもの様に市門を抜け、ゴブリ草原を並び歩く。


「「…………」」


 街を出てから、会話は無い。


 勿論僕が周囲を警戒し、話す余裕が無いというのもあるが、元々マユウさんはそこまで口数が多くないのである。


 それでも以前、リアトリスさん含め3人で居た時はもう少し喋っていたような。

 ……いや、というよりも、いつもリアトリスさんがいる時は普段よりも口数が多いような気がする。


 唯一リアとあだ名で呼んでいる事もあり、もしかするとヘリオさんにとってのグラジオラスさんの様に、特別親しい間柄なのだろうか。


 と、周囲への警戒を忘れずにそんな事を考えていると、ここで遂にマユウさんが口を開く。


「まずはカラミヅルから探しにいくよ」

「はい、よろしくお願いします!」


 僕の声にマユウさんは微笑み頷く。


「レフトはカラミヅルについてどの位知ってる?」

「……えっと、触れたものに絡みつく事、木が多い所に存在する事くらいでしょうか」


 木が多いと言えば森だが、街周辺には森が幾つかある。その為、知識だけではどうしても明確な生育地を特定できず、今回火竜の一撃の皆さんの力を借りる事になったのである。


 マユウさんはうんと頷く。


「ん、だいたいそんな感じ。あえて付け加えるなら……カラミヅルは夜行性」

「夜行性……ですか」

「そう。基本、夜に花を咲かせる。何でも周辺の送粉者が夜行性ばかりだから必然とそうなったらしい」

「へー!」


 日本でいう所の夜顔の様なものだろうか。


 マユウさんは話を続ける。


「あと、こんな話もある。カラミヅルは例えば動物に絡みつき、そのまま放置して息の根を止め、その動物からも養分を吸収すると言われている。ただ、カラミヅルは一度絡みつくと自らの力では離れられない。だから、仮に養分の吸収できないものに絡みついてしまうと、環境次第ではそのまま枯れてしまうらしい」

「それは……かなり運要素が強いんですね」


 言って僕は思わず笑う。マユウさんの方に視線を向けると彼女も楽しげである。


 ……それにしても、知識が深い人の話は面白いな。


 マユウさんはかなりの物知りの様で、話を聞いているだけで為になる。


 ……もう少し色々と聴きたいな。


 そう思い、マユウさんに話を振る。


「爆裂草についてはどうですか」


 マユウさんは間髪入れずに、


「爆裂草は動物からも栄養を吸収するという意味ではカラミヅルに近い性質を持つ。ただ1つ違うのは、カラミヅルはマヌケな子もいるけど、爆裂草は大抵が獲物を仕留める事ができる。何でかわかる?」

「接触とか何かしらの刺激を与えると、溜め込んでいた即効性のある毒粉をばら撒くからですか」

「そう。絡みつく相手を間違えたら終わりなカラミヅルとは違って、爆裂草は広範囲に影響を与える。だから仮に刺激を与えたものが栄養にならないものでも、その周辺に動物がいれば問題ない」

「爆裂草ってどの程度の毒性なんですか」

「ゴブリンが3日で死ぬ程度」

「あれ、栄養にするって話の割にはそこまで強くないんですね」

「違う。確かに死ぬまでには時間がかかる。けれど一番恐ろしい所は、身体が痺れて動けなくなる所にある」

「な、なる程。それでそのまま動けず──」

「ん、毒で死んで養分になる」


 ……凄い。


 僕はマユウさんの知識の多さにただただ感服する。


「流石、マユウさんは植物についても詳しいんですね」

「お姉ちゃんだから」


 ……お、お姉ちゃんって凄い。


 と、そんな感じで感動したり、植物について教わりながら歩いていると、ここでマユウさんが先程までとは違い、少し警戒心の篭った声を上げる。


「見えるレフト」

「はい、ゴブリンですね。数は……2体でしょうか」

「ん、正解」


 頷くマユウさんと僕の視線に2体のゴブリンの姿が映る。未だ距離があるからか、ゴブリン達がこちらに気づいた様子は無い。


「倒すよ。いつも通り私が1体、レフトが1体ね」

「はい」


 そう言った後、僕たちはゴブリンへとゆっくりと近づいていった。


 ◇


 と、そんなこんなで、時折出現するゴブリンを倒しながら歩いていくと、ここで遠方に森が見えてくる。


 前方一帯が深緑に染まっている。そしてそれはあまりにも広大で、全く奥行きを掴む事ができない。


「マユウさん、あれが──」

「そう、あれが魔物の森」


 魔物の森には言い様のない薄暗い雰囲気が漂っている。それが、まるで御伽噺が何ら間違いでも無いと言う様に、僕の恐怖を煽ってくる。


 そしてその恐怖は近づけば近づく程に増していき、遂に目前まで迫った所で僕の足は止まってしまった。


「レフト?」

「すみません」


 怖気付く僕。そんな僕に、マユウさんは弟を見る様な柔らかい笑顔を浮かべると、


「大丈夫、私がいる」


 言って頭を撫でてくる。毎度の事であるが、彼女のその言葉、そして頭に伝わる手のひらの柔らかい感触と温かさが、僕の心を癒していき──


「マユウさん……はい!」


 僕は安心感と共にマユウさんの言葉に返事をすると、恐怖を振り切り、彼女に続いて魔物の森へと足を踏み入れた。

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