第13話 購入植物の実体化と検証

 まず実体化するのは、安価である事から消費魔力が少ないと予想される毒草と痺れ草である。


 植物図鑑を召喚する。そして毒草のページを開き、念じると右手に毒草が実体化した。


 ステータスを開くと、魔力が2減っている。


 ……下級薬草と同じか。


 続いて同様に痺れ草を実体化するも、こちらも変わらず消費魔力は2であった。


 ここまではある程度予測の範疇であった。しかしここからは、未知の領域となる。


「次は……っと」


 僕は月光草のページを開く。


 月光草の購入金額は銀貨2枚。毒草や痺れ草のおよそ7倍、下級薬草のおよそ4倍である。


 仮説ではあるが、おおよその値を値段から判断できるとすれば、恐らく消費魔力は8から14の内のいずれかになる筈であるが果たして──


「やっぱりそうか」


 月光草が右手に実体化するのと同時に、魔力が消費される。──その数は10。


 ……うーん、こうなると中級薬草は。


 立て続けに、中級薬草を実体化する。


 仮説の通り、およそ値段に準拠するとなれば、中級薬草の消費魔力は40程度となるが、


「うわー、50かぁ」


 実際は想定よりも高い50であった。


 いや、となるとまさか──


 続いて、クリスタルフラワーを実体化しようとする。が、いくら念じてもいつもの様に図鑑が輝かない。


 間を開けたりしながら何度か試したが、それでも上手くいかない事から、恐らくクリスタルフラワーを実体化するには魔力が足りないという事だろう。


 確かに色々と実体化した影響で、現状僕の魔力は平時の半分程しかない。

 中級薬草でさえ50の消費である事を考えれば、その倍の値がするクリスタルフラワーが現存魔力で実体化できるとは思えない。


 しかし恐らくは現在のマックス値、つまり魔力が124まで回復すれば、仮説の通りいけば、クリスタルフラワーの実体化は成功する筈である為、ひとまずは魔力の回復を待つ事とし、一度この実体化は保留とした。


 また中級薬草等、高価な植物を複数実体化した際に何らかの制限があるかについては、現状の魔力量では実体化できる数が少ない事から判断ができないと考え、こちらも保留とした。


 という事で今回購入した植物の実体化に伴う消費魔力量の調査はこれで終了となる。

 多少のばらつきはあるが、おおよそ購入金額から消費魔力量を推定できる事が判明したのは大きな収穫と言えるだろう。


「よし、となれば次は」


 続いて、検証の時間である。


 今回検証するのは『実体化した植物と購入した植物では効果に差があるのか』である。


 例えば実体化した植物の効果が購入品よりも数段劣るとなれば、迂闊に売却もできず、今後できる事が減ってしまう。

 また、仮に購入品よりも高いとなれば、これも目をつけられる危険性が増す事から迂闊に売却は出来ない。


 つまり安全を求めるのであれば、変わらないのが最善である。


 今回、これを判断する方法として『毒草の摂取によるHP消費量の比較』を行う事とした。


 毒草は確かに解毒ポーションの材料となるが、そのまま口にすれば名の通り毒であり、相応のダメージが身体を襲い、そうすれば当然、HPが減少する。


 今回はこのHPの減少スピードから、性能に差はあるのかを確認するつもりである。


 ……うー……よ、よし。


 毒草はそこまで毒性が強くない。故に食べたからと言ってすぐ様死の危険が訪れるという訳では無い。

 しかしそれがわかっていても、やはり故意にHPを減らすというのは中々に勇気がいる事である。


 とは言え、恐怖よりも検証したい欲が優っている事から、僕はすぐ様市販の毒草を手に取ると、口に入れた。


 そして咀嚼、咀嚼……。


 ……うっ。


 青臭さが口内を蹂躙する。思わず吐き出しそうになるが、何とか気合いで飲み込む。と、同時にステータスを開く。


 そのまま数分程度待っていると、徐々に身体を不快感が襲ってくる様になる。きたかと思いステータスに目を向けていると、ここでHPが1減った。


 ……もうちょい我慢。


 まだ解毒ポーションは飲まず、その状態のまま数分待つ。


 HPが1減る。我慢。HPが1減る。


 これを幾らか繰り返した所で、およそ5分でHPが1減っていく事が判明した為、すぐ様解毒ポーションを飲む。


 瞬間、先程まで襲っていた倦怠感が無くなる。


 ……うん。ポーションの効き目は相変わらず凄いな。……じゃあ次は──


 続いて、実体化した毒草を手に取ると、先程と同様に口内へと放り込む。


 相変わらずの青臭さを何とか我慢し、嚥下。その後数分もすれば、再び体調が悪くなってきた。


 ステータスを開く。そしてHPの推移を確認しつつ幾時か過ごし、効果の程が判明した所で、解毒ポーションを一気に飲み干す。


 ふーっと息を吐き、瞬時に身体が楽になる。


 ……うん、どうやら効果に差は無さそうだ。


 結局、実体化した毒草もHPの減りは5分間で1であった。


「良かったぁ。これで安心して売れる」


 とは言え、未だ毒薬でしか試していない為、植物によっては、実体化したものの方が効果が低いなんて事が起こるかもしれない。


 ……あ、そうだ。なら──


 僕は「ちょうど良い」と思い部屋を出ると、メイド長のカイラのもとを訪ねる。


「カイラ。ちょっと良いかな」

「あら、レフト様。いかが致しましたか」

「この前購入した下級薬草ってまだ残ってるかな」

「はい、ございますよ。お使いになりますか?」

「うん。1束で良いから、用意して貰えるかな」

「承知致しました。少々お待ち下さい」


 言ってカイラは保管場所へと向かう。そして数分後、下級薬草を手にしたカイラが戻ってくる。


「ありがとうカイラ」

「とんでもないです。またいつでもお申し付けください」

「いつも助かるよ」


 カイラに笑顔で見送られながら、部屋へ戻る。そしてすぐ様、カイラから貰った市販の下級薬草を食べた。


 ……おぉ、青臭いけど爽やかさもあって毒草よりは食べられるな。


 今後役に立つかもわからない知識を得つつ、咀嚼を繰り返し、ごくりと飲み込んだ所で、ステータスを開く。


 下級薬草は下級ポーションの材料であるが、実はそれだけではあまり回復能力は無い。とは言え、勿論ゼロでは無い為、こうして食べれば──


「お、回復した」


 食べてからおよそ2分後にHPが1回復した。そのまま待っていれば更に2分後に1回復し、合計3回復した所で効果は無くなった。


 続いて実体化した下級薬草を口にする。

 そして同様に待っていると、やはり2分で1回復、合計回復量は3であった。


 ……これでほぼほぼ確定かな。


 レアな植物では試していない為、絶対とは言い切れない。しかし2種類で同様の結果を得られた事から、基本的には実体化した植物の効果は市販のものと何ら変わりないと言って良いだろう。


 ……一歩、いや半歩前進だな。


 僕は悪くない検証結果に満足いった表情でうんと頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る