第12話 図鑑への大量登録

 食事を終え、部屋に戻ればいよいよお待ちかねの登録の時間である。


 僕ははやる気持ちを何とか抑えつつ、今回の購入品を眼前に並べる。


 毒草、痺れ草、月光草、中級薬草、クリスタルフラワーに解毒ポーションが2つ。


「うん」


 ……こうして並べると壮観だなぁ。


 並ぶ植物の数々に、そしてこれらが今から図鑑に並ぶという事実に、僕は感慨深げにうんうんと肯く。


 因みに解毒ポーションは登録後の検証で使う予定であり、今はまだ必要が無い。


 という事でこれは退けておき、植物だけが並んだ所で早速登録していく。


「……よし、まずはこれから」


 言って、解毒ポーションの材料として重宝される毒草の根の部分を掴む。現状ボロ布に包まれている為、直接は触れていない。


 ボロ布を取る。そして剥き出しになった毒草を右手に置くと同時に、念の為にと左手に図鑑を召喚し、そのまま待つこと10秒。


 遂に毒草が光輝いたかと思うと、すぐに霧散し、右手が空になる。

 それと同時に図鑑が輝き出し、その光が収まった時、図鑑内に毒草──正確にはニガグラ草──のページが出来上がっていた。


「……おぉ」


 2度目であるが、この瞬間は本当にワクワクする。なんと言えば良いか、選択肢が広がる感覚というか、能力の……という枕詞が付くが、成長している感覚が得られるのだ。


「よし、次!」


 高揚感の中、僕は同様に痺れ草と月光草を登録した。


 登録の度に、ほんの少しずつではあるが、分厚くなる植物図鑑。このまま増えたらと将来的には心配な部分もあるが、今は図鑑が厚くなっていく様に喜びしかなかった。


 テンションが高いままに次の植物へと視線を向ける。そこには今回の目玉の一つ、中級薬草が置かれている。下級薬草と比較し艶やかであるのが特徴だ。


「さぁ、ここからだ」


 いよいよ中級薬草を登録する時がやってきた。


 値段的には近い月光草が登録できた事から、中級薬草が登録出来ないという事はない筈であるが、それでも何か緊張する。


 ゴクリと唾を飲む。


 ドキドキと鼓動を鳴らしながら、中級薬草を包むボロ布を外し、薬草を右手に乗せる。そして10秒程待つと……今まで同様光になり霧散した後、図鑑が発光。次の瞬間には図鑑に中級薬草の文字が刻まれていた。


「登録できた……」


 これで中級薬草を実体化できる!


 その価値は下級薬草の比ではない。勿論、実体化の際に何かしらの制限がある可能性もゼロではない。しかし、仮にそうであっても、単純な売却額で中級薬草は下級薬草の25倍の値が付く事を考えれば、例え少量であっても実体化できればこの世界にとってかなりの益になると言える。


 ……うぅ、早く実体化してみたい。


 制限はあるのか、消費魔力は幾つなのか……など、実体化して確かめたい事が多々ある。


 しかし、まずは全て登録してからと思うと、僕は本日最後であり、最も高額だった植物、クリスタルフラワーへと目を向ける。


 摘まれてどの程度時間が経過しているのかわからない。が、クリスタルフラワーは、未だにその輝きを失っておらず、キラキラとその美しさを主張している。しかも未だ透明度の低いガラスの瓶に入った状態でだ。


 なら、取り出せば──


「……わぁ」


 取り出した瞬間、その美しさがより顕著なものになる。クリスタルフラワーという名称の通りに、まるでクリスタルの宝石の様に透き通った輝きを放っている。


 クリスタルフラワーと言えば、中級以上のポーションの材料として使用するのが一般的であるが、その宝石の様な美しさから、一部の冒険者は恋人への告白の道具として使用しているという。


 滅多に見つからないそれを、自らの力で必死に見つけ出し、その輝きが絶えない内に大切な人へとプレゼントをする。


 ……確かにこの美しさ、それも命辛々必死に見つけ出したクリスタルフラワーには、告白を成功させるだけの輝きがあるだろうな。


 とそんな事を考えている内に10秒程経過したのか、クリスタルフラワーは光になり霧散した後、問題無く僕の図鑑に登録された。


 ページを捲っていくとクリスタルフラワーの名がしっかりと載っており、勿論他の植物と同様に写真と共に説明文が記載されている。

 更にペラペラとページを捲れば、今回登録した中級薬草、月光草、毒草や痺れ草の写真や説明もしっかり記載されている。


 それを目にする事で、改めて登録できたんだと強く実感する。


 ……登録が終わった。となれば、次はいよいよ……!


 興奮冷めやらぬ中、僕は早速これら植物の実体化と検証に移る事とした。

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