第11話 帰宅と日課

 あの後ヘリオさんと、「もう少し、もう少しだけ一緒に居たいわ!」という事で着いてきたリアトリスさんに送ってもらい帰宅。再会の誓いと共に2人に別れを告げ、僕は家に入った。


 すれ違うメイドさん達と挨拶を交わしつつ、両親の居る仕事場へと向かい、無事戻った事を伝える。


 それが終われば、ここからは貴族の子としての時間、つまりは勉強の時間である。


 学習の内容は非常に多い。


 僕が住むネモフィエラ王国の公用語であるネモフ語の読み書き、算術などといった一般教養的内容から、剣術、魔物学などの実践的内容まで幅広く学ぶ。

 その中には動植物について学ぶ機会もあり、僕が動植物についてそこそこ知識があるのはこれのおかげとも言える。


 ちなみにこれだけ多くの学びを、学園入学前から学べるのは間違いなく貴族の特権である。


 知識というものはあるに越した事は無い。それも日本とは違い常に死と隣り合わせであるこの世界では尚更であり、故に僕はありがたく学びを受けている。


 日本に居た頃を思い出せば、間違いなくここまで勉強に積極的ではなかった。いや、寧ろ勉強を避けて避けて生きてきたと言っても良いだろう。


 ならば何故この世界でこうも勉強に積極的なのかと言われれば、前述の理由の他に、元々日本の記憶を思い出すまでの僕が勤勉だったのもあるが、恐らく一番は楽しいからである。


 日本でろくでもない日々を送っていた頃、幾度となく夢想したファンタジーの世界。その一端とも言える、剣術や魔物の様な生物の知識が得られる……。


 例えばゲームに登場するモンスターや武器の能力は苦も無く、寧ろ楽しく記憶出来る様に、今得られる学びには苦が無いのである。


 とは言ってもそれは全てでは無く、例外的に退屈な内容もある。


 それが算術である。


 というのも現在10歳だからというのもあるが、日本と比べるとかなりレベルが低い。転生前の僕自身が特別勉強ができた訳では無く、寧ろあまり出来なかった方ではあるが、それでも流石に中学までの内容ならば理解している。

 そして今学んでいる算術の内容は言うならば小学校低学年レベル。今の僕からすればかなり簡単であり、故につまらない。


 しかしだからといってサボったりは、お母様とお父様に悪いのでせず、例え退屈な算術であっても僕は真面目に受ける。


 と、そんなこんなで勉強をしていればあっという間に時間は過ぎ、時刻は18時。夕食の時間となった。


 ダイニングルームへ向かうと、既にお父様達の姿があった。僕は少々急いで席につくと、家族揃って食事を開始する。


 この世界では基本1日朝晩の2食である。それも一般的に裕福な家庭の場合であり、平民の中には基本1日1食の者も居るという。


 日本に居た頃の記憶を思い出した直後は、この事実に少し驚いたりもしたが、過ごす内にその感情もすぐに消え去った。この世界で生きてきた僕の記憶があったからというのもあるが、1番は慣れたというのが大きい。


 結局人間どの様な環境に置かれても何だかんだ適応するのだろう。それが仮に逃げ出してしまいたくなる様な、劣悪過ぎる環境で無い限り。


 と、ここでお父様が口を開く。


「レフト、今日はどんな1日だった?」


「聞いてくださいお父様、お母様。実は──」


 こうして食事を摂りながら、僕たちは家族の時間を過ごす。


 食事中に会話とはいかがなものかと思う人も居るかもしれないが、この世界ではこれが当たり前である。日常の中で家族が集まれる機会が食事の時間しかないのだ。


 僕はお父様とお母様に今日の出来事を包み隠さず全てを話した。


 冒険者ギルドに登録した事、ぼったくられそうになった事、そしてそこをヘリオさんに助けられ、成り行きで火竜の一撃の皆さんのミーティングに参加した事。


 中級薬草の話をした際も驚いていたが、火竜の一撃の皆さんの話をした時の2人の驚きようといったら、それはそれはかなりのものであった。

 貴族という立場であるお父様達が、酷く驚いてしまう程に、火竜の一撃という名は広く知れ渡っているのである。


 そんな驚愕の表情を浮かべる2人であったが、やはりその奥底にはどこか不安の感情が見え隠れしていた。

 しかし話を進める内に、話をする僕が楽しげだったからか、それとも1人で街に行く事に少なからず不安を覚えていた中で、僕に力のある知り合いが出来たからか。とにかく後半の方は、包み込んでくれる様な優しい笑顔で僕の話を聞いてくれていた。


 ……思い起こすと、たかが3時間の内容とは思えない程に濃い1日だったなぁ。


 お父様達に話しながらそう思いつつ、僕は唯一の家族の時間を楽しんだ。

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